雨の日②
それは予想通り篠田からのメッセージだった。
***
美沙さんの香りがまだ残ってる
夢か現実かわからない夜だったよ
もっと一緒にいれたらよかったのに…
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先ほどまでのモヤモヤした気持ちが消え去り幸せな気分になる。単純な女。あの日以来メッセージが届くたびに返信せずに関係を絶つ事も考えているが、それを実行に移せるほど美沙は強い女ではなかった。火遊びとは言わないが、叶わない事を知った上で手を出した。ほんのひと時でも満たされたなら、想いが昇華するのではないかと言う淡い期待もあった。実際は昇華するどころか、はけ口の無い感情が複雑に交錯するばかりで、ため息ばかりが出てくる。本能と理性、過去と未来、夢と現実、損得、天使と悪魔、それぞれがそれぞれの主張を美沙にぶつける。今の幸せを積み上げても、未来の幸せには続かない。こんな時に慰めてくれる男がいない訳でもないけれど、そこに甘えたからといって何の解決にもならないばかりか、虚しさが増すような気がして1人で過ごす事を選んでいる。
美沙は白いホーローのポットを火にかけ、コーヒー豆を挽きながら、返信を考えていた。自分でも失笑してしまうほど、先ほどのたった三行の言葉が気分を変えてしまっている。コーヒー豆の香りに包まれながら、ふとこれ以上どうなりたいのだろう?と問いかけてみたが、答えは見つからなかった。
***
本当に。
次はもっと時間を作ってね。
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美沙は色々考えたわりに、あっさりした返信をしていた。言いたい言葉は溢れてくるが、言った所で篠田を困らせるか、美沙自身が後悔するかのどちらかな気がしたからだ。次なんて、いつになるかわからない。いや、次があるかどうかも不確かなのだが、敢えて『次』と打った。携帯を机に置くとコーヒーを片手に、また窓の外を見つめた。
細かな雨が降り出していた。
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