第24話 ぬくもりのバトン

 母に抱きしめられ、気づけば朝になっていた。

 …ひろ。

 そうだ!ひろ!あんな危ないところに置いてきちゃった…。


 目を覚ました母が、私をなでてくれる。

 「怖い目にあったのね。大丈夫。大丈夫。」

 「ママ…。」


 「大丈夫。大丈夫。」

 「ひろを…。」

 「24時間いけないんでしょ。まずは千代が、いつもの千代に戻るまで、おかーさん一緒にいてあげるから。」

 「…ママ。」


 その後も、死の恐怖を思い出しては、母にすがり付いた。

 お好み焼きを作ってくれて、食べたら少しずつ元気が出てきた。


 「もう、大丈夫。」

 「うん。いつもの千代ね。」


 母は台所に行き、みんなの分の夕飯を作り始めた。

 手の届かない母が諦めていないのに、私が諦められない。


 こわい…。でも、弟を失うのはもっとこわい!


 「ママ。お願いがあるの。」

 「うん。なんでも言って!」


 19時。

 私の椅子の下に、魔方陣が現れる。

 【パッシブ】・弟感知

 【肉体条項】・弟近接時、ステータス +5倍

 00:30:59


 振り返る。

 「ひろ!」

 「ちよねー!」


 【肉体条項】・弟接触時、ステータス +10倍、姉弟回復


 「大丈夫だった?!」

 「だいじょうぶ!ちよねーけがなーい?いたくなーい?」

 「ねーねは平気よ。」

 「ちよねー。足ある?お化けでも、お化けでも、ちよねーなら、こわくないよ!」

 「お化けじゃないよ。ちゃんと、いつものねーねだよ!」


 ぎゅー


 「びっくりさせてんじゃねーよ。」

 「いっぱい心配してただー。」

 「みんなで動くなって叫んでたのに、ウエストワームに食べられたときは、ダメだと思ったの。」


 そう叫んでたのかー。簡単な言葉くらいは、覚えといたほうがいいかも。


 「みんなも、無事でよかった~。」

 「ゴブリンも大混乱だったしな、とっとと逃げたぜ。ん?なんか、おめぇいつもと違う匂いするな?」


 くんくん

 「あー!ママの匂いだー!」

 「せいかーい!ママの分もひろを抱きしめてあげようと、ママの服を着てきたのよ。」ぎゅー


 「お!飯のやつの匂いか!じゃー。飯にしようぜ!」

 「ロッサちゃん!飯のやつは、ママにひどいよー。」

 「わりぃ。わりぃ。飯にしようぜ!」


 【肉体条項】・弟近接時、ステータス +5倍 DOWNダウン


 ドッタ君に夕食を入れた予備のリュックを渡して、昨日渡したリュックを受け取る。

 「ひろ。これ、おかーさんからの交換日記。これで、おかーさんとお話できるよ!」

 「ほんと!やったー!」

 「読めない字とかあったら、ねーね読んであげるよ。」


 「だいじょうぶ!あとで、あとで読むの!」

 「そう?じゃ、ねーね戻してね。せっかく溜まった時間だから大切に使いたいの。」

 「…。うん!またね!」


 弟が大事そうに交換日記を抱えている。

 母が心配そうに私を見ている。


 「昨日から着っぱなしの服だから、くさいとか言われなかった?やっぱり、洗濯した服にしてもらえばよかった。」


 母は乙女みたいな心配をしていた。

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