The S.A.S.【1-3】
弾倉が銃へ確実に挿さっているのを確認し、師弟は先行したスタン軍曹らのバディ(二人組。或いはその片割れ)と距離を空けて前進する。各々の銃から眩い赤外線レーザーが延び、光芒が絶えず敵キャンプを横切る。彼らが携える制式小銃――L119A1は優れた兵器だ。羽の様に軽く、剛健で如何なる自然環境にも耐える設計で、精度が群を抜いて良い。使用する弾薬はアメリカが新設計したM855A1で、これは弾丸が対象の体内で複数に断片化する事で、大きな殺傷能力を発揮する。ヒトの腹部に命中すれば、まず助からない。
〈アルファ・ツー、スタンバイ。テント内部に動きはない〉
スタン軍曹のバディが、偵察班に近いテントの入り口の真横に控えた。ヒルバートらが、その真逆の位置のテントを担当する。ダニエルが足下に転がる敵兵の骸を検分するも、既に体躯は熱を失ってぴくりとも動かない。弟子が安全確保に親指を立てるのを確認し、ヒルバートはPTTスイッチを押し込んだ(Press To Talk:押している間だけ、マイクが音声を拾う)。
「アルファ・ワン、スタンバイ。いつでも行ける。ダニー、お前が先だ」
月光を反射するNVGのレンズに頷き、ダニエルは銃のセイフティ(安全装置)を解除した。
〈アルファ・ツー、了解。タイミングはアルファ・ワンに一任する〉
ダニエルが、すぐ背後に控えるヒルバートを一瞥する。小隊長は首肯で応じた。導火線の着火役は、ダニエル・パーソンズ伍長に委ねられた。強烈な重責に汗が滲む手で銃を握り直し、彼は砂で乾燥した唇を舐める。
「了解、俺の合図で侵入してくれ。三……二……」
銃口がテント入り口を塞ぐ垂れ幕に差し込まれ、テロリストのねぐらに蒼白な月明かりが割り入る。
「……一……始めろ」
ダニエルの身が垂れ幕を押し退け、布の内側へと滑り込む。ヒルバートがそれに続き、ナイロンの擦れる音だけがかすかに響いく。
テントに侵入したダニエルは、三人のアラブ人が寝袋で寝入っているのを視認した。NVGの緑色の視界でそれらを具に観察し、重要人物が紛れていないのを確認した。セイフティは既に解かれている。カービンをしっかと構えると、赤外線レーザーを敵の胸へ重ねて発砲した。老爺の咳に似た、籠もった音が連続する。抵抗はおろか目覚める素振りもなく、三人は着弾の衝撃で僅かに姿勢を変えただけで、そのまま眠り続けた。
「アルファ・ワン、一つ目のテントで三人を排除」
〈アルファ。三人を排除、了解〉
本部の復唱を合図にダニエルはバディへ振り向き、今度は彼を先駆けにしてテントを去った。
彼らが第二のテントに向かう途中で、スタンのバディから四人の敵を処理した報せが入った。これで、七人のならず者が地上を去った事になる。ダニエルと配置を交代したヒルバートが二張りめのテントの垂れ幕に手を掛け、舎弟へ目配せする。舎弟は間を置かず頷き、バディは内部へ突入した。襲撃を知らずに眠る敵兵らを視界に入れるなり、ヒルバートは小口径高速弾で心臓を穿ち、腹部に風穴を空けた。くぐもった銃声の他に音はなく、キャンプ全体は沈黙を保っていた。
「アルファ・ワンより全部署へ。新たに五人を無力化」
〈アルファ、了解〉
清らかな女声と共に、ヒルバートのバディは再びダニエルを斥候に任務を続行する。それからスタンが三人を無力化し、勢いに乗じてダニエルは第三のテントへ足を踏み入れる。先の二つと同様、寝袋に包まれたテロリストの卵が、自らの最期を知らずに寝息を立てていた。
「楽な仕事だぜ」
経験の決して多くない舎弟に小言を囁こうと、ヒルバートが肘で小突こうとした。彼が左腕を伸ばしかけたその時、大気が弾けた。夜のしじまを引き裂く破裂音は彼らから三十メーター離れた場所で生じ、テロリストのキャンプが息を吹き返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます