第9話 罪

 母と「良かったー」とか、「お礼に何渡そう」とか話しているが、一向いっこうに呼び出されない。


 「ママ。何かあったかな?」

 「大丈夫。何もないから、呼ばれないのよ。」


 21時。私の足元に、魔方陣が現れる。


 【パッシブ】・弟感知

 【肉体条項】・弟近接時、ステータス +5倍

 00:10:59


 「ひろ。どうしたの?」

 振り向くと、ホロの馬車に設置されている頑丈そうなおりにひろと複数の人がいた。

 馬車の周りには、いくつかランタンが置かれている。

 「?!」

 「ちよねー。しー。」静かにのジェスチャーをしてくる。

 「なんで、おりになんて、入れられてるの?」

 くだらないことを聞いてしまった。弟の頬に痛々しいあざがあり、渡したぬいぐるみはボロボロに汚れていた。


 【特殊条項】・弟危害時、≪冷酷無情れいこくむじょう≫発動


 そっと、弟の頬に手を当てる。


 【肉体条項】・弟接触時、ステータス +10倍、姉弟回復


 「ちよねー。あいつら寝てるから、鍵を…」


 【感知条項】・弟敵意時、敵のステータスを看破


---------------

【ステータス】

 ヒト♀ レベル25

 ヒト♂ レベル27

 ヒト♂ レベル25

 ヒト♂ レベル24

---------------


 「へへへ。やっぱり、現れやがった。」

 「逃げられないように、わざわざ崖際がけぎわに野営した甲斐かいがあったな!」

 馬車の左右から、朝見た女主人と護衛が現れる。

 私は、刺すような瞳で睨み付ける。


 【精神条項】・弟恐怖時、ステータス +20倍


 「あ・・・あ・・・。ちよねー。」

 「この指輪でお願されたとおりに、しつけといてやったのさ。」

 私はこれから、とりかえしのつかない事をする。10分で弟の未来を護る選択肢は、他に考え付かない。


 「大丈夫よ。」

 弟の頬を優しくなでる。幾分かはあざがひいてくる。


 【技術条項】・姉尊敬時、姉スキル≪マーシャルアーツ≫発動


 「直ぐに終わるから、目をつぶっててね。」

 「う、うん!」

 弟がぎゅーっと目をつぶり手で目をふさぐのを確認し、手をはなす。


 【肉体条項】・弟近接時、ステータス +5倍 DOWNダウン


 護衛の一人が私の肩をつかんでくるが、体をよじり、体制を崩させて盛大に転ばせる。


 「ぎゃははは!何やってんだよ!」


 「最後・・に一つ教えて、朝、私になんて叫んでいたの?」

 「はん?!覚えてないね!さっさとつか・・まえな!おまえたち!」


 (私はバカだ、こんな奴らに弟を預けるなんて・・・今は、反省してる場合じゃないわ!)


 「このあまぁ!」

 立ち上がる男の首を脇固わきがためで、抑え込み、曲がらない方へ折り曲げる。

 ゴキャァ!

 どさり。


 「「「・・・」」」


 「て、てめぇ!」

 剣を構え、襲ってくる男の顎に手を添えて、曲がらない方へ折り曲げる。

 グキャ!


 「ひ、ひぃ!」

 残った男がやりを突き刺してくるが、手刀でやりをいなし、前につんのめる首に手刀を打ち込む。

 ゴキッ!


 「な、ななな。あんた、悪かったよ。」

 私はゴミを見るような目で近づき、両手で女の頭を抱え、反対方向に向かせる。

 ぐるん。ゴキャァ!


 (ちょうど、崖だし、ここに捨てよう。ゾンビ化とかあるのかな?首をはねておけば大丈夫よね。)

 母の指輪など人さらいの持っていたものを回収し、手に入れた剣で、次々と首をはね崖下に捨てる。

 おりに向かって歩いていくと、おりの中の人が何か私に叫んでいるが解らない言葉だ。

 「■■■■■■■!」

 ある程度、近づいたときに、なぜか内容が分かった。

 「私たちは関係ない!この子と同じで、誘拐されただけ!命だけは!」


 おりをあけ、弟に話しかける。

 「大丈夫よ。もう、いないから。」

 目をあけ、周りをキョロキョロ確認する。うん。可愛い♪


 00:00:42


 「弟に何かしたら、わかってるわね?」

 「「「は、はいー!」」」

 よく見ると、狼風の女の子、熊風の男の子、頭に葉っぱの生えた女の子だ。

 「ちよねー!友達だから大丈夫だよ!」

 「そうなの?よろしくね。ねーね。時間がもうないの。1時間後にもう一度呼んでね?」

 「もう、大丈夫!明日、呼ぶから、心配しないで!」

 「そ、そう?」


 【特殊条項】・リミット3秒時、線香花火せんこうはなび発動


 「に、荷物に寝袋とか夕食とか入ってるから!明日!明日ね!」

 「うん!おやすみ!ありがとちよねー!」


 母が笑顔で話しかける。

 「ね?案ずるより産むが易しでしょ?向こうの方にお礼言えた?」


 ガクガクガクガク…

 私は、今更ながら、犯した罪に震えだす。

 「千代?ど、どうしたの!」

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