第12話 涙

 「ひろがぁ~、ひろがぁ~、ぁぁに落ちちゃったぁ~。」うわ~ん!

 「泣いてても、わからないわ。おかーさんに説明して頂戴ちょうだい。」


 「でね。でね。ぐすん。なのぉ~。」うわ~ん!

 「はいはい。崖は暗くて、高さわからなかったんでしょ?低いかもしれないじゃない。いえ!低いわ!」

 「でもでも、馬車が~。」うわ~ん!

 「とりあえず、救急箱とか用意しておくから、ネットで手当の方法を少し見ておきなさい。呼ばれたら、千代だけが頼りなんだから!おねーちゃんでしょ!」

 「うぅ、うん。」ぐずん


 夕飯は喉を通らなく、その夜は眠れない。

 翌朝、弟からの呼び出しはなく、朝食も喉を通らない。

 昼、ただ時間だけが刻々と過ぎていく。

 夕方、母が作ってくれたスープを少し飲む。

 夜、うつらうつらと微かに眠っていた。

 朝、毛布にくるまっていた私の下に、魔方陣が現れる。


 【パッシブ】・弟感知

 【肉体条項】・弟近接時、ステータス  +5倍

 【精神条項】・弟衰弱時、ステータス+100倍

 00:41:59


 振り返ると四畳半ほどの洞穴に、寝袋とか毛布で包まれた、顔じゅうがアザと傷だらけの弟が虫の息で、私を見つめている。

 「ち、ちよね…。良かった怪我ない…。」

 私に向かって伸ばす腕も、傷だらけだ。

 魔法なのだろうか、大きい傷にもかかわらず、血は止まっている。

 女子高生に、こんなひどい症状の手当なんてできるわけがない。

 ただ、ただ、ゆっくりと、弟の手を握りしめる。


 【肉体条項】・弟接触時、ステータス +10倍、姉弟回復


 「あっ!」

 私は全身で弟を抱きしめ、傷に手を当てる。

 少しづつ、少しづつ、弟の顔色が良くなり、弟が眠りにつく。


 【精神条項】LOSTロスト

 00:13:22


 「す、衰弱が消えたってことは、良くなったのよね?」

 弟の寝息は、穏やかに見える。

 「大丈夫だよ。回復してる。」

 「ルルちゃん。」

 あまりの事で気づかなかったが、周りでルルちゃん、ロッサちゃん、ドッタ君がじっと見守ってくれている。

 みんなも、かなりの傷を負っている。

 「そうだ!持ってきた荷物の中に救急箱と食事があるから、ドッタ君だして。」


 ガサゴソと救急箱と食事を出してくれる。

 「救急箱の薬が、何か効くといいんだけど…。ここまでひどいと。消毒は魔法で必要ない。傷は魔法でふさがってるのよね。傷薬も役に立たない。」

 「千代。薬みてもぃぃ?」

 「ええ。いいけど、こっちの世界の字だけど読める?」

 「≪調合≫スキルがあるの。」


 そう言って、救急箱から、傷薬と湿布と目薬が取り出す。

 平らな大きな石の上につぶされた草があり、そこに傷薬をいれ、ナイフで湿布のねちょねちょ部分をそぎ落とし加え、石で混ぜ合わせる。

 最後に、目薬を数滴咥えると紫色の煙が、ボンっといって立ちのぼる。

 魔女のような事をしてるなぁ。と見ていると、紫色になった不気味な念着体ねんちゃくたいを弟の顔に塗りだした。

 「ル、ルルちゃん!ちょっと!」

 「大丈夫だよ。薬草を強化したの。」

 弟の顔にあったアザや傷が、噓のように消えていく。


 【特殊条項】・リミット3秒時、線香花火せんこうはなび発動


 「あ、あ、あ、ありがぅぅぅ。」ぐすん

 「みんなも傷だらけなのに、弱ってるひろの、手当を…」


 居間では母がエプロンをぎゅぅっと握りしめ、私を待っていた。

 「…してくれでぇ、ありがぅぅぅ。」

 「ひろちゃんは、無事だったのね。」


 「無事だよー。」うわ~ん!


 ツーっと母が涙を流した。

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