第48話 主人公、自覚する
『了解しました。一旦帰還します』
クノイチの住処が確定したので、一旦メアリーには戻ってもらうことにしたヨーコたちである。
いざと成れば転移魔法で移動できることもあるし、魔道具で常時監視も可能であるためだ。
メアリーの帰還を待って、アズールは次の行動に移ると宣言し次の話題に移行した。
「死霊術師の件です。父からの連絡によると、あの死霊術師はとある宗教組織の者に指示されて初代国王であるタリョー・スズゥキィの遺骸を使役する為、墓を荒らそうとしていたようです」
「墓荒らしっていっても、周りになんか変な光る石を置いてただけだったけど?」
『ミハエルくん、それ墓に仕掛けられてた聖域結界を破る為のもんだと思うよ? まあ僕自分で外に出てたから関係ないけど』
「どう見ても『闇』系統の存在なクセにその聖域結界とやらを気にしないで外を出歩いてるってどうなん?」
『いやあ、実際結界なんて僕生前から障害になったことないし?』
「それユニークスキルなんじゃねえのか?」
地味に出鱈目な能力である。
それはともかく、ミハエルが鈴木太郎の墓に立ち入った時にあの死霊術師が行っていたのは、言ってみれば墓の封印を解く術式だったわけだ。
もっとも、そんな苦労をしたとしても、中は空っぽだったはずだが。
「でもまあ、遺体盗掘がうまく行かなくても、何も得るものなかった訳じゃないだろ。あのままだったら」
ミハエルはそう言って、自分のバッグを指し示した。
そう、それは鈴木太郎の墓に納められていた副葬品でもある。
中には鈴木太郎が生前に集めて、外に出さなかった曰く付きの所持品が収められている。
まあ日用品も多数収められているが。
『それが盗まれてたら、確かにちょっとアレだったかもだけどね……』
「そのカバン、鈴木さんのだったんだ? どこで手に入れたのかと思ってたら」
『ああ、僕が持っててもしようがなかったからね、ミハエルくんにあげたんだ。だから盗掘したとかじゃないからね? 怒らないであげてね、アズちゃん』
「それならば仕方ありません。所有権は元々陛下にございますし、ご遺族はどなたも使えなかったのですから……」
それはともかく、とアズールは話を戻してこう告げた。
「あの死霊術師は、異界の神を奉じる者であったという話です」
「異界の神?」
「他の世界の神様? 三柱の大神とは別の、ってことか」
異界の神とは、この世界を形作り維持している神々以外の、他世界から訪れた神のことを総じて言う。
そういった神は世界を渡り、全く異なった存在として世界を侵食していくのだという。
本来の神々と共存する神も居れば、尽くを食い尽くそうとする神もいる。
そして――。
「その神は、世界を食らいつくすモノだというのです」
「まさかの異世界侵食? ダイジョブなん?」
あまり心配はいらない、と言うアズールの言葉だがちっとも安心できない。
「うーん、神様対神様だと世界吹き飛びそうな気がせんでもないんだが……」
「だよねぇ。んで『神が直接対処すると世界への影響がデカすぎるから』云々って感じでその世界の人間とかが相手しなくちゃいけなくなるんだよきっと」
『ああ、そういう心配ならいらないよ?』
元の世界の物語でありがちな設定をタラタラと口にするヨーコであったが、それを鈴木太郎が否定した。
「なんでまた」
『だって、そう言う外敵対策に、天龍みたいなのが居るんだし』
「ほえ? うちのチビ?」
相変わらずヨーコの頭上でトグロを巻いて惰眠を貪っている龍に、ヨーコは首を傾げた。
コレがなんかの役に立つのか? と。
『龍は基本的に世界の守護者なんだよ。英雄譚じゃ敵役をさせられてるけど、アレは似て非なるものだよ? 僕もたまに狩ってたけど、それだって龍違いだからね』
何が違うのか、という顔で鈴木を見るヨーコらに、アズールがクスクスと笑いながら話の補足を口にした。
「龍と言うのは、陛下も仰られていましたが世界を守護する存在なの。似たような姿で同じく龍と呼ばれているモノも居るけれど、別物なの。池に言ったときに私のお友達、見なかったかしら?」
「ああ、はい。あのでかい鳥さんですよね?」
冒険者ギルドのお仕事で訪れたあの池の主、巨大な白鳥を思い浮かべるヨーコ。
たしかに見た目だけなら鳥だけど、あれを普通に鳥として扱うのはかなり無理があるだろう。
「ええ、あの子を見て、そのあたりを飛んでいる鳥と同じだ、って言えないでしょう?」
「ああ、はい。そりゃ見ただけで別モンでしたし」
