第11話 夕食前

 昼に呼ばれて昼食を渡し、街に向かうことを相談し居間に戻る。


 「街は安全なのかしら?」

 「うーん。ちょっとしか聞いてないけど、魔物に襲われることはないって。」

 「ひろちゃん。新しい街でお友達と仲良くできるかしら。」

 「ひろならできるよ。」

 「そうね。ひろちゃんならできるわね。夕飯の支度しちゃおう。」

 「まだ、早いよ。さっき、昼食とったばかりじゃない。」

 「でも、落ち着かないのよ~。」

 「じゃー。街でひろに必要になる物を考えるってのは?」

 「そうね。そうよね。」


 話し合った結果、お金が必要なのだけど、異世界のお金の入手方法がわからなかった。

 母が買い物に行ったので、団子を食べながら、ひろからの呼び出しに待機する。


 もぐもぐ。

 みたらし団子って、なんで、こんなに美味しいの~♪

 ズズズ。

 ほうじ茶。うまっ!


 母が夕飯の用意を始める頃、私の椅子の下に、魔方陣が現れる。


 【パッシブ】・弟感知

 【肉体条項】・弟近接時、ステータス  +5倍

 【精神条項】・弟恐怖時、ステータス +20倍

 【感知条項】・弟敵意時、敵のステータスを看破

 00:04:59

 

 めちゃくちゃに走る馬車のおりの中に呼び出される。

 「ど、どうしたの?!」

 「ちよねー!」


 夕闇に崖の道を暴走する馬車の後方から、青黒い肌の死体が、馬車より速いスピードで追っかけてきている。

 「な!何あれ?!」

 「グールだぜ!昨日の奴らの体をレイスが操ってやがるんだ!」

 (どうでもいいけど、全員とも、首付け間違ってるじゃない!)


---------------

【ステータス】

 グール

 レベル33

 レイスが入り込んだフレッシュな死体。生者の血肉を求め激走する。

---------------


 「首切ったのに!」

 「首ない。ゾンビにはならないの。でも、レイスが体使ってるだけなの。」

 草人コロボックルのルルちゃん。冷静だね…。


 ガシャッーーン!!

 グールの一体が、檻に飛びつく。


 「えい!えい!」

 ザク!ザク!


 槍で攻撃するが、一向いっこうにひるまない。

 「魔石だ!魔石を壊せ!」

 「魔石って、何?!」

 「胸だ!胸!」


 「えい!えい!」

 ザク!ザク!

 死体を刺す感触が、ただ、ただ、気持ちが悪い。


 「火があれば、レイスを体から引きはがせるの。」

 「火?」

 (キャンプバーナーと燃料!)


 「あるわ!これ、お願い!」

 狼獣人ウルフのロッサちゃんに槍を渡して、キャンプリュックから、キャンプバーナーと燃料を取り出す。


 カチャカチャ。

 燃料にキャンプバーナーをセットして、ガスを出す。

 ぷしゅぅー。


 ライターで火をつける。

 ジィ!ジィ!ジィ!ジィ!ジィ!


 「火がつかない?!ライター壊れてる?!」

 「火をつけるの?」

 「え。ええ。」


 ≪種火パイロット

 ぼわり。めらめらめら。


 ルルちゃんの手からキャンプバーナーまで、赤い粘着しそうな火がともる。

 「これ、凄い火力あるよ。グールに投げていい?」

 「いいけど…。手、手、燃えてる!」

 「ん?自分の火で、燃えないよ?とりあえず、えーい。」


 ぽーん。ボッ!

 ぎいぃいぃぃぃぃあぁぁぁ!!

 グールは火の玉が当たると、絶叫を上げて、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。


 「えーい。」

 ぽーん。ボッ!

 ぎいぃぃぃあぁぁ!!


 「えーい。」

 ぽーん。ボッ!

 ぎぃいぃぃぃぃ!!


 「えーい。」

 ぽーん。ボッ!

 ぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


 「ルルちゃん。凄い!全部やっつけちゃった!」


 「みんなー!馬が!馬が興奮して!止まらないだー!!!」

 ヒヒーン!ヒヒーン!

 ガタガタガタガタ!

 熊獣人ベアーのドッタ君が力いっぱい手綱たづなを引くが、馬は崖の道を暴走し続ける。

 ヒヒーン!

 「ガルル!根性だ!」

 ガタガタ!ガッ!

 「あっ。」


 暴走する馬車は、崖の道を曲がり切れずに崖下へと落下する。

 「ひろ!」

 ひろを抱きしめようと飛びつくが、ひろが手を振り払う。


 目の前には、居間に夕食を運んでくる母がいる。

 「え?ひろ?なんで…。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る