十三夜

「おーわーんーなーいー」


教室の机にぐでーっと脱力しているのは幼馴染で、同じバスケ部で、それで、俺がずっと片思いしてるやつ、カイ。


「さっさと終わらせろよ。置いてくぞ、バカ」


「だーってー…」


カイは今回の定期テストの数学でそれはもう悲惨な点数を取った。勉強をしてないのは知っていたが、まさかあそこまでひどい点数を取るとは思ってなかった。

まぁ、そんな結果、補修のプリントがそれはまあすごい量出されたのだ。

提出期限は明後日。

そして明日は部活がある。やるには今日しかないのだ。


「だってもクソもあるか。勉強しなかったお前が悪い」


たしかに、カイのことは好きだ。甘やかしたいし、手伝ってやりたい。だけど、それはこいつのためにならないから。


「わかってるっつーの。てか、ソウはなんだかんだ言ってまっててくれるあたり優しいよなー」


「無駄口叩く前に終わらせろ」


「もう、ソウ君ってばつめたぁーい」


裏声で女の子みたいな喋り方をする。お調子者め。


「ほんとに置いてくぞ」


「あーーー!ごめんっ!ごめんってば!今すぐやります!マッハでやるから!」


そう言って、プリントに視線と思考を落としたカイを見る。

ふわふわした髪に、今日は部活がないからうっすら香るシャンプー。

俺は変態か。


現在高校2年生の俺たちは小学校からずーっと同じ学校だ。恋心と言っていいのか、カイを恋愛対象として見始めたのは中学の終わりだった。

悩みに悩んだ。まさか自分が、同性を好きになるなんて、思ってなかった。

そして、俺はその恋心に蓋をした。

実らない不毛な恋だから。

一瞬の気の迷いのはずだから。

もし、もし、実ったとしても、世間からの目は冷たいから。


カイの、迷惑になるから。


俺はこの思いに蓋をして、鍵をかけることにした。


それから30分ほど、会話はなく、ソウはスマホを打ちながら、窓の外の暗くなった空を見上げた。


そういえば、今日は十三夜だって言ってたなぁ。なんて、朝のニュースのは内容を思い出した。


そしてふと、思いついた。


今日で、この恋にかたをつけようと。


「おぉわったぁぁぁああ!」


プリントをまとめて立ち上がったカイは嬉しそうにニコニコ笑ってる。


「おつかれさん。んじゃ、かえっか」


「おう!まっててくれてサンキューな!」


「いつものことだろ」


そっけない返事を返しながら荷物をまとめて立ち上がり、2人肩を並べて外へ出る。


「なぁ、カイ」


少し先をバックを背負って寒い寒いと言いな歩くカイの名前を呼ぶ。


「月が綺麗だよ」


これは最初で最後の告白。


ま、こいつは意味なんて知らないんだろうけど。知ってたら困る。


「んっ?おぉー!ほんとだ!すげぇ!めっちゃ綺麗に見えるな!」


俺の言葉に空を見上げたカイは大げさにリアクションをして、空を見上げながら歩いている。


「転ぶなよ」


「わかってる!」


そんな会話をしながらまた肩を並べて校門をくぐる。


この恋は実らなくていい。

いや、実るべきじゃない。

だから、今日で終わりだ。


恋は終わったって、こいつの右側は俺が立つのが一番だから、な。

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