第19話 小さな可能性

 父が作ってくれたホットミルクを飲み、少し落ち着いてきた。

 「とーさん。ありがとう。」

 「ああ。しかし、何があったんだ、竿も先に付けた包丁もボロボロじゃないか…。」

 気づかなかった。これで、何でもないって、バカですか私は。


 「包丁も竿も、替えを買ってあるが、ちゃんとした武器がほしいな。ん?」

 「どうしたの?とーさん。」

 「いや。包丁の歯こぼれに何か挟まっている。砂利?黒いガラスみたいだ。」

 「それ。きっと、魔石よ。向こうの生き物には、それが入ってるんだって。」

 「向こうから、持ってこれたってことか?」

 「そうだと思うけど?」


 「「…。」」


 「ひろを向こうから、取り戻せるかもしれないな。」

 「ど!どういうこと!」


 「落ち着きなさい。ただ、向こうから持ってこれた。たとえ砂利でも、持ってこれた。少しづつ大きいものや、違うもので試していけば…。いや、安易すぎるな。」

 「そんなことないよ!ちっちゃいけど、初めての可能性ね!」

 「落ち着きなさい。かーさんが起きちゃうだろ。」

 「ごめんなさい。ひろが戻ってくるかと思ったら、、、」


 その後、父と話をしながら、ノートパソコンに、持ってこれたもの、持ってこれなかったもの、持っていけるもの、持っていけないものでリストを作成し眠りについた。


 目を覚ますと、母が台所で朝食を作っている。

 「おはよう。大丈夫?」

 「おはよう。心配かけちゃって、ごめんね。」

 「とーさんから、話を聞いたわよ。ひろちゃん取り戻すまでは、おかーさん負けないんだから!」

 「そうだ。替えの油、背中のリュックに入れちゃったから。」


 私の足下に、魔方陣が現れる。


 【パッシブ】・弟感知

 【肉体条項】・弟近接時、ステータス +5倍

 00:05:59


 「おっはよー!」

 「ちよねー。おはよ!」

 「早いね。まだ、朝食用意できてないわよ。なにかあった?」

 「ロッサちゃんが、ちよねーにもお裾分だって。」


 見ると昨日の蜘蛛が山積みになっている。

 「へへへ。いつも食いもん貰って、ばっかだからよ。」

 「まさか…。」

 ぷるぷると震える指で、山積みの蜘蛛を指す。


 「ああ!うまいんだぜ!ほくほくじゅるりってな!」

 「食べちゃダメ!!!!!!!」

 「「えぇーーー???!」」

 「何でだー?うまいだー。」

 「そうだ!うめぇ!」

 「何でも!絶対にダメ!」

 気持ち悪いからに決まってるでしょ!ひろが真似して食べたらどうするのよ!


 「わーたよ。食べねぇよ。じゃ、朝食できた頃に呼ぶって事で。」


 「「…。」」


 「帰る前に全部燃やします。」


 「な!きたねぇ!」

 「ほら!食べる気じゃない!」

 「千代。燃やすほど燃料ないの。」

 「ルルちゃん。油持ってきたから、試してみて。」


 リュックから油を取り出し、ルルちゃんに渡す。


 ≪種火パイロット

 ぼわり。めらめらめら。


 次々に蜘蛛を燃やしていく。


 「これ。前のより使いやすいの。」

 「よかった。」

 「よくねぇ・・・俺の飯・・・」

 「だー・・・」


 「しょうがないわね。お土産の温泉饅頭を一人、2個づつ置いていくから。それじゃ、ひろ。戻して。」

 「飯が、パンくずに変わりやがった・・・」


 母がそわそわしている。

 「大丈夫?大丈夫?」

 「聞いてよ!ママ!何を食べようとしてたと思う!」

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