第3話 王都到着

 王都までの旅は、初日の騒動があった以外はこれと言って問題なく進んだ。

 時折街道から見える位置に魔獣などが顔を見せる事はあったが、上空で輪を描きながら周囲を監視してくれているアズールの「お友達」である巨大白鳥がひと鳴きして追い払ってしまう。


「ああ、もったいねぇ」


 小遣い稼ぎに狩りたかったとみえるアルムさん達の残念そうな言葉などは些細なものだろう。


『あの丘を越えれば王都が見えてくるはずだよ。あの木が目印なんだ』


 鈴木氏に言葉に視線を向けてみると、確かに丘の上には立派な針葉樹が数本、そそり立っていた。

 他の植生とは場違いなその木を見るに、植樹したようにしか見えない。


『あの木ね、アレ世界樹の苗木』

「苗木!? あのサイズで!?」

『立派に成長しきったら樹高が10km超えるんだよ?まだ苗木みたいなもんじゃん』


 どうやら生前の鈴木氏がどこぞの森で出会った、世界樹と呼ばれる意志ある樹木から貰ってきた種を植えた結果らしい。

 その世界樹と言うのはどうも木の精霊ドライアドみたいに、ちゃんと人間と意思疎通が出来る思念体を持っているんだとか。

 でもその域に達するには数千年の時を経なければいけないのだとか。

 気の長い話である。


「世界樹ねぇ。葉っぱで蘇生とか出来るん? やっぱ」

『いや、流石にそんなのは無理だったけど、世界樹があると地脈の流れが変わるんだよね、いい具合に。だから作物とか凄い増産できるたんだよね、王都周辺』

「はー、そりゃ便利」

『ただし魔物も湧く』

「あー、魔力溜まりが魔物を生むってやつか」


 鈴木氏に観光案内をしてもらいつつ、丘を登る。

 結構な坂だが、もしかして攻め込まれる時の事を考えての街道整備の結果なのだろうかと私は訝しんだ。


『いんや、普通に昔からある道を再整備しただけ。平坦な道にしようと思ったら止められたし』

「ほほー、そりゃまたなんで?」

『すぐそばにしょっちゅう氾濫する川があるから』


 なるほど、それは嫌だな。

 氾濫後の再整備とか面倒すぎる。

 そんなこんなで丘を登りきると、そこから見える光景は。


「おお!? 何じゃありゃ!」

「すげー、アレ王城?」

『あー、だいぶ広くなってるなぁ、下の街』


 見渡す限りの黄金の海、に見えるのは実った稲か小麦だろうか。

 その向こう側に切り立つように存在する恐らくは石の壁。

 王都全体を覆うように作られている、防御壁だろう。

 そして、圧巻なのは。


『そうそう、あの浮いてるの・・・・・、アレが王城。』

「まじかぁ」

「おお……飛島ラピュタは本当にあったんだ」

『お、元ネタの方知ってるとは通だね』

「ガリバー旅行記ぐらいは読んでますよぅ」


 王城が中心にそびえ立つ飛島は、差し渡し1kmほどの大きさで、王都の上空に浮かんでいた。

 なんでも日中は常にゆっくりと王都上空を円を描くように移動しており、地表の日照を遮り続ける事のないようにしているのだとか。

 ちゅうか、王様の城に対して日照権とかうるさい事言うやつおらんやろ。

 それはともかく王都が目に入ると足が軽くなるようで、周囲の人達の歩みも幾分速くなっているような気がした。

 人通りもシュタットチチェンの街周辺と比べて、段違いに多くなっている。


「人も多いし人種も様々って凄いなぁ」


 道行く人達は、普通の人間が一番多いのだが、やはりファンタジー的世界だけ有って、様々な外観の持ち主が混ざっている。

 見た目人間っぽいが尻尾があったりやけに小さかったりやけに太かったりやけにデカかったりと様々だ。


「ああいう人達は、こっちじゃ何ていうんだ? 下手に口にしたらアレかも知らんから例も言わんが」


 現代日本の妄想世界では溢れかえっている、人に似た人とは違う外観の者たち。

 それが現実に目の前を闊歩しているのを見ると、思わず色々と騒ぎたくなるが、その点私もミハも心得ている。

 口は災いの元なのだ。


『あー、うん。いい心がけだと思うよ。いわゆる普通の人間は、普通人で、それ以外はその種族がそう呼んでる呼び方で呼ぶようにしてるね。下手に亜人種とか犬みたいだとか言うと、中には切れるのも居るから。僕の頃は公式には犬とか猫とかの獣人なら犬種獣人、猫種獣人って言う感じに呼んでたけど。だからエルフは一部からは森守りって呼ばれたりする。ドワーフとかは自分で酒樽とか言ってたけどね』

「なるほど森の人」

「ちゅうことはアレは猪種獣人?」


 特徴的な鼻がぷるんと顔から突き出ている、がっしりとした体型の、尻からちょろんと可愛らしい尻尾が伸びている男性が王都側から歩いてきていた。

 口元には牙が伸びているのを見ると、正しく猪という感じである。


『そだね。間違ってもオークって言ったら殺されても仕方ないから気をつけてね?』

「お、おう」

「豚さんはデブデブ言われてるけどアレで体脂肪率15%とかだからな。デブは豚じゃない、もっと別の何かだ」

「俺、結構鍛えてたときでも18パーが関の山だったんだけど」

『ボディービルダーが身体仕上げた時だと3パーとかだけどね。下手すると死ねるし』


 通りすがりの人間観察をしつつ、王都へと実り豊かな畑の中を進んでゆく。

 王都入り口に近づくと扉のない出入り口と思しき巨大な開口部があり、その手前には幅の広い水堀が築かれており石造りの橋が架けられていた。


「結構でかい堀だな」

『堀じゃなくて池だけどね。元々は三日月湖なんだよコレ』


 曲がりくねった河川が侵食や氾濫によって真っ直ぐな川へと変貌する時がある。

 その時取り残された湾曲部分が、三日月湖と呼ばれるものになるのだが。


「へぇ。じゃあ2m位ある鯉とか居る?」

『頭からビニール袋でも被せて捕まえるのかい? まあ流石にそれは居ないけど、別のなら居るよ?』


 鈴木氏が苦笑交じりにそう答えた時、ちょうど上空から巨大白鳥が堀の水面へと舞い降りてきたのである。

 アズールさんがココに来る折にはよくお邪魔していて知られているのか、周囲からは歓声が上がるのみであった。

 その大白鳥、暫く頭を水面下に突っ込んでいたかと思うと、不意に顔を出すとそのくちばしには巨大なナマズのような魚が咥えられていた。


「あの鳥、頭のサイズがコレくらいだったから……ビワコオオナマズくらいあるよ、あのナマズっぽいの」

「そりゃでけえ」

『僕の頃は非常食にと思って放しておいたんだけどなぁ……まあ今はそんなの関係ないみたいだから良いのかな』


 食糧事情はそう悪くはないのだろう。

 門の前から続く、王都に入る者たちの列を相手にする屋台などもあり、景気の良い呼び込みの声を上げている。

 その列には当然の事ながら、私達一行は並ぶ必要はなかった。

 貴族用なのか、若干豪華な装飾が施された出入り口に誘導され、王都へとたどり着いたのであった。

 

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