第6話 狐でねまきな女性

「え、ちょっと、何があったんです?」

慌てるその女性に落ち着くよう諭しながら、俺は何があったのか聞いた。

「お散歩してたら、恐ろしいモンスターに襲われて、逃げてきたんです!」と、

落ち着きを取り戻した女性が言った。

「恐ろしいモンスター・・・?」

女性の逃げてきた方向を見てみるが、何もいない。

「よかった~逃げ切れたみたい。」と女性は胸を撫で下ろす。

しかし、俺にはどうしても気になっていることがあった。女性の格好だ。

その格好はどうみても・・・と考えながら眺めていたら、

「わたし、ソフィー・ボアシェ。よろしくお願いします。」と

自己紹介をしてきたので、俺も「俺は酒出さかいで 真久まさひさだ。よろしく。」と返す。


聞くなら今しかない。


「えっと、ソフィー・ボアシェさん?」

「あ、ソフィーでいいですよ~」

「じゃあ、ソフィー。君の格好、それって・・・パジャマだよな?

あと、尻尾も生えてるみたいだけど、君は一体・・・?」

「わたしは妖狐族なのです~そしてこの服は、

わたしのお仕事の『制服』なんですよー可愛いでしょ?」

そう言って目の前でくるんと回ってみせるソフィー。

なるほど、ゲームだからいるのは人間だけとは限らないか。

そして、やっぱりか。やっぱりパジャマだったか。しかし制服って・・・。

「・・・君の仕事は寝具しんぐの実演販売か何かなのか?」と聞くと。

「Sing・・・?違いますよ~この世界の案内人です!」と

ソフィーは自信満々に答えた。

「案内人の制服が『パジャマ』!?

・・・君が勝手にそう言ってるとかじゃなくて?」

「本当ですよ!ここの偉い人がそう決めてるんです!」と

ソフィーはムッとしながら答えた。

偉い人というのは恐らくこの世界ビスワールドを作った研究者のことだろう。

パジャマを制服にするとか・・・何を考えているんだ。

それはそれとして、帰る方法を聞かなくては。

案内人というからには、きっと知っているはずだ。

「ソフィー、この世界ビスワールドから帰るにはどう・・・」と言いかけた瞬間。


「真久さん後ろ!」


ソフィーの声でバッと振り返ると、背後には小さなモンスターがいた。


「げるるる・・・」

背後にいたのはねちょねちょの、ゲル状の身体。RPGではおなじみの敵だ。

見ただけでわかる。こいつは雑魚敵だ。

ソフィーもそれをわかっているらしく、

「さっきのじゃなくてよかった~」と安心した様子だ。


「げるるる!」

雑魚敵とはいえ、相手はやる気だ。ならばこちらもやるしかない。

「いよいよこの刀の出番か・・・いくぜ!」

素早く鞘から刀身を引き抜き、斬りつける。

以前プレイしたゲームで見た、スラッシュという剣技だ。

これが当たれば敵は真っ二つに・・・。


ぷにゅ。

「げる?」


―あれ?おかしいな。

「浅かったか・・・?もう一度!」

さっきより力を込めて、全力で敵を切りつける!


ぷにゅぅん!


先程よりも強い力で押し返されただけで、

擦り傷の一つすらついていない。

「なんでだ!今の全力で斬りつけたつもりだったのに!

ソフィー!こいつこんなに強い敵なのか!?」と言いながら俺はソフィーを見る。

ソフィーは驚いた表情のまま固まっていた。

「おい、どうした!」俺が大きな声で呼びかけると、我に返ったソフィーは言った。

真久まさひさ、まさかあなたのジョブ・・・ヘタレイヤーなの・・・!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る