第2話「マジックが得意なのかな?」
「ど、どこだここは。」
私の会社は11:30に昼休憩が始まる。とはいえ私は基本外回り中心の仕事であるのでこの時間に、会社にいるなどということはない。
11:50ごろ、チェーンの牛丼屋で昼食を食べようと入店し、まさにその牛丼を食べようとした瞬間、一瞬気を失った私は、気づくとチェーン店の牛丼屋とは似ても似つかない食堂の椅子に座らされていた。
見渡せば古びた木製のカウンターやテーブルが並び、カウンターではなんだか映画でしか見たことのないような、革製の衣服を身につけた男どもが、ジョッキを片手に大声で笑っている。
食堂は繁盛しており、ガヤガヤとしている。目の前を通る金髪のウェイトレスやテーブルで談笑をしている白装束の銀髪の男たちを見る限り、少なくともここは日本ではない。
ヴーーーーーっという振動が私の胸ポケットに響いた。なんだLINEの通知か?私はスマホを取り出して、パスワードを解除して画面をみる。
案の定、LINEの通知が来ていた。ルシアからだと!?
ルシア『どうですか、驚きましたか?そこが異世界です』
ルシア『まだ信じてないかもしれないですが』
『信じられるか、俺を眠らせてる間に、セットにでも運び込んだんだろ』浜
ルシア『そんな大掛かりなことしてません』
『大体本当に異世界なら、LINE使えるのもおかしいだろ?』浜
ルシア『すべて圏外になってると思いますが』
うっ、たしかに電波は全く通っていない。完全に圏外なのにLINEだけは出来るなんて、そんなことあるか。
ルシア『本当かどうかはそのうち分かります』
ルシア『とにかくあなたはその世界で魔王を倒さなければ、』
ルシア『日本に帰ってくることはできません』
『おい、ここがどこかはわからないが、早く戻せ』浜
『冗談はやめろ、会社をクビにされてしまう』浜
ルシア『どのみち不倫がばれたらクビか左遷ですけどね』
ルシア『でもご安心、あなたがそちらにいる間こちらの時間は止めておきます』
なんだ何を言ってるんだ、こいつは。確かにルシアに悪いことしたとは思うが、こんな大掛かりな仕掛けをうつ必要はないだろう。
『魔王の話は分からないが、意地でも日本に戻るからな』浜
『戻ったらお前を拉致の罪で訴えるからな』浜
ルシア『異世界だとわかったらまた連絡してね。』
『おい、まて』浜
ちっ、既読がつかない。見てもいないのか。
ルシアは異世界だとか言っていたが、そんなわけあるか。店の雰囲気からすると金髪や銀髪の白人が多いからな、北欧あたりといったところか。
眠ったまま私を北欧に連れてくるとはいったいどんな手段を取ったんだろうと気にはなるが、ルシアは謎の海外ルートとつながってるからな、マフィアあたりの力を借りててもおかしくはないだろう。十分非現実的だが、異世界とやらに行くよりはまだ現実的だ。
まあとにかく情報収集だ、北欧ならば英語が通じるだろう。
そう思って目の前を通る金髪の、ずいぶん露出の多い服を着た給仕に英語で声をかけた。
足を止めてはくれたが、言葉は通じてないようだ。
スペイン語か?
今度はスペイン語で話しかけてみたが、それも通じてないようだ。これでも私は商社マンなので、日常会話ならばスペイン語、英語が使える。大概これでどこの国でもわたっていけるのだがな。
すると向こうからこちらに話しかけてきた。
「お客さん、ちょっとおっしゃってることがわからないのですが。」
ん、なんだと、バリバリの丁寧な日本語じゃないか。外国人がきっちり尊敬語まで使うとはな。
「あぁ、いやなんだ日本語が通じるんだな。君外国人なのに日本語上手だねえ。」
そういって、ほっとしながら彼女をほめたたえる。
「……?ニホンゴ?何を言ってるかわかりませんが、外国人はあなたじゃないですか、変な服着てるし、髪の色も黒いし……ご注文ですよね。いかがいたしますか。」
そういって彼女は、私の方に向かって、少し前かがみになりメモを取る体勢を取った。おかげでその豊満な胸の谷間が少し見えてなかなかいい景観である。
それにしても、変な服とは失礼な、北欧ではスーツを着る文化がないとか聞いたことがないけどな。
そうか、わかったぞルシア!今日はちょうどハロウィンだ。どうもこんな外国人の女が完璧な日本語を使っておかしいとは思ったが、なるほどコスプレをしている女ってわけだ。日本国内のハロウィン会場に連れ込んでドッキリ企画をしようってことだな、周りを見渡せば確かに耳の長い女とか、鎧を着た男がいておかしいと思ったんだ。
何が異世界だ、もっともハロウィンに興味がない身としては、確かにここは異世界だし、今この場では何のコスプレをしてない私は確かに変な格好だな。
ほっとしたぜ。
「すまないが、注文の前にタバコを吸いたい。ここは禁煙か。」
私はそういって、タバコをポケットから取り出す。あれそういえばライターがないな、バッグの中だっけ。
「もちろんどうぞ、わざわざ聞かなくても大丈夫ですよ。」
そうやって、金髪巨乳コスプレ娘は笑顔で対応してくれた。なかなか愛嬌のあるいい子だな。ここにそういう制度があれば、私は指名してしまうだろう。
「申し訳ないんだが、火を貸してもらえないだろうか。忘れてきてしまったようで。」
そういって私はライターで火をつけるジェスチャーをしながら、煙草を口にくわえる。
「あれお客様、火を出せないんですか。まぁいいですよ。ハイどうぞ。」
コスプレ女はそういうと、なんと指先から炎を出して、私のたばこに火をつけた。
な、なんだと?
どんな仕掛けを使っているのだ。
「ま、マジックが得意なのかな?」
「ええと、
彼女は、自慢げに、さらに10本の指先にすべて炎をともして私に見せつけた。
な、なんだこんなマジックがあるのか?すごすぎるだろう……。
するとまたスマホに通知がきた。
ルシア『そろそろ信じたころかしら』
あぁなんだか、とんでもないもの見せられてるのだけはわかったよ。
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