第2話 すれ違いと謎

 はやとと休み時間に顔を合わせることはなく、隼がバスケ部に入部したおかげで、登下校が一緒になることもなくなった。そして隼と顔を合わせにくい原因がもう一つ。

「あ、また来てるよ、あの子。フロアも違うのに毎度毎度よくやるよね」

 朱里紗ありさが指さす方を見ると、隼のもとに駆け寄る栗色の髪の女の子。九条綾乃くじょうあやの。クラスも違い、部活だって入っていないのに、どうやって隼と知り合ったのか。見つけた隼の横には、当たり前のようにいつも彼女が立っている。

「隼と綾乃ちゃん、付き合ってんのかなあ」

「いや、それはないわ」

 あたしは、即答する朱里紗を見た。

「なんで分かるの?」

 朱里紗はしまったというような顔をしたけど、すぐに曖昧な笑顔を作る。

菜子なこもそのうち分かるよ」

 それ以上朱里紗が何かを云うことはなかった。

 

体育祭や文化祭。クラスの違うあたしたちは自分たちのことで忙しく、さらに顔を合わせる機会は減っていった。そんなある日のこと。

その日は、朱里紗と買い物に行っていて、帰りがいつもより遅かった。

日は短くなっていて、曇りがかった月では灯り代わりになるには不十分だった。

あたしは、家の前に立つシルエットに気づく。

「隼……」

 隼はパーカーのポケットに両手をつっこみ、寒そうに背中を丸めていた。隼は、あたしの持つビニール袋の音に顔を上げる。

「菜子」

「まったく、こんなところで何やってんの! 風邪ひいたって知らないよ!」

 あたしはポケットの中から、まだ熱をもっているカイロを取り出すと、隼の手に押し付ける。一瞬触れた指先は凍るように冷たく、長い間外にいたことを物語っていた。

「俺さ」

 隼は唐突に云う。「明日のクラスマッチ、バスケ出るから」

 そんなこと、云われなくても知っている。どこのクラスと当たるかも、選手名簿でチェック済みだ。

「だからなに?」

 隼はおかしそうにくくっと笑うと、「いや、それだけ」と云って、自分の家に入ってしまった。

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