第17話 父

 母を寝室に連れて行った父が、居間に戻ってくる。

 「子供にみっともない所を見せたな。ただ、かーさんも一杯一杯なんだ。わかってくれ。」

 「う。うん。」


 「写真見るまで、俺の考えは甘かったよ。何とかなると思ってた。」

 「な!何とかなるよ!」


 私の睨んだ目を、父が優しく受けとめる。


 「希望は一緒だ。ひろを救いたい!だが、そうなるとは言えない。」

 「…。」

 「いい機会だ。お前のことも、少し話しておこう。」

 「私のこと?」

 「ああ。真面目な話だ。」


 父は、真剣な表情でゆっくりと話を始める。


 「すまんが、高校は退学してもらおうと思ってる。」

 「わ、わかってるよ。こんなんじゃ、行けないもの。」

 覚悟してたけど、改めて言われると辛い。でも、替えの携帯にしてから、友達ともまともに連絡していない。


 「今年の初め、地方人口権利法ちほうじんこうけんりほうが施行されたのは知ってるな?」

 「うん。都会に住む人は、年に3ヶ月は地方に住まないといけないって、法律。」

 「そうだ。だから、秋から冬にかけて、おばーちゃんのところに住む計画をしていた。」

 「秋?もう、直ぐにじゃない…。」

 「いや。計画していたら、こんなことになってな。家を離れられない。」

 「だ、大丈夫?法律破って?」

 「法律は破らない。税金を12.5%多く払えば住み続けることはできるんだ。」

 「お金かかるんでしょ?大丈夫、私も行くよ。」

 「それは無理だ。考えてもみろ、車や電車での移動中にひろに呼ばれたら、今度、どこに戻ってくるんだ?都合よく車の中か?それとも、呼ばれたタイミングの車道の真ん中か?」

 「そ、それは…。」


 「いや。そういうことを言いたかったんじゃないんだ。ただ、家に千代を縛り付けてしまう。一生をひろに捧げろとは言わない。せめて、せめて、ひろが16歳になるまでは頼む!この通りだ。」


 父が、テーブルにつくくらい頭を下げる。


 「ちょ、やめてよ!私にだって、可愛い弟よ!16歳とは言わずに一生だって!」

 「ダメだ。千代。お前も俺の子だ。お前も幸せになってくれ。」


 「とーさん…。」


 「話は、そんなところだ。明日も早くから、ひろに呼ばれるんだろ?俺は寝るから、千代も寝ろ。」


 「うん。」


 「おやすみ。」

 「おやすみなさい。」


 将来なんて、少しも考えてなかっ…。

 私の椅子の下に、魔方陣が現れる。

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