第4話「ブックエンド」
「ほ、ほんとうに異世界なのか!?」
食堂の外の光景に私は愕然とすることになる。時間にして1時くらいなのだろうか、太陽は最も高度の高い位置にあり、地上をさんさんと照らしている。そしてその地上にはおよそ文明の香りというものがなかった。
地面にはレンガが敷き詰められ、コンクリートの舗装は見受けられず、自動車ではなく馬車が往来を行き来している。野菜や果物を売り歩く行商が見受けられるのはまだいいものの、明らかにコスプレとしか思えない、鎧を着た男や、なんだか非常に卑猥なビキニのような皮の鎧を身につけた女、とんがり帽子をみにつけた魔女の格好の女が散見されるのはどうなのだ。
さすがにこれを見てもまだここが現代社会、少なくとも日本だとは思えない。
仕方ない、ルシアにラインを送るか。
私はスマホを取り出しLINEを開く。やはりまだ表示は圏外になってる。
『さすがにここが日本じゃないことはわかった。ここはどこだ。』浜
くっ、既読がつかない。なんだあの女放置するつもりか。もっとも女の未読スルーなんて言うのはテクニックに過ぎないからな。気長に待つとしよう。
さっきの金髪巨乳との約束の時間までまだ結構あるから、しばらくはこの街を散策してみるか。私は知らない町をぶらり歩くのが結構好きなのだ。
とはいうものの金もないしな、本当に歩くことしかできないのがつらい。
適当に歩を進めるものの、歩いてる道はこの街のメインストリートらしく、人出が多い。そして、すれ違う人々がみな私を振り返るため、非常に気恥ずかしかった。
どうやら企業戦士としての鎧であるこのスーツ姿は、かなり浮いてるな。周りは麻かなんかでできた地味な色をした服を着てる奴らか、鎧や胸当てといった何らかの装備をしたものばかりだ。
スーツ姿の人間はどうやら私だけである。これではまるで私がサラリーマンのコスプレをしてるようではないか。なるべく早くTPOに合わせた服に着替えたいところだが、あいにくお金がない。
場合によっては腕につけているセイコーの時計を質屋にでも預けなければいけないかもしれないな。
ぱっと歩いてる限りやたらと露天商が多いな、タイのカオサン通りを思い出す。違うのが往来を歩くのが、戦士や魔法使いのような連中だということと、扱っている商品が剣や鎧などということだ。
露天商の奥にはきちんとした店舗を構えた店も並んでいる。その中で本屋らしい店を見つけたので入ってみることにした。この店もなかなかお客が多い、よかったどうやら立ち読みもできる様だ。
問題は文字だな、英語かスペイン語ならいいのだが。
真っ先に私は、地図とか観光ガイドのようなコーナーに向かう。
「おっ。」
プロが選ぶアサマの観光地ベスト100という本があった。おぉ、白黒ではあるがちゃんと写真が表紙になっている本だ、しかも文字はなぜか日本語だ。ちょっとこれを読ませていただこう。
その雑誌には写真付きで、この国(どうやらアサマ連邦というらしい)の各地の名所が紹介されているが、どれもこれも見たことがない、載っている地図にも全く見覚えがなかった。しかも観光地の紹介にはよくあらわれる魔物一覧まで載っていた。
魔物は全く見覚えのない動物ばっかりだった、なんだこのゴールデンバットっていうコウモリは!でかすぎるだろう。こんなのに会ったら卒倒するぞ私は。
まさかと思って、魔物の本がないかと思って、あたりを見回すとそれらしきコーナーを発見した。
まさか、本当にあるとはな。すぐさま、そちらの方に向かおうとすると、そちらばかりに目を向け周囲に気を配ってなかったので、思わず人とぶつかってしまった。
「あっ、申し訳ないです。」
私は社会人の癖で反射的に謝ってしまった。
「あ、こちらこそ」
ぶつかった相手の声は女の声であった。
そのまま、顔を確認すると、青い色をしたショートヘアーの女の子でベレー帽のようなものをかぶっている。年齢は10代後半といったところだろうか。なかなかにかわいらしくてドキッとしてしまった。
彼女は、手にしていた本を落としてしまったらしく、私の足の先に転がっていた。
「どうぞ、お嬢さん。」
拾い上げて、すっとそれを渡す。
「あ、ありがとうございます。」
彼女はぺこりと頭を下げてそれを受け取った。私はそのまま先ほどの魔物の本のコーナーに行こうと思い、歩を進めようとすると、
「変わった格好をされているのですね。」
と彼女は話をつなげた。
ああ、そうかやはり変な風に私は映るのか。
「そんなに、おかしいかな。一応ちゃんとした服装なんだけど。」
私は片手を頭に当て、困ったという表情で彼女の顔を見て話した。
「ふふっ、とてもおかしいです。たまに見かけることはあるのですが……お会いするのは初めてです。」
たまに見かけるのか、そういえばさっきの金髪巨乳もそんなこと言ってたな。
「この辺では、君のような恰好が普通なのかな。」
彼女は、全身をマントでくるんでいる。もし日本に彼女がいたらきっとその下は全裸で露出趣味のある変態さんだと思われてしまうだろう。
「そうですね、ここは冒険者の町ですから。私のような魔導士もたくさんいます。……あの異国の方、突然こんなこと言って、変に思われたらいやなんですけど。もしお時間があれば、今から少しお茶でも付き合っていただけませんか。」
なに、ほんとうに突然なお願いだな。もっとも私は昔から、道を聞かれたりすることが多く、なぜかそのまま食事に行くということも結構あった。
心配しなくても、私課長浜勇作は女性の頼みをあまり断らない。
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