夏の終わり③

翌日の朝、篠田からの返信があった。

***

おはよう^ ^

そう。息子。もうすぐ5歳になるよ。

今日も仕事頑張って!

***

やっぱりそうだよね…。けど、シングルかもしれない…。そんな淡い期待も浮かんだが、美沙はすぐに打ち消した。こんなに小さな子を篠田1人で育てているようには到底思えないし、両親は千葉で自営業をしていると言っていた。あの写真は奥さんが撮ったのだろう。夏休みを楽しむ家族の光景が容易に想像できた。きっと素敵な奥さんなのだろう。普段はポジティブな方だと思っているが、考えなくても良いような事ばかり浮かんでくる。自分の拾った子猫を引き取ってくれた負い目から無下に出来ずにいたが、美沙の好意を感じた篠田が牽制の為にアイコンを変えたのではないか?本当は面倒だと思いながらやり取りを続けていてくれたのだろうか?美沙は無性に悲しくなった。嬉々としていた自分が憐れに思えて居たたまれなくなった。こんなにマメに連絡をくれるのだから篠田にも好意があるのかもしれない。などと考えていた自分はなんと愚かなのだろう。トラックの荷台から顔を覗かせた時の篠田の笑顔を思い出し、切なくて堪らなくなった。車で職場に向かう間、篠田との些細なやり取りを思い出しては胸が痛んだ。

今日が月末で良かった…。残業確定は間違いない。仕事はたくさんある。少なくとも仕事中は篠田を忘れていられる気がした。

駐車場に車を停めると

***

ありがとう(^ ^)

篠田さんもね

***

なんでもないように、普段通りに、精一杯の強がりを送った。そして、もう自分からは連絡しないと決めた。篠田には何の罪もない。ただ美沙がこれ以上踏み込まない為に。

これ以上好きにならない為に。

篠田を困らせる事のないように。


夏の終わりの物悲しさのせいにして全て忘れよう。大丈夫すぐに忘れられるから。

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