晴れの日②
駐車場に戻り、車に台車を積み込んだ。たったそれだけの事で額に汗が滲むのがわかる。車の中はさらに灼熱だった。エンジンをかけ、暫く木陰に避難しようと木陰を探して辺りを見回すと、先ほどのトラックが目に入った。と同時に美沙の心臓が大きく跳ねた。無意識にトラックの持ち主の姿を探してしまう。
「いた…」
トラックの後ろで小さなダンボールを持って彼は立っていた。
「おつかれさまです」
何をしてるんだろうと思いながら、美沙は気付くと声をかけていた。彼は美沙を見ると笑顔になり
「おつかれさま!」
と返してきた。
「何してるんですか?」
「子猫見つけちゃって…」
困った顔でダンボールの中を美沙に向けた。中には茶トラの子猫が一匹。
「かわいい〜!」
「ねぇ。かわいいよね。けど、連れて帰れないし、かといってこんな場所に置いとくのも可哀想だしどうしようかと思ってたとこ」
子猫に手を伸ばすと、ビクッと端に身を寄せたが、直ぐに指先に顔を寄せてきた。
「僕、家が関東なんですよね…連れて帰ってあげたいけど、無理だし」
「関東、、ですか。遠いですねぇ」
子猫に触れながら美沙は小さな声で言った。
「親戚の法事で旅行も兼ねてこっちに来てたら、おじさんがギックリ腰やっちゃって、ピンチヒッターで今日だけ配達手伝ってるんです」
「どうりで見かけない方だと思いました」
会話をしながら、美沙は子猫をどうすべきが考えていた。家に連れて帰って、貰い手を探すか…何とかなるだろう。
「人馴れしてるし、飼い猫の子なんだろうね。こんな所に捨てられちゃって可哀想に」
彼は左手で子猫を撫でる。子猫は目を細めた。美沙はその指に指輪がない事を無意識に確認して安堵した。妻子持ちを好きになっても時間の無駄だ。
「私が連れて帰って、貰い手探しますよ」
「え?本当に?いいの?」
「はい。こんな可愛い子だったらすぐに見つかるだろうし」
「じゃあ、僕も親戚のツテ探すから連絡先教えてください」
「え、あぁ。はい。LINEでいいですか?」
「もちろん。一応、名刺も渡しとくね。お前、ラッキーだな」
そう言って子猫をひと撫でして、段ボールを足元に置くとポッケトから名刺を取り出し美沙に差し出した。
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中上行政書士事務所
篠田 春樹
東京都**区****
090-****-****
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「一番下の携帯番号で大丈夫だから」
美沙は携帯を取り出し篠田の番号を打つとワンコールした。
「宮崎美沙です。じゃ、責任を持って飼い主さん探しますね」
篠田はダンボールの中の子猫を優しく撫でると
「幸せになれよ、おチビちゃん。僕も探すんで、誰かいたら連絡しますね」
「はい」
「本当にありがとう、美沙さん」
いきなり名前を呼ばれて挙動不審になりそうな自分を抑えながら
「いえ。じゃ、この子連れて行きますね」
と、穏やかに言うと、手を振る篠田に会釈をして車に戻った。
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