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リヌクは、つい数週間前に酒場でパドスと同じように額に二本の傷がある勇者の話を聞いたばかりだった。



このため、額に傷がある人物は、特別なものなのだという考えがすりこまれていた。



「その傷はどうしたんだ?」リヌクは、パドスに訊ねた。



「昨日、猫にひっかかれたんだ」パドスの言葉を聞いて、リヌクは肩すかしを食らった気分だった。



「猫? ここにお前以外の生き物がいるというのか?」リヌクは、辺りを見回したが、生き物の姿は見つけることはできなかった。



パドスは、右手の人差し指を口に当ててヒューッという指笛を鳴らした。



すると、どこからともなく一匹の猫がこちらへやってきた。



だが、その猫は普通の猫ではなかった。



その猫は、全身の毛が紫色で逆立っていた。



さらに、獲物を狙うようような鋭い目をしていて、その表情を保ったまま歩いている。



その猫がこちらへ歩み寄ってくると、リヌクは、思わず右足を一歩後ろに引いた。



「邪悪な猫だ」リヌクは、猫から目を離すことなく言った。



猫は、パドスの前にやってきた。そこで足を止めて、グルルと、喉を鳴らす音なのか、うなり声なのかよく分からない声を出した。



「そ、その猫は危険だ」リヌクは、猫を指差した。



「大丈夫だよ。おいでリル」

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