天宮満 ②
俺は昼飯が入ったビニール袋を提げて、八号館の空き教室を訪れた。ここは、食堂のように騒がしくなく、かといって、落ち着かないほど静かでもなかった。少数のグループで昼食を取っている学生が集まる空間だった。俺のように、一人で黙々と箸を進めている人もいる。
教室の中央辺りの空いていた席に座る。弁当とペットボトルが入ったビニール袋を木製の机に置いた。
その時、嫌な予感がした。
ビニール袋を机に置いた時の感触が、妙にやわらかった。物を置いたという感覚がなく、まるで水の入った袋を置いたように。
焦って袋の中を覗くと、ウーロン茶が漏れていた。透明なはずのビニール袋は、底の方が茶色く染まっていた。
俺は慌てて、漏水の原因を突き止める。考えられるのは、ペットボトルの蓋が緩んでいたか、穴が開いたかのどちらかだ。普通ではありえないが……。
ビニール袋からウーロン茶がこぼれないように、べちゃべちゃになっていたペットボトルの口を摘まみ上げる。ウーロン茶が漏れた原因は、思った通り蓋の締まりが緩かったからだ。俺はすぐに締め直した。
袋の中に入っていた弁当は、言わずもがなの始末になっていた。幸い、弁当の容器だけが濡れるだけで済んだので、中身は無事だった。
こんな理不尽な目に遭うのは、あれのせいしかない。俺はすぐさまスマホを取り出し、画面を点けた。やはり、末治英雄からのメッセージが届いていた。
『あなたに恩が着せられました』
心当たりはある。それはもう、絶対とも言える心当たりが。
俺は舌打ちをした。なぜあの時、無理にでも金髪の男にお金を払わなかったと。
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