「それと同じことよ。特に龍は、老いることなく力を蓄積するという存在だし、そんじょそこらの異界の神がこの世界にちょっかいかけてきても、そうね、逆に喰らい尽くすかもしれないわね」
食うんだ。
そう単純な事ではないかもしれないが、神を食う化物の存在は元の世界でも多々あるため、すんなりと受け入れたのであった。
「じゃあお前もおっきくなったら悪い神様食うような凄い存在になるのかねぇ」
頭の上で鼻提灯を膨らませているチビ龍の重さを感じながら、ヨーコは思わず苦笑いであった。
「話を戻すと、その死霊術師の所属する異世界の神様を祀る宗教組織が有って、そこからの指示で鈴木さんが狙われたと」
「ええ、その事をお父様の方で聞き出したんだけれど、根は深そうよ」
どうやって聞き出したのか、というあたりを言わないのはこちらに配慮してのことだろうか。
ちょっと聞きたいような聞きたくないような。
「あ、聞き出した方法聞きたい?」
「え、ちょっとさわりだけ、教えて貰えます?」
興味がありそうな雰囲気が、どこかに滲み出ていたのであろうか。
ニッコリと笑ってヨーコにそういうアズールに、思わず頷いてしまったのだが。
「まず沈黙の魔法で呪文唱えたり出来ないようにします。その上で痛みなんかの感覚を倍増させる魔法とかアイテムを——」
「あ、すんませんもういいです」
あっさりと諦めたヨーコであった。
「で、この件でその宗教とやらを探りに行こうかと思うのだけれど」
「あ、私行きましょうか? 色々とアイテム取り揃えたから防御も攻撃も完璧ですし」
「っておい、お前が行くのかよ」
「ミハも一緒に行こう。ちょっと私ら真面目に動かんとイカン気がする」
何か気合の入った顔でそういうヨーコに、ミハエルは眉間に皺を寄せて思案し始めた。
『どしたの奥さん。別に奥さんたち動く必要ないんだよ? この世界のことはこの世界の人に任せるなりで』
「でも鈴木さんは、なんだかんだ言って生前頑張ってたんですよね?」
『あー、うんまあねぇ。でも僕の場合はどっちかって言うとやらないと即死な状況とか、嫁のために働いたら結果としてああなったってだけだからなァ』
「例え結果論だとしても、鈴木さんがこの世界に来て、動いたのが今につながってるわけじゃないですか。凄いことです。私もこんなへんてこな力貰ってるんだから、ちょいとくらい還元というか役に立つなら何かしたいなって」
そう言うヨーコに、鈴木もアズールもうーむと頭を悩ませる事になった。
正直なところ、能力的には確かに凄いし希少である。
であるが、だからと言ってそれを危険なところに放り込むのを許容できるか、と言われれば。
「却下ね。ギルドマスターとしても許可できません」
『却下だね。正直、もっと地力を付けてからでないとすぐ死ぬと思う。なんぼアイテムで守ってるって言ったて限度あるし』
「うん、却下だな。無理にでも行くってんなら無理にでも止めてやる」
「そうだな、元締めとしても許可できん。これはどちらかと言えば裏の仕事に近い。それもかなり上位のものでないと任せられん」
アズールに鈴木太郎、旦那にデービッドにまでダメ出しされたヨーコであった。
「だいたいなんでそこまで行こうって気になるんだ? 危険がないダンジョンに行くってんなら話はわからんでもなかったが」
「いやだって、世界を守護する役目をもつ天龍の子供を拾ったり何やかんやと国の危機とか世界の危機っぽいことが立て続けに起こってるやん? これはもしや主役的な動きをしやんとアカンねやないやろかと。物理防御も魔法防御もほぼ完璧だから―—」
「あー、うんわかった。お前アホやろ」
「いやその辺は否定したいが否定しないけども」
「しろよ。というかな? この状況でそんな事するってアレやろ。死亡フラグを田植え機で植え付けてくレベルで死ににいくようなもんやろ」
「なんでや。これでもかってくらい主人公ムーヴする要因にあふれてるやん」
なおも自分の主張を取り下げないヨーコに、ミハエルはため息を一つついて、ヨーコの肩に手を置き、こう告げた。
「今のお前な、「コレだけの準備がアレば」とか「この最新型の武器があれば」的な負けフラグ乱立させてるんだけど」
「しまったぁああああ」
『勝ち誇った時、そいつは既に敗北している、だね』
頭を抱えるヨーコを見ながら、嘆息するミハエルと鈴木太郎。
そして。
「……何があったのですか?」
そんな状況の中、全速力で帰ってきたメアリーに心配されたのであった。
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