雨村梨香 ②

 花月が、梨香に避けられていると感じたのは、ちょうど一週間前。梨香が部活を辞めた頃からだと言う。


 以前までは、こまめに連絡を取り合っていたという。内容は主に、昼食の待ち合わせ場所を決めたり、講義でわからないことを相談し合うというのがほとんど。稀に、映画館やカラオケなどの娯楽施設に行く約束もしていた。メッセージを送ると、一時間以内には返信をくれるのがつねだったらしい。


 ところが、梨香が部活を辞めてからは、これまでのように連絡を取り合えなくなった。音信不通になったわけではない。メッセージを送ったのに半日経っても既読がつかず、ご飯や遊びに誘っても、一回も色好いろよい返事をもらっていない。素気そっけ無い態度になった。


 花月は自身の発言を裏付けるように、梨香との連絡のやり取りを俺に見せてくれた。梨香の了解もなしに、プライベートな情報を赤の他人である俺に公開していいのか。そんな何とも言えない不安を抱えつつ。


 花月の言う通り、ここ一週間と、一週間前のメッセージ履歴の温度差は明らかだった。以前の梨香とのやり取りは、ユーモアのある文章に表情豊かな顔文字が付き、何気ない連絡一つでも和む内容だった。かわいらしい犬や猫といった動物のスタンプも多用されていた。


 しかし、ここ最近のやり取りは、まるでスマホの持ち主が変わったように冷淡なものだった。梨香から返ってくるのは『うん』、『無理』、『そう』といった、無味乾燥の一言だけの返事ばかり。顔文字もスタンプもない。花月と連絡を取り合うのが億劫だと、言外にはっきり匂わせていた。


 なぜ梨香は、人が変わったように杜撰で無愛想な返事ばかりを寄越すようになったのか? 梨香の心境がわからないことが、花月の悩みだった。


 花月が梨香に、顰蹙ひんしゅくを買うような行いをしていれば、冷たい態度を取られるのはまだ納得できる。だが、花月は何もしていないと言う。

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