第5話

「……いないね」


「当然。でも、真弓はそれでも探すと言った」


 砂夜と私は、人混みの中を何度も行き交っていた。

 みんなパレードに浮かれていた。その中で人を探す私たちのことなど、誰も見向きもしない。


「真里……」


 私は思わず、真里の名前を呟いていた。この中から探すのは、砂漠に落ちた縫い針を探すようなもの。だが、それでも全然諦めようとは思わなかった。


「しらみ潰しに探しても、効率が悪い」


「うん。闇雲に探してたけど、もしかしたら、今まで私が真里を見た場所っていうのを辿ってみる方がいいのかも」


「一理ある。その場所が関係しているっていう可能性も、あるかも。例えば、想い出の場所とか」


「想い出の、場所……」


 満天水族館というのが、私にとっては一番の思い出の場所だ。だからこそ、あの日、真里と再会をしたのだけれど、それはあくまで本物の真里。

 渋谷というのは私の家から私鉄で一本だから、家族で来ていたことはある。小さな想い出というのはたくさんあるけれど、小さい頃だからあまり覚えていないし、街の様子も大分変わってしまった。

 記憶の表層ですぐ思い出せるほどの強烈な想い出は――思いつかない。


「思いつかないなら、いい」


「……そうだね。やっぱり、引き返してみよう」


 私が言うと、砂夜は小さく頷いた。

 その時、スクランブル交差点の方からわあっ、という歓声が聞こえた。


「何?」


「向こうで動きがあったみたい……わぁっ」


 その時、人混みの波が私の方へ押し寄せてきた。たまたま、交差点の側に立っていた私は、人の流れに流される形になった。


「ちょっと」


 砂夜の声が、若干遠ざかっていた。同時に、砂夜の姿も徐々に離れていく。

 砂夜は人混みを押しのけて私の方へ来ようとするが、体の小さい私たちでは、大人の人たちをかき分けるのは難しかった。

 このままはぐれてしまえば、合流できるのはしばらく後になるだろう。


「大丈夫。後で合流しよう」


 声が聞こえたかどうかは分からないが、私はその意味を込めて微笑んでみせた。すでに砂夜の姿は人混みの中に紛れて消えてしまっていた。


「必ず、妹を見つけて」


 それでも、砂夜の力強い声をはっきりと聞いた気がしていた。

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