9
パドスは、腰をおろして猫に向かって両手を伸ばした。
その猫はリルという名前だった。
リルは、ぴょんと跳び上がると、パドスの懐に収まった。
すると紫色だった毛が一瞬のうちに白くなり、逆立った毛も穏やかになっていった。
リルは、パドスの腕の中でギャーゴと鳴いた。
鳴き方は、普通の猫の鳴きかたではなかった。
「額の傷は、その猫にひっかかれたのか?」とリヌクは訊ねた。
「そうだよ。急に暴れだして」
「暴れだした?」リヌクは、恐る恐るパドスに抱かれている猫に顔を近づけた。
その後、右手を震わせながらリルの近くまで持っていった。
リルは、何の反応も見せる様子はない。
少し安心して、さらに手を猫の毛に近づけた。
手が毛に触れた瞬間、ギャーという鳴き声をあげながら、リルは、リヌクの顔めがけて跳びかかった。
リヌクもとっさにかわしたが、リルは反撃の手を緩めることなく、再びリヌクに跳びかかった。
その連続的な動作に老体のリヌクは反応できなかった。
その猫はリヌクのひざに前足の爪を引っ掛けると、そこから顔まで駆け上がってきた。
リヌクは、猫のすさまじい勢いに、背中から仰向けに地面に倒れた。
リルの毛は逆立っていて、白かった毛が再び紫色に変わっていた。
リルは地面に倒れこんだリヌクの体の上を、爪を立てながら頭に向かって歩いた。
そして、リヌクの首筋に鋭い前足の爪をひっかけ、そのまま顔をぬっとリヌクの顔のほうに突き出すと、リヌクと鋭いリルの目が合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます