ハエとSNS

 最近SNSが流行しているらしい。かく言う私も登録だけはしているのだが、使い方がよく分からず登録だけという形になってしまっている。私のアカウントをフォローしてくれている人は片手で数えるほどしかいない。今日も学校へ行くために、借りているボロアパートから徒歩で駅へ向かう途中であった。


 私が利用する最寄り駅の周りは、日本では案外有名な店舗が多く、女子高生・女子大生にとって人気スポットになっている。毎日写真に映えるようなお店の食べ物、飲み物を撮ってはSNSにアップしているらしい。私はそういうものには疎いのだが、このようなものが流行っているせいか、嫌でも耳に入ってくる。「映え」がとても重要になってくるのだそうだ。まあ、私にはきっと一生縁のない話であろうが。


 そんな私でも友達はいる。友達と言っても、「ただよく一緒にいる」というだけのやつなのだが、なかなかどうして気の合う友達は見つからないらしい。そんな中、その友達がある話を持ち掛けてきた。

「なあ、最近女子高生、女子大生を中心とした行方不明事件が多発しているらしいぜ」

はたと驚いた。くだらない話しかしてこないこいつが、まさか「事件」なんて言葉を使ってくるなんて。いや、そんなことはどうでもいいのだ。まず、こいつの言った事件に私は少しだけ興味があった。

「いきなり何、あなたからそんなことを言ってくるなんて」

私は極めて興味のないように努めた。そうした方が詳しく話してくれるかもしれないと直感しかたらだろう。

「いや本当のことらしくて、一か月くらい前からかな、女子高生と女子大生がこつぜんと姿を消してしまうことが増えてきたみたいなんだ。いや、女性の社会人もいるらしいんだけどな、圧倒的に女子高生、女子大生が多いからそう言っただけなんだけど」

「そんなことは聞いていない。それで、なぜそのような事件が起きているの?」

「それがよく分かっていないらしいんだよな、でもさあ、女子だぜ? 俺はこの事件、けっこう危険な香りがするものだと思っているんだ。お前も気を付けたほうがいいぜ」

なるほど、確かに妙だ。女性がいなくなる事件か。危ない香りはするが、私たちが分かるはずもないし、記憶に留めておく程度でいいだろう。あっさり犯人が捕まって、その犯人はただの変態だった、なんてことも大いにあるだろうし。


 友達と別れ、三限の授業も終わり、今日の講義はなくなったので、アパートに帰ることにした。いつも通り駅前は活気溢れる女性たちで賑わっており、忙しそうでもあった。ふと、一人の女性に目が行った。何故かは分からないが、その女性を目で追うようになっていた。その女性は一人で、片手にはプラスチックのコップを持っていた。中身はカフェオレであろうか、カフェラッテであろうか、私にはよく分からないが、人気のコーヒー店の新作メニューだろうか。もう片方の手にはスマホを持っており、天に掲げるようにして自分はそれを覗き込んでいるようにしていた。察するに「自撮り」をしているのだろう。私はしたことはないが、いつかはあの女性のように、キラキラ輝く自分を自分で撮ってみたいものだ。なんて思っていたら、その女性が突然消えてしまった。いきなりすぎる出来事で、呆気にとられていたが、すぐに我に返り、その女性がいたところまで駆け寄ってみた。中身がぶちまけられたプラスチックのコップが転がっており、その他には何もなかった。他の人は全く気付いていないようだった。いきなり女性が消えたという事実を私は受け止めきれずに、その場に立ち尽くしていたら、ハエが一匹、私の周りはブンブンと飛び回っていた。


 あの出来事は一体何だったのだろうと、布団の中で悶々としていた。結局答えは出るはずもなく、学校へ行く時間が迫っていた。乗り気ではなかったし、サボってしまおうかと思ったが、もったいない気がしたので行くことにした。今日も変わらず時間は過ぎていき、友達はまた消えた事件について言及してきたし、いつも通りだった。そこでハッとした。昨日消えた女性と、この事件に何か関係性があるのではないかということに。今日も昨日と同じ時間に学校が終わり、同じ時間に駅前に行った。もしかしたら同じことが起こるのではないかと信じて、その場所を見ていたら、昨日と同じことをしていた女性がいた。その人こそ違かったものの、やっている行動は同じだった。そして同じことが起こった。プラスチックのコップが転がっており、一匹だけハエが飛び回っていた。そして私は気付いてしまった。


 どうやら最近起こっている女性消失事件は、このことみたいのようだ。特定の場所で、特定の行動をすると、ハエに変身してしまう。だからあたかも消えてしまったと錯覚してしまうようだ。なぜ他の人には見えていないのかは謎だが、私には見える。それで十分だ。しかし、これはどうすればいいのだろうか。友達に言っても信じてもらえないだろうし、一緒に見たとしても私しか認識出来ていないのだから、友達が見えるとも限らない。警察に言っても同じことだろう。考えた私は、そのハエをSNSにアップすることに決めた。


 毎日同じ場所に行っては、消えた女性の代わりに現れるハエを撮影し、SNSにアップする。そんな日々が続いていた。私をフォローしてくれている友達は、なんだよこれ、と言いながらも、私の投稿を面白がって拡散するようになっていた。そのおかげもあってか、他のユーザーの目にも次々にとまり、いつの間にか「ハエをアップし続ける危ないなつ」というように、評判になっていった。次第に私をフォローしてくれる人は増え、SNS上では人気者になっていた。もちろん批判のコメントもよく飛んできたが、それがあまりにもうるさいので通知は切っておいた。

 

一躍人気者になり、これに気を良くした私は、ハエをアップするだけでは飽きてきてしまった。撮った画像を加工をしたり、バックにオシャレなものをうつしたりと、見る者を飽きさせないような工夫をした。どんどんユーザーは増えていき、努力が比例している感じがしてとても楽しかった。さて今日もどんな風に魅せるかな、なんて思いがらパシャパシャとハエを撮っていた。


その後の私の行方は誰も知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る