第49話 神が敵
「なるほど、宗教関連でしたか。それは如何ともしがたいですね」
預かっていたメガネ型探知機をヨーコに手渡しながら、話のあらましを聞いたメアリー。
メガネを外すときに『あ、外しちゃうんだ……』と鈴木氏が呟いたりしたが。
「鈴木氏のメガネっ娘属性が暴かれたりしたがそれはそれとして。その宗教とやらはどこのなんていうトコなのかはわかってるんですか?」
『べ、別にメガネっ娘好きとかそんなんじゃないんだからねッ!』
「ツンデレムーブもいらんから」
『ツン……デレ……?』
「……あ、20年前にはツンデレって無かったっけか?」
ヨーコ達がそんなことを言っている間に、アズールたちの話は進んでいた。
「実はこの件に関しては、既にお父様が動いてるわ」
「まあそうだろうな。で、その宗教とやらは何を目的にしてやがるんだ?」
「わかっているのは国家転覆と、それに伴う宗教国家の樹立、くらいだけれど」
「なるほどなぁ。初代国王の遺骸をどう扱うつもりだったかはさておいて、こいつぁチト厄介な相手かもしれんな」
国家対宗教という図式は比較的よくある話だが、ことこの異世界においてはそうでもない。
神々が実際に存在しているためだ。
「いざと成れば、神降ろしでもして相手をするって事もありえるか」
「だとすると、私も呼ばれる可能性があるわねぇ。ああ、今は無理かも」
「だな」
そういって、自身のお腹を優しく撫でるアズールと、それを微笑みながら見つめるデービッドである。
そんな会話をする二人に気がついたヨーコは、気になった事を尋ねてみた。
洗礼してくれた時に神様が降りてきてたのとは違うのか、と。
「洗礼してくれた時のアレとはまた違うんだ?」
「え? ああ、あれは神を降ろした訳ではありませんから」
アレは、どちらかと言うと窓口になっただけ、言わばスピーカーである。
神を降ろすというのは、身体を神に明け渡し地上での神罰遂行を成す事を指す。
その反動で、神を降ろした当人の身体は半ば作り変えられ、神人とも言える存在となる、のだが。
それはあくまでも生き残った時に限られる。
「神降ろしするとだいたい死ぬからなぁ」
「神の力が強すぎて、身体崩壊しちゃうのが普通なのよね……」
「マジすか」
ある意味自爆技みたいなものか、と思ったヨーコである。
しかしアズールによれば、神降ろしを行ったあと、生き残ったという記録は少なくないという。
「神人? みたいな存在になれるんなら無理を承知でやりたがる人も多いでしょうに」
「まあそうなんだけど、状況が揃わないとそもそも降りてきてくださらないから……」
曰く、異界の神が攻めてきた時やそれに準ずる状況でなければそもそも「神降ろし」は発動しないのだという。
そして、神降ろしを行える者は、大概が高齢の神職である場合が多く、もし神人として生き残れたとしても、寿命で亡くなる事が多いという。
「神人になっても死ぬんか……」
「神でさえ死ぬのだから、当たり前じゃない。ヨーコの世界には不滅の存在がいたの?」
「いやまあ、いないから憧れるという話で、空想世界の中くらいかなー」
永遠不滅のものなど無い。
神でさえ死ぬのだ、神人となったからと言って不老不死になれるわけではない。
「アズールさんみたく、エルフな人が神降ろししたらどうなるんだろ」
「うーん、どうなのかしら。そもそもエルフで神聖魔法を使えるのって、そういないのよね。信仰心薄い人多いから」
「そーなんだ……」
他のエルフの人たちは、よくあるジャパニーズファンタジーのエルフというわけか、と納得するヨーコであった。
「エルフは普通、神々を信仰するよりも世界樹を中心とした精神世界の住人だったからかしらね。私がちょっとおかしいのよ」
そういって笑うアズールである。
「さて、メアリーも戻ってきたことだし。次の行動に移りましょうか」
「む? 何するんだっけ?」
『さあ。なにかあったけ』
ぽんと手をうち、話を進めようとするアズールに、ヨーコ達は首を傾げた。
次の行動って、死霊術師の背後関係を調べるとかそっちだと思ってたが、それはさっき止められている。
じゃあなんなんだろう、と思っていると。
「王都にお出かけよ。陛下、奥方様にお会い出来るように計らいました。いかがですか?」
『え、マジで? え、でもちょっと待って心の準備が』
「大丈夫ですよ。今回は転移魔法は使いませんから。ちょうどいい機会ですから、ヨーコ達に経験を積ませます」
「あ、ギルドのお仕事第二弾って事ね?」
「そうです。ヨーコ、あなたはどうにも危なっかしい。もう少し地に足をつけた行動をするように心がけなさい」
確かに浮かれていたのは事実であるので、耳が痛い話であった。
★
さて、王都までの移動を行うのは、冒険者ギルドマスターとしてのアズール。
その護衛として、ヨーコやミハエルを含めた冒険者パーティーで、街道を行くのだ。
「4頭立ての馬車で、俺らはあくまで護衛なわけだが」
「うん、せやね」
「他の冒険者の人らだって馬乗ってるし」
「そーな。でも私ら馬乗れんし」
「だからって、これはどうかと思うんだけど」
「すまん。ちょっと頑張りすぎた」
王都への出立当日。
屋敷の出入り口から姿を表した馬車を、待ち構えるようにしていた冒険者たちの姿があった。
そこには、冒険者ギルドから護衛任務を受けた、既に顔見知りとなっているアルムらのパーティーが騎乗してやってきていたのである。
屋敷の門から姿を表した馬車を囲むようにして動くアルムらが、馬車に続いて出てきたモノに少なからず驚愕したのは仕方のないことであろう。
「徒歩じゃついてけないし、馬に乗れる様になるには時間が足らぬ。だから仕方ないことだったのよ」
「いや、俺もこういうの嫌いじゃないと言うか大好きだけどよ」
『うひょひょひょ! まさか琥珀色の男の夢が実現するとは、いやあ生きててよかった。死んでるけど』
カバンの中から嬉々として叫んでいる鈴木氏が言うように、二人が跨っているのは、とある二輪車に酷似した魔道具である。
王都に護衛としてついていくことになったあの日、馬車の護衛なら馬に乗れなきゃねと練習を始めたのだが襲歩どころか常歩すら身につかなかった二人であった。
なので仕方なく、あくまでも仕方なく、ヨーコは自分達用に乗り物を作ったのである。
思いっきり趣味に走って。
「可変式乗用二輪装甲服、ねぇ」
「仕方ありません、ヨーコ様ですから今更です」
その二人を馬車から見つめながら、呆れるともなんとも言い難い表情を浮かべるしか無かったアズールとメアリーなのであった。
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