第52話 グストーのお手軽クッキング♪

 これは、そう、店長と奥方が帰ってくる二日前のことだった。

 おれはいつものように宿泊客用の朝食が終わったあと厨房に入り、在庫チェックやランチの仕込み指示を終え、料理研究を始めた。一足早くヒューレが戻ってきたのは心強い。なにせおれはちょいとスイーツ作りが苦手だからな。

 なぜかって?

 おそらくだが、おれたちヴルング族は他の種族に比べて甘味を感じる味覚が発達していないからだと思われる。辛味に関しちゃあ世界一だと思うがな!

 決しておれが味音痴だとかいうわけじゃねえぞ!


 さて、ヒューレがいて心強く思うのはもちろん今日も今日とてスイーツ作りをやるからだ。奥方が留守とはいえ、精進を怠るとマジで命が危ういからな……

 それに料理人たるもの、いかなる料理でも完璧に作れねば厨房でふんぞり返る資格はない! 厨房こそわが城、わが天下なり!

 それだけじゃあない。

 なにせ今この厨房には米と小豆がある!

 そう!

 早くも海陽のスイーツ、あんこ餅が作れるのだッ!

 いやあ、発注してすぐ届いたのには驚いたぜ。米はシェランの商会からすぐに仕入れられたからよかったものの、なんでもたまたま小豆を扱ってる商会の人間が新規ルート開拓のために近くまできていて、たまたまそいつの知り合いがゾフォールと取引をしていたお陰で、サンプルとして抱えていた小豆をその場で買って最速での仕入れが可能になったんだとか。

 そういうわけで早速、おれはサロとヒューレとともにあんこ餅作りを開始した。



♪グストーのお手軽クッキング♪


★あんこ餅

○材料

 ◇餅

   米 今回はお試しなのでとりあえず3人前で450g

   水 米と同量かやや多くても可

   砂糖 大さじ1

   塩 ひとつまみ

 ◇あんこ

   小豆 100g

   水 適宜適量

   砂糖 125~150g


○作り方

 まず、米を軽く洗って1時間ほど水に浸しておく。その間にあんこ作りだ!


 小豆もまずは軽く洗って鍋に入れ、きっちり小豆が浸るように1ℓほど水を入れる。

 そして鍋に火をかけグツグツと強火で煮る! 沸騰したら中火に落とし、さらに5分ほど煮るぞ。

 そうしたらさし水として最初と同じくらいかそれよりは少し少ないくらいの水を入れ、またしっかり沸騰するまで強火、沸騰したら中火で5分だ! このあたりで小豆が割れてくるはずだぞ。


 さて、中火で5分ほど煮たらいったん火をとめ、蓋をしてから30分ほど蒸らす。こうすることで豆のしわが伸び、全体が均一的に柔らかくなるのだ。

 蒸らしたら小豆をザルにあげ、煮汁を捨てる。


 さあ、ここからが大事だ!

 ……その前に、このあたりで米を炊くのを忘れないようにな! 砂糖と塩を入れるのも忘れるな!


 では気を取り直して小豆を鍋に戻しみたび水を投入するが、このとき水は小豆の倍から3倍程度でいい。そしてやはり沸騰するまでは強火でいき、沸騰したら今度は弱火だ!

 いいか、この火加減が大事だ。水面が波立たない程度から小豆が軽く踊る程度の弱火だぞ、火力が強いと小豆がバンバン割れてしまうからな!

 しかしずっと煮ていると水が足りなくなる。だいたい小豆が水面に浮かんでくるようになるたびに100mlずつさし水を加え、ときどき灰汁を取りながら蓋をせずに煮続けるのだ!

