勇者、浜勇作

ハイロック

第1話「不倫の代償」

「ねえ、浜さんいつ奥さんと別れてくれるの?」

 都内のラブホテルで私、浜勇作はまゆうさくは不倫相手の会社の同僚からいつものセリフを言われる、いい加減飽き飽きしている。もちろん言葉では妻と別れてすぐにでも君と一緒になりたいとは言ってるが、そんなもの嘘に決まっている。

 正直言えば、家庭が大切だ。

 4歳になる娘はとてもかわいいし、セックスが少なくなったとはいえ同い年のの妻は母として家庭を支え、妻として家計を支えてもらっている。そんな妻を裏切ってしまっているのは申し訳ないとは思うが、それでも一番愛してるのは妻である。


「なかなかな、もう妻に未練はないんだが、いろいろ人間関係もあるんだよ。」

 俺はタバコをすいながら、不倫相手の竹内瑠紫愛ルシアに向かって少し冷たくそう言った。

 ルシアは31歳で俺より4歳下であるが、その若さにして部長になった超優秀な女である。中でもボリビアのリチウムの採掘権をたった一人でボリビア政府に認めさせた功績が認められている。

 おかげでわが社はボリビアからのリチウムの輸入に関して、独占的な地位を日本において築くことができて、多大な利益を得ている。

 その功績もあり、ルシアは女性かつ31歳の若さにもかかわらず、部長に抜擢されたのである、ゆくゆくは社長も夢ではないといわれているが、そんな上司である

ルシアと私はもう2年も前から不倫関係にあった。

 

 その気になれば部下で年上の私と不倫などせずとも、ルシアはいくらでももてそうではあるが、どうやら2年前酒の勢いで一度だけ関係をもったきり、ルシアはすっかり私の股間の勇者に夢中なようであった。

 男として悪い気はしないのだが、さすがに関係が二年にわたり、こうも妻との別れを求め続けられるとめんどくさくなるものである。

 かといって相手は一介のOLではなく、私の直属の上司である、切るに切れないといったところが本音なのだ。


「ねえ、勇作、ほんとうは奥さんと別れる気全然ないでしょう?」

 とルシアは、私のたばこを奪うと、自分の口に持っていき吸い始めた。


「そ、そんなことはない。私だってすぐにでもルシアと一緒になりたいのだ。」

 心にもないことを私は言わざるを得ない。というかそもそも30過ぎの独身女でしかも部長であるというめんどくさい案件を私が相手してるというだけでも、満足してほしいと思う。勝手な言い分なのは百も承知だが。

 いい女ではあるのだが、正直浮気相手としては重過ぎる上、めんどくさすぎる。


「ねえ、私はもう我慢できない。……本当のことを教えてあげる。本当は私はこの世界の人間などではないの……。」

 突然、中二病みたいなことをルシア部長は言い出した、なんだろうな、急に冗談言い出して。


「ははは、急にどうしたんだよ。」

「……あのね、私は異世界の魔女なの。その力で会社という組織で出世をしたわ。そしてあなたに出会った。」

「なんだよ、まあ確かに、お前は俺にとって魔女だけどな。」

「私はこの世界に来てあなたを本当に愛したわ、でもあなたは嘘ばかり。だから私はあなたを私の世界に送ることにしました。」

 一体何を言ってるんだろうか、しかし彼女の顔は真剣そのもので冗談を言ってるようには思えない。


「どうしたんだよ…本当に……。」

「猶予はあげます、明日の昼の12時、その時間にあなたを私の世界に移動させます。そしてあなたは勇者として魔王を倒してください。そうしたらあなたは、またこの世界に帰ってくることができます。その時はあなたが出世することを約束しましょう。」

 ど、どうしたっていうのだろう、知らない間に酒でも飲んで、おかしくなってんだろうか。

「ルシアは本当に何を言ってるんだ?」

「信じる、信じないは関係ないのです。あなたは明日の12:00には本当に異世界で勇者となるのです。これは私のあなたへの本当の怒りなのです。」

「ははっは、面白いなルシアは、俺はもう寝るぞ。」

 酔っ払いの相手をまともにするほど私は、楽しい性格をしていない。さっさと眠ることにしよう。妻には今日も残業で、家に帰れないといってある。


「ふふふ、おやすみなさい。」

 ルシアは不敵にそう笑って、そして俺の隣で眠りについた。


 夢の中でずっとルシアにささやかれ続けた気がする、異世界とは何か、勇者とは何なのか。へんな夢を見たなと私は朝起きたベッドの上でそう思った。 

 ルシアは朝起きた時にはすでにいなかった。

 ホテル代はいつもルシア持ちだったのに、なんだよ今日は1万円を少し超えるぐらいのお金を私が出さなければいけない。

 妻に財布を握られる身としては大変厳しい出費だ。

 しぶしぶ自動精算機に札を入れて、ラブホテルを出る。


 そして、その日の12時、会社が昼休みに入った瞬間、俺は本当に異世界とやらに転送されてしまった。


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