天宮満 ⑧
三限目に続き、四限目の講義も南場花月と一緒だった。途中まで一緒に、八号館の教室へ向かう。
山のような雲が陽を隠し、控えめに光が差し込んでいた
俺と足並みを揃えて歩いていた花月に言った。
「花月、先に教室に行っといて。俺はトイレに寄って行くから」
次の講義は、花月と別々の席で受けるつもりだった。確か花月は、次の講義でいつもボランティア部の連中と集まっていた。俺はそのグループに加わる気など毛頭なかった。これ以上新しい人間関係を築きたくないし、すでに完成された輪の中に加わるのは居心地が悪い。
だから花月と共に教室に入る前に、逃げるように便所へ足を運ぼうとした。
「了解。またあとで」
俺の意図に、花月は全く気づく様子がなかった。教室で同席するための約束を自然と口にしてきた。これはまずい。すでに背を向けて教室に向かおうとする彼女に声をかける。
「あぁ、ちょっと待った花月。四限目の講義、いつもボランティア部の人たちと受けてるんだろ」
「うん。皆、人が良いから公大ともすぐ打ち解けられるよ」
花月は俺のことを友達に紹介するつもりでいたが、生憎、俺としては仲良くなる気など
俺は言い回しに注意して、花月の誘い断ろうとした。団体行動が苦手だとか、人見知りをするとか、そんな感情に訴えてはダメだ。正論を重んじる相手には、正論を説かないと。
「次の講義は俺一人で受けたい。先生の話が興味深くて、学びたかった勉強やから。誰かといたら気が散るんだ。だから、一人で講義を受けさして欲しい」
言った後で、勉強熱心で融通の利かない、付き合いの悪そうな人間が吐く言い訳だと思った。だけど、筋が通っていて、相手の
さて、花月の返答は?
「そっかぁ、それだったら仕方ない。わかった、勉強頑張って」
上手く伝えることができたからだろう。花月は特に残念がるわけでもなく、快く了承してくれた。
俺は心の中で喜びの拳をつくる。もちろん、表面的には申し訳なさそうに「ごめん、付き合い悪くてと」、花月の気を損ねないように取り繕う。
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