のちのこころに

あひみての

雨の日①

 リビングのソファーに身体を沈め、カーテン越しに重く垂れこめる灰色の空をみていた。今にも降り出しそうな顔をしているのに雨は一向に降っては来ない。泣きたいのに泣けない自分と重なって、鬱陶しさが増す。昨日の晩のように大粒の雨が降ってくれたら泣けるのに…。この日、何度目になるかわからないため息をついて、美沙は両腕で顔を覆い目を閉じた。あの夜を後悔している訳では決してない。それは自ら望んだ事であったし、この上なく満たされた事も事実だ。なのに、日毎募るこの虚しさと切なさは何なのだろうか…一つ叶うと、また次を求めるこんなにも自分は欲深い人間だったろうか。これ以上は求めていないはずだった。求めない自信もあった。あの時、それ以上の想いが存在するとは考えもしなかった。後悔とは違う、予想外の心境の変化に戸惑っているだけなのだ。美沙はそう言い聞かせていた。テーブルの上の携帯が、メッセージが届いたことを伝えている。相手はわかっている。その音だけが、今の美沙を慰める事ができる。けれど、それは美沙が返信するまでのほんの一瞬の魔法でしかない事を痛いほど知っている。

美沙はまた出そうになったため息を飲み込み、携帯を手にした。

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