第10話 おにぎり

 「ただいま。かーさん。ひろから呼ばれないんだって?今もか?」

 「とーさん。今、千代を落ち着かせるから、着替えてきてくださる。」

 「おお。わかった。」


 私が少し落ち着くまで、母は私を抱きしめていてくれた。


 「何か辛いことあったんだろうけど、おかーさんに話して頂戴ちょうだい。」

 「う、うん。」


 私は、ポツリ、ポツリと異世界であったことを話し始める。

 母も、父も、無言で聞いてくれる。

 話が終わると。


 「ありがとう。ひろのために傷ついてくれて、父である俺の仕事なんだけどな。」

 「ありがとうね。おかーさんのかわりに、ひろちゃんを護ってくれて。」

 「でも、あたし、人を…」

 「しらん。悪いとも思わん。ひろや千代に手をだす奴は、ゆるさん!彼氏など絶対に連れてくるな!」

 「とーさん!彼氏はいいのよ。娘の彼氏とデートとか、憧れるわ。」

 「彼氏いないし!娘の彼氏とデートしちゃダメだから!もう!」


 ・・・


 ふふふ。


 「「「ワハハ!」」」


 「さぁ、泣くのはもうおしまい。顔洗ってきちゃいなさい。」


 気づかなかったけど、私の顔は涙でぐちょぐちょだ。恥かしい・・・


 「俺は風呂入ってくるよ。」

 「おかーさんは、ひろちゃんの友達の分も朝食作らないとならないから、もう、寝るわね。」

 「わ、わたしも、今日はママと寝ていい?」

 「毎日でも、大歓迎よ。」


 午前5時に目が覚め居間に向かうと、台所で朝食の用意をしている母が話しかけてくる。

 「おはよう。居間におにぎりを作ってあるから、食べちゃって。」

 「おはよう。うん、わかった。」


 私の大好きなおかかのおにぎりが、どっさり作ってある。

 ありがとう。


 午前6時。

 私の椅子の下に、魔方陣が現れる。


 【パッシブ】・弟感知

 【肉体条項】・弟近接時、ステータス +5倍

 00:08:59


 「おっはよー!」

 「ちよねー。おはよ!」


 昨日と違う場所。あの場所で野営はしないよね。


 「お友達の分も朝食持ってきたわよ。朝食の前に体ふいてあげるね。」

 「大丈夫~。魔法でキレイにしてもらったの~。」

 「うわ!いいなぁー!」

 (人がいるから、裸の時に呼ばれたら、とか考えちゃうのよね。)

 「いいよ。ルルちゃん。キレイしたあげて~」

 「はい。ご主人様。」


 ≪クリーン≫


 (わ!爽快になってくる!魔法凄い!)

 「ありがとう。朝食、用意しちゃうね。」


 「食べる前にねー。いただきまーす。っていうんだよ。せ~の。」

 「「「「いただきまーす。」」」」


 もぐもぐ。


 「ガルル!うめぇ!」

 「うまいだ~!」

 「おいちぃ。」


 「食べながらで悪いけど、自己紹介しよっか。私は、ひろの姉の千代っていいます。よろしくね。」

 「「「よろしく。」」」


 「ガルル!あたいは、狼獣人ウルフのロッサってんだ!よろしくな!」

 「よろしく。ロッサちゃん。」

 「ぼく~。熊獣人ベアーのドッタだ~。」ニカリ

 「よろしく。ドッタ君。」

 「草人コロボックルのルル。よろちく。」

 「よろしく。ルルちゃん。そういえば、ひろのことをご主人様って、呼んでたのはなんで?」

 「これ。」

 ルルは、首輪を指さす。

 「あたい達は、昨日の奴らに捕まって無理矢理に隷属れいぞくの首輪をされちまったんだ。」

 「隷属れいぞくの首輪?」

 「おいおい。あんたたちは、物知らずらしいな。コレは、簡単な命令をさせる魔道具さ。」

 「んだ。もっとも長くそばにいた人がご主人様になるだ。昨日のことで一番長くいた、ひろがご主人様になっただ。」 

 「ひろには付けられてないのね。それ、外せないの?」

 「土神殿ではずせるの。でも、金貨10枚もかかるの。」

 「そういえば、お金っぽいの袋に入ってなかった?」

 「ああ、金貨8枚、銀貨43枚、銅貨71枚あったぜ。」

 「1人分にも足りないか~。」

 「なんだ?あんたら、解放してくれるのか?」

 「だって、無理矢理、隷属れいぞくさせられてるんでしょ?あ、馬車売ったら、足りるんじゃない!」

 「人がいいな。そのうち、痛い目にあうぜ?」

 「昨日、会ったわよ!それで、お願いがあるの、馬車もお金もいらないから、ひろを安全な所に連れてってほしいの。」


 みんなの顔を見渡す。


 「いいぜ。お安い御用だ。」

 「ぼくも~。いいだ。」

 「ルルもいいよ。」


 【特殊条項】・リミット3秒時、線香花火せんこうはなび発動


 「ありがとう。消えちゃうけど、あとのことよろしくね。」


 母と目が合い、笑いあう。

 「ひろの友達、いい子たちだったわ。ママのおにぎりや唐揚げ、おいしいって食べてくれてたよ。」

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