第5話 アイデンティティ

 木のうろで、ほほをぷぅーっと膨らませたひろがいる。

 「ちよねー。一人にしたー!」


 「ごめんね。ごめんね。えむぴー1で1分しかいれないから。」

 「うー。もっといてー。」

 「ねーねもいたいけど、戻されちゃうの。着替えとママのお弁当よ。」

 「わぁーい☆」

 「じゃ、ねーねを返してくれるかな?ねーねがずっといると、また、ねーね来れなくなっちゃうの。」

 「えー。いや。」

 「じゃー。着替えて、お弁当食べたら、ねーねを呼んでいいから。ね?」

 「えー。」

 「ひろなら、出来ると思うんだけどなぁ~。」

 「・・・。わかった!直ぐに直ぐに食べるからね!」

 「ママが作ったんだから、味わって食べてね☆」


 ≪ステータスオープン≫

 00:08:21


 「千代。ひろは、ひろは?!」

 「安心して、ママ。ひろは大丈夫よ。お弁当も渡して、食べたら呼んでくれるって。」

 「「ふ~」」

 家族みんなが安堵あんどする。


 「次呼ばれたら、太陽の昇る方角に歩くように指示するのね。」

 「そうだ。地球と同じなら、東に向かうはず。あとは、1分超える前に一人で歩いてもらって1時間ごとに呼んでもらえれば、MPの消費が抑えらえる。」

 「ひろちゃん。一人で歩けるかしら・・・」

 「今日は無理でも少しづつ、頑張らせよう。」


 午前6時10分。私の足元に、魔方陣が現れる。


 私の前に2mを超えるゴブリンがいる。


 【パッシブ】・弟感知

 【肉体条項】・弟近接時、ステータス  +5倍

 【精神条項】・弟恐怖時、ステータス +20倍

 【感知条項】・弟敵意時、敵のステータスを看破

 【特殊条項】・弟危害時、≪冷酷無情れいこくむじょう≫発動

 

---------------

【ステータス】

 ジャイアントゴブリン

 レベル27

 ゴブリンの倍大きく、ゴブリンの倍強い。ゴブリンと同様に悪意に満ちている。

---------------


 (小さいからゴブリンでしょ!アイデンティティなくなってるじゃない!とか考えてる場合じゃない!)


 急に現れた私にびっくりしていたが、格下かくしたとみると、下品な笑みをたたえて石斧を振り下ろす。


 ドスン!


 私の横・・・に振り下ろされた石斧は土を大きくえぐる。

 弟の弁当をあおるよう口に入れ、ニヤつきながら咀嚼そしゃくする。


 この状況なのに私の頭はクリアだ。


 後ろに跳び退き、弟を抱えて一目散に逃げる。


 【肉体条項】・弟接触時、ステータス +10倍、姉弟回復


 全速力で逃げる。

 (はぁはぁ。)


 全速力で逃げたはずなのに目の前の木には、ぶら下がりニヤついたジャイアントゴブリンがいる。


 方向を変えて、全速力で逃げる。

 (はぁはぁ。)


 また、目の前の木にぶら下がるニヤついたジャイアントゴブリンがいる。


 方向を変えて、全速力で逃げる。

 (ぜぇぜぇ。)


 また、また、目の前の木にぶら下がるニヤついたジャイアントゴブリンがいる。

 (遊ばれてる・・・)


 方向を変えて、全速力で逃げる。

 後ろを振り返るとゆっくりとこちらを追いかけている。

 前方から水の流れる音がする。

 (行き止まりに誘われた・・・)


 幅10mを超える川。

 普通なら超えられない。でも、ステータス30倍の今なら!


 タタタタタ!バッ!


 足元には轟轟ごうごうと流れる川。

 空は青い。あ、太陽が二つある。


 対岸に…


 ズザザッ!


 着地する。

 「よし!」

 「ねーね!すごい!」


 【技術条項】・姉期待時、姉スキル武技発動


 後ろを振り向く。

 悔しがるジャイアントゴブリン。

 ジャイアントゴブリンがこちらに走り出す。


 弟にリュックを持たせて、ジャイアントゴブリンと反対方向を指さす。

 「いって!」

 有無うむを言わさずに背中を押す。

 てくてくと走り出す弟。


 【特殊条項】・リミット3秒時、線香花火せんこうはなび発動


 ジャイアントゴブリンが川に向かってジャンプする。

 やり投げの要領ようりょうで槍(物干し+出刃包丁)をジャイアントゴブリンに投げつける。

 「いっ、、、っけーーーー!!!!」


 びっゅゅゅーーーー!


 槍は川の上を飛んでいたジャイアントゴブリンの胸に・・・!


 汗だくの私の前に、心配顔の両親がいる。

 「どうしたんだ?すごい、時間かかったてたぞ?」

 「千代?その汗・・・」

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