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パドスは、腰をおろして猫に向かって両手を伸ばした。



その猫はリルという名前だった。



リルは、ぴょんと跳び上がると、パドスの懐に収まった。



すると紫色だった毛が一瞬のうちに白くなり、逆立った毛も穏やかになっていった。



リルは、パドスの腕の中でギャーゴと鳴いた。



鳴き方は、普通の猫の鳴きかたではなかった。



「額の傷は、その猫にひっかかれたのか?」とリヌクは訊ねた。



「そうだよ。急に暴れだして」



「暴れだした?」リヌクは、恐る恐るパドスに抱かれている猫に顔を近づけた。



その後、右手を震わせながらリルの近くまで持っていった。



リルは、何の反応も見せる様子はない。



少し安心して、さらに手を猫の毛に近づけた。



手が毛に触れた瞬間、ギャーという鳴き声をあげながら、リルは、リヌクの顔めがけて跳びかかった。



リヌクもとっさにかわしたが、リルは反撃の手を緩めることなく、再びリヌクに跳びかかった。



その連続的な動作に老体のリヌクは反応できなかった。



その猫はリヌクのひざに前足の爪を引っ掛けると、そこから顔まで駆け上がってきた。



リヌクは、猫のすさまじい勢いに、背中から仰向けに地面に倒れた。



リルの毛は逆立っていて、白かった毛が再び紫色に変わっていた。



リルは地面に倒れこんだリヌクの体の上を、爪を立てながら頭に向かって歩いた。



そして、リヌクの首筋に鋭い前足の爪をひっかけ、そのまま顔をぬっとリヌクの顔のほうに突き出すと、リヌクと鋭いリルの目が合った。

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