 目安はそうだな、すべての小豆が柔らかくなり綺麗に割れるまでだ。面倒なら一番色が濃くて硬そうな小豆が指で簡単に潰れるくらいでも構わんぞ。ただしそのあとまた30分ほど蒸らす必要がある。だから時間的にはどちらでも大差はないな。


 すべての小豆が柔らかくなって綺麗に割れたら火をとめ、鍋に水を入れて冷やしていくが、一気に冷やしてはダメだ! 少しずつ、ゆっくりとだ。

 そうして鍋の中の水が完全に入れ替わり水が透明になるまで冷やしたら、小豆をザルにあげろ。冷やし方が正しければ小豆は少し硬さを取り戻しているはずだ。そしてそのまま自然に水切りをする。


 水切りが終わればようやく本番! 砂糖の投入だ!

 まずは小豆を鍋に戻し、その上から砂糖を入れ小豆を潰さないよう気をつけながらヘラで絡み合うように混ぜる。

 全体的に混ざり合ったら中火にかけ、ときどき混ぜながら様子を見る。充分熱がとおったと思ったら気持ち火力を落とすのがポイントだな。

 ただし、このとき混ぜ方に注意だ。

 回すようにではなく、手前から奥へと鍋の底をかくようにして混ぜていくのだ。

 そして砂糖を加えて熱した小豆は跳ねやすいので火傷にも注意すること。

 煮込んでいけばだんだん小豆から水分が出てくることだろう。そうしたらもう一息だぞ!

 火力は弱火から中火を保ったまま、適度に混ぜながら水分がなくなるまで煮続けるべしッ!


 煮たか? しっかり煮込んだか!?

 水分は飛んだな?

 ならば潰せッ!

 ようこそあんこよおいでませと感謝の気持ちを込めて小豆をしっかり潰すんだッ!

 するとどうだ……

 立派な粒あんができただろう?


 これであんこは完成したな。

 しかし安心するのはまだ早い。できたてホヤホヤのあんこは当然熱いから、小分けにして粗熱を取る必要がある。

 その間にやるべきことがあるな?

 そう、餅作りだ!

 炊き上がった米は数分蒸らしてから擂り粉木や延し棒などで潰すのだ!

 このときの潰し加減はおそらくそれぞれ好みがあるだろうから自由にするといい。

 そうこうしているうちに餅もあんこも粗熱が取れてきたことだろう。


 それではあんこ餅を完成させようじゃねえか!

 あんこ40gほどを丸く平べったくして台に並べ、その上に50gほどの餅を丸めて置き、あんこで餅を包むように延ばしていけば、ほうら完成だ!


 食えッ!



「ふゥ~……できたぜ」

 ジョーと翁から聞いた話だけで初挑戦のわりにはなかなか巧くいったんじゃねえか?

「これがあんこ餅ですか……」

「見た目はなにやら、少々不気味ですね……」

 黒くてブツブツした物体だからな、気持ちはわからんでもない。しかし匂いから察するに、間違いなく未知の料理、おれの好奇心を刺激してくれる代物であることは疑いない!

「よし、食ってみるか」

 サロとヒューレも意を決してひとつ掴み、そいつを見据える。

「いざッ!」

 おれは大口を開けてあんこ餅を迎え入れた。

「…………」

 三人ともしばらく無言で咀嚼を続ける。

 このときおれがなにを思っていたかというと、

「しまった、甘さが足りねえ!」

 だった。

 ついつい奥方の味覚を基準に考えちまう癖がついちまったぜ。

「どう思う?」

 おれは正直、ひとつ気になっている点がある。

 概ね聞いたとおりの出来ではあるんだが……

「なんとも不思議ですね、見た目といい、匂いといい、味といい……」

「ええ、でもぼくはこれ、けっこう好きです」

「そういやおまえもあまり甘すぎるのは苦手なんだったな」

「しかしわれわれではこれが正解なのかどうか判断できません。ジョーどのは先ほど鍛冶屋に行かれましたから、翁どのに試食をお願いしてはどうでしょう?」

「よし、そうするか」

 おれたちは早速試食会の準備を始めた。

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