第16話 紐の長さは寿命の長さ 中編
……名を轟かせようという意気込みはケツの痛さで吹き飛んじまった。
馬車なんてのは一時間が限度だな。それ以上乗るとケツが痛くてしょうがねえ。お陰で後半は四人で馬と競争しちまったぜ。
まあなんにせよ、無事バリザードに到着できたからよしとしようじゃねえか。
「けっこう賑やかですねえ」
おれの腹心ギジェルモがあたりを見回しながらおれと同じ感想を呟いた。
ここは中央広場で一番栄えてる場所らしい。交差点付近はすべてなんらかの商店で、ここがついこの間まで暗黒の町だったとは思わせないほどの活気があった。
「あれが噂の
交差点の一角を占める赤い屋根の店。しかも五階建てで他のどの建物よりもでかいから嫌でも目につくわな、これは。
「わざわざ看板が立ってやがる。冒険者ギルドは南だとよ」
宿は後回しにして、おれは先に冒険者ギルドに顔を出すことにした。宿は別にどこでもいいし、冒険者にとってはその町の冒険者がどの程度のレベルでギルドにどの程度の力があるのかを知るほうが重要なんでな。
冒険者が集まり出したのはつい最近のことだから、半端な連中が調子こく前におれが行ってビシッとシメとかにゃあならん。
そういうわけでギルドを探すと、意外に小さな建物だった。
それも大通りから外れて道一本入った、小汚ねえ路地の中。
周りは安宿と安酒場で、娼婦の姿がちらほらと……
「マジかよ」
子分どもも呆れてやがる。
そりゃそうだぜ、まさかこんなに扱いが小さいとは思わなかった。一掃されたとはいえ、もとは商工会の手下どもの巣窟だったって聞いたぞ、権力に物いわせてもっと派手にドーンと構えてるもんだと想像するのが自然ってモンだろうがよ。
しかし、これでわかったぜ。
「兄貴」
ギジェルモも同じ考えのようだ、悪い笑みが隠し切れてねえぜ?
こりゃ楽勝だ。
他の冒険者が集まってくる前に、とっととここを乗っ取っちまおう。
やりすぎれば血塗れ乙女亭の連中に目をつけられちまうからほどほどにだがな。ヴァンパイアまで従えるようなやつらに堂々と刃向うのは馬鹿のやることだ。
だいたい町の支配者が変わってもギルドの扱いが変わってねえってことは、やつらはあまり冒険者に興味がないってこった。ということは、やつらが積極的にやりたがらねえ冒険者の仕切りをおれたちがやってやれば、感謝こそされても文句はいわれねえだろうよ。
「よし、行くぞおまえら」
三人ともビシッと背筋を伸ばし、威圧感を剥き出しでおれに続いた。
中も思ったとおりだった。
綺麗に整えられてはいるがほとんど人はおらず、何人かが机を囲んで談笑してやがる。しかも受付であろうやつまでそこに交じってやがった。
「おっ、新しいのがきたぞ」
輪の中の一人、茶髪を前だけおっ立てた図体のでかい男が受付らしき男に促したことでそいつはおれたちの存在に気づき、慌ててカウンターへ入った。
まったくなっちゃいねえぜ。
「ギルド登録ですね。よその登録証はおもちで?」
「ほらよ」
おれは西にあるウルキアガ王国のギルド証を見せてやった。
ギルド証ってのは冒険者が冒険者として活動するために必要な身分証明書のようなもんで、形式は国によって違う。おれの生まれた国はド田舎だったもんでまだ木札を使ってたが、金属板を使うところもあるし、紙のところもある。まあ紙が普通だな。
確かこの国のギルド証はウルキアガと同じ紙だったはずだから、今もってるやつに新しく判子を押すだけで更新できるはずだ。
しかし国を跨いだときに形式が合わないこともあるわけで、そのときはその国で新しいギルド証に作り変えなきゃならねえ。こんなもんがなくても活動はできるが、実際のところ冒険者の収入源ってのはほとんどが民間人や自治体からの依頼だからな、そいつを受けるためにはギルド証がなくちゃあ話にならねえからみんなギルドに登録するわけだ。
「へえ、ウルキアガから。それじゃあこの紙に記入をお願いします」
「へいへい」
ギルドの登録書ってのは、記入項目がとにかく少ない。名前と、出身地と、わかるなら生年月日と、あとはパーティーで所属する場合はパーティー名だけだ。
だからおれは四人分の名前とパーティー名だけ書いて突き返してやった。規約だなんだと色々長ったらしい説明の書いてある紙も一緒に渡されたが、そんなもんをちゃんと読むやつなんざいるのかね。見たことねえぜ。
「ええと、代表者がドルグ・ゴールドレッドさんで、パーティー名がゴールドレッド団、ですね」
こいつはよくある間違いだ。
だからおれは舌を鳴らしていってやった。
「字面は同じだが、おれの名前はゴルドレッド。パーティー名はゴールドレッドだ。シャレの効いたイカす名前だろう?」
「はあ……」
チッ、面白くねえやつだ。
たるんだ体制とともに説教でもしてやろうかと思ったら、うしろから声をかけられた。
「あんたら、ウルキアガからだって?」
向こうの机で輪の中心になっていた茶髪の男だった。
こいつもこいつでたるんでそうな表情をしているが、雰囲気からするとそれなりにはできるようだな。これぐらいのことは一目見てわからなきゃ一人前の冒険者とはいえねえ。
「おうよ、それがどうかしたか」
「いやあ、そっちから流れてきたやつはあんたらが初めてだったんでな。おれもここにくるまで色々回ったがまだウルキアガには行ったことがねえんだ。どうだい、宿がまだなら紹介するから飲みながら冒険譚でも聞かせてくんねえか?」
ほう……なかなかわかるやつだ。
さてはおれからほとばしるベテランオーラを鋭く嗅ぎ取ってすり寄りにきたな。
そういう処世術が身についてるのはたいしたもんだが、あんまりにも有象無象を引き寄せちまうようならおれのほうでも考えんといかんな。
「おれたちは血塗れ乙女亭に泊まろうと思ってたんだが、顔は利くのか?」
「おう、ちょうどいい、おれの家みてえなもんだ。さ、行こうぜ!」
ふん、やつらの犬か。
どうせやつらが町で暴れたときにも素早くすり寄って安全を保障してもらう代わりに手先になったクチだろう。
だがそういうやつと知り合っておけばこっちにも情報が入ってくるからな、ここは利用させてもらうとするか。
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