第50話 いざ王都へ
「おまえら、うちの嫁を頼んだぞ」
出立の前に、デービッドも姿を現し声をかけてきて、アルム達もそれに気楽そうに応えていた。
いつもの事なのだろうか、馬車の周囲を囲う動きもスムーズである。
「まあ任せといてください。王都までならそれこそギルマスの手を煩わせる必要なんてありませんよ」
「まあ、そうだな。じゃあくれぐれも気をつけてな。あとミハエルとヨーコ!」
前回ミハエルに同行したアルムたちパーティに声をかけた後、デービッドはずかずかとヨーコらに歩み寄り、話しかけてきたのだ。
「ほい?」
「なんでしょう」
「ちゃんとアルムたちの指示に従えよ。あと、アズールが出たがっても止めてくれ」
「はあ」
「なんだかわかりませんがわかりました」
なんだかんだで嫁の心配をしているのだと思うと、思わずヨーコも苦笑いである。
だが実のところ、下手にアズールが手を下すと、そちらの被害のほうがでかくなるという意味での発言なのだが。
「もう、そんなに心配しなくても大丈夫よ、ねえメアリー」
「そうですね、出来れば私でも手に負えないとなってから動いていただければ」
「それじゃあ大抵の相手は終わらせちゃうじゃない。つまんないわぁ」
馬車の外での会話を聞きとがめたアズールらも何やら話しているが、ヨーコは聞こえなかったことにした。
まああの
「馬の飼料とか、道中で確保してあるんだってね」
「そりゃまあ、領主様一族だしな。その辺完璧だろ」
馬車について街の中を進みながら、最後尾を並んで走るヨーコとミハエル。
どちらもバイク型の変形装甲服であるが、少々どころかだいぶ仕様が違う。
かたやプロテクターのような装備を着込み、跨っている二輪車自体が変形してそのプロテクターと一体化し装甲服となるもので、こちらはミハエルが喜々として装備している。
変形の仕様が複雑すぎて、何度も身体のあちこちを挟んだり股間をぶつけたりひっくりがえりまくったりしたが、それでも諦めることなく完成にこぎつけたのだった。
プロテクター付けないまま変形させてトンデモナイ状態になったりもしたが、後でちゃんとプロテクター付けていない時は変形できないように安全装置も付けたので安心である。
そしてヨーコの方はと言うと。
「まさかゴーレム扱いされるとは思わなかった」
というレベルの変形機構だ。
二輪車のほぼすべてのフレームと外装が分解し、組み替えられて搭乗者を覆い尽くし、身の丈4m弱の人型になるのである。
「名付けて『がらんどう号』。中身、がらんどうだしね」
「元ネタの更に名前つけの元か。まあ趣味満載だからしゃーない。しかし、鈴木氏のはあれでよかったのか?」
「だって骨だし、スカスカになっちゃう」
『僕もそっちがよかったけど、まあ実物見れただけで十分だよ。どうせ移動中の昼間はあの鎧つけなきゃ外に出れないしね』
鈴木太郎にもきちんと――ではないが、彼の望む装備を新たに作り上げていた。
『骨だから出来ることってあるんだなって』
「いや、お前さんがいいならいいんだけどよ」
鈴木太郎の新装備、それは夜番の時に周囲を警戒するために彼専用に作られた高速移動用装備である。
『まあ、夜の見張り番は任せてよ。もう楽しみで眠れない状態だからねぇ』
「元々寝なくて良いだろ、お前さんは」
「まあ助かるのは事実だけどねぇ」
『ほんと言うともう一台と合体してストロングな姿にもなってみたかったけどね』
「まあそっちはおいおい?」
そんなことを話しながら、街の門をくぐる。
初めての異世界を堪能した街から、また他の街へ。
しかも今度は更に大きな街であろう王都である。
二人は世話になった街に振り向きつつ、誰ともなしに手を振った。
「そういやこの街の名前、聞いたことなかったな」
『そういや僕も知らないや。近場に街がないから、街って言えばココって感じで誰も名前言わなかったね』
「何だお前ら、そんなこっちゃ冒険者稼業やってられねえぞ?」
「アルムさん?」
気がつくと、馬車の前方で仕切っていたアルムが後方に下がってきていた。
立派な鹿毛の馬に騎乗している仕草も堂に入ったものだった。
「あの街の名はな、初代国王が名付けたんだ。「旅立ちの地」と言う意味の『シュタットチチェン』ってな」
『……え? 僕知らないけど』
「す、すたぁあとちてん……くっそ。そう来たか」
「国名だって普段言ってた泣き言の「モーヤダ」ってのが拾われちゃってるしねぇ。まあ仕方ないわ」
鞄の中の鈴木太郎の声は、二人にしか聞こえないため、アルムは二人の反応に首を傾げたが、「後方の警戒は任せるぞ」と言って先頭に戻っていった。
「さて、これからどうなるかは知らんが、なんとかなるだろ」
『僕は嫁に会ったら何言おうか今から悩んでるけどね』
「まあ、生きてるとしたらエルフ嫁とドラゴン嫁でしょ? どっちも人外なんだから、まあ良いんじゃないの?」
気楽そうに言うミハエルとヨーコに、鈴木もそのカバンから出した顔を綻ばせながら、生きてる時に出会えてたらもっと楽しい世界生活だったろうなぁ、と呟いた。
「あ、鈴木氏がデレた」
「お、男にデレられても嬉しくなんて無いんだからね」
『デレたって、ちょっと嬉しさがこみ上げてきてただけじゃないか。だいたい既婚者に興味はないよ!』
「ネトリネトラレ属性はないか。いいことだ」
「ああ、もう目茶苦茶だったものねぇ、ウス=異本業界もそれ以外も」
『うすいほん……って同人誌!? そういや夏冬のお祭りってまだやってるの?』
「おう、毎回大盛況だ」
「直近のは参加者50万人とか発表されてたな」
『おおう……会場は変わらず有明?』
「だな。そういや次のオリンピックが東京でな。その時にオリンピックで利用するから使えなくなるって話で、会場どうするかって揉めてたわ」
『ありゃー、大変だねぇ。もう前のとこも無いし、千葉のトコも容量不足だろうしね』
そんな事をダラダラと話しながら、彼らは馬車の後を追って街道を進んでいった。
まだ見ぬ王都目指して。
『どれくらい発展したかなー』
「そういや鈴木氏はそこで暮らしてたんだよな」
「王城でかい?」
『んー、まあ見てのお楽しみ?』
一人は見てた。
【第一章 完】
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