甘く切なく、時に苦しく、時に涙し。

紫苑 綴

ハロウィンにやってきた!

「さきちゃん!さきちゃん!trick or treat!!」


 ぴょこぴょことツインテールを揺らしながら私の教室にやってきたのは、私の恋人。

 ほんとかわいい。なんなの。天使なの。


「おはよう、まな。はい、これ」


 そんな思考を全く表に見せない表情で、お目当てのお菓子を差し出す。


「やったぁぁあ!ありがとうっ!さきちゃんの作るお菓子すんごい美味しいからダイスキ!」


 わたしはまなの笑顔が大好きだよ。ほんとにもう。かわいすぎて、毎日鼻血がでそうだわ。


「どういたしまして。ほら、もう教室戻んな?チャイムなるよ」


「えぇ〜…まださきちゃんと一緒にいたいぃぃぃ…」


 わたしだってずっとあんたのこと抱きしめて、でろっでろに甘やかして、ずっと一緒にいたいよ。


 近くにいたクラスメイトがニコニコ笑いながら、「また、さきにべったりだねー、まな」なんて言ってる。

 当たり前だろ。彼女だもん。

 もちろん、学校の人は私たちの関係は知らない。


「また、休み時間にこればいいでしょ?」


「う〜〜ぅぅ…わかったぁぁぁ…でもっ!廊下まで送ってって!」


 駄々っ子のように廊下までのほんと数メートルを指差す天使。

 天使か。やっぱり私の恋人は天使らしい。

 もちろん、送っていくに決まってる。

 1秒でも長く一緒にいたいもん。


「やった!じゃぁ、みんなばいば〜い!」


 私の手をちゃっかり繋いで私のクラスメイトたちに手を振るまな。

 こんの、ど天然小悪魔め。


 教室の出口までつくと、まなは少し高い私の顔を見上げて、んっ!と両手を広げる。

 まな曰く、「ぎゅうして」の合図だ。かわいいかよ。このやろう。しないわけにはいかない。


「はいはい。ほらぎゅー」


 軽く抱きしめてあげればまなは嬉しそうに笑った。


 そして、離れようとすると、肩をちょっと引っ張られた。


 チュッ


 小さなリップ音と、唇に当たる柔らかい感触。犯人は私ではない。


「また後で来るね!」


 犯人はそう。目の前の天使。いや、ちがう。


「浮気しちゃ、ダメだよっ?」


 そう言って、まなは今までにない妖艶な笑顔で笑って、るんるんとスキップしながら自分の教室へ帰っていった。


 結論。


「私の天使は天使じゃない。『堕天使』だ」

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