第45話 それからそれから?
「そんな訳で日本に帰る云々は、まあ機会があればねと言うことで落ち着きました」
「そう言う話に落ち着いたのね。でも、向こうと行き来できたら色々と珍しいものが手に入りそうなのにね」
話し合った結果をアズールらに伝え、コンゴトモヨロシクと言うヨーコに、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべる反面、少し残念だとも言った。
「交易とか考えてたのかね? さすが領主一族、と言ったところか」
『いやあ、ただ単に珍しいもの好きなだけだと思うよ? 普通のエルフはもっとこう、偏屈だもん』
「あらやだ陛下、それじゃまるで私が変わり者みたいじゃないですか」
「変わり者だと思うぞ? 俺なんかと一緒になってる時点で」
あらやだうふふとか言ってデービッドといちゃこらし始めるアズールを放置して、ヨーコ達は残る懸念を口にした。
「んでさ。あの死霊術師とかクノイチ、背後関係がすっごい怪しいと思わん?」
「怪しいね」
『うん、怪しさ大爆発だよね』
「鈴木氏それ好きだな」
『まーね。そいやあの雑誌っていまどうなの?』
「発行元が倒産して色々移ったりして休刊に継ぐ休刊の末」
「何年か前に電子版出てそれっきりだっけ」
『そっかー……今も大人気だぞとかだったら良かったのに、寂しいねぇ』
「しょうがねえよ、ジャ◯プだって発行部数200万部割り込んだしな」
『ああ、マガ◯ンに抜かれたってトコまでは僕も知ってる』
「いやそんな話はいいから」
「すまん」
『ごめんつい懐かしくて』
話を元に戻しましょう、とヨーコが仕切り直すと、アズールらも姿勢を正して会話に加わってきた。
「死霊術師の方は、衛兵に引き渡してるから情報は
「代官には私の方からお父様に一旦引き渡す様に話はしておいたから、そろそろ領都に着いてる頃かしら。下手に王都直送なんてしたら、途中で
「ああ、どこにでもあるんですねそういうの」
今のところ、死霊術師に関しては背後関係はわかっていない、という話である。
というよりも、取り調べ自体が街の詰め所レベルでは行えていなかった。
「死霊術師はなぁ。話を聞こうと口を開けさせたら、その場で死霊呼び出したりするからなぁ」
「お父様ならそのあたり大丈夫だと思うけれど。向こうに着くまで能力封じの護符と合わせて、ずっと眠らせておくように指示はしておいたから、道中は安心だと思うわ」
「意外と厄介な」
死者や死体を使役する死霊術師であるが、結構面倒な相手なのである。
物理で殴る死体操作はもちろんのこと、死霊を呼び出して精神的な攻撃を仕掛けることも出来る。
見張りを付けたとしても死霊を乗り移らせて操る事も可能だというのだから、眠らせておくのが一番手っ取り早い。
「死霊術師だとバレてりゃそう面倒なこっちゃねえ。こっそりやられるのが一番厄介なんだよあいつら」
「そうですね。熟達の死霊術師が本気に成れば、街の一つや二つ一晩で廃墟と化すでしょう。まあそのような高レベルの者は、そのようなことをしないそうですが」
「そうなんだ? なんかトチ狂ってやらかしそうなイメージあるけど」
正面からかかってきたのならばどうとでもなる、そういうデービッドに同意して頷くメアリー。
そして、本気の高位死霊術師にかかれば、対策なしでは恐ろしい被害がもたらされる事も告げられた。
「そもそも、魔術師ってのは自分勝手なんだよ。死霊術師なんてのはその最たるもんだ。なんたって死体とか死霊とかを死んでるんだからって自分の好きなように扱いやがるんだからな」
「そうね。私も死霊術師の人は一人存じ上げているわ。件の者よりも遥かに高位だけれど、基本的に他人と言うか、世間などはどうでも良いという方だわねぇ」
「世捨て人か」
デービッドが半ば呆れるような顔で死霊術師を含む魔術師全般の批判をするが、誰からも反対意見はでなかった。
高位に成ればなるほど、自分の魔法・魔導の追求に勤しむ者が多くなるのだという。
そして――。
『うーん、僕にも知り合いいたけど、どっちかって言うと、めんどくさがり屋、だったけどなぁ。あ、もしかしてアズちゃんの知ってる人と同じかな?』
「と言うか、陛下にご紹介していただいた方そのものですわね」
「鈴木氏の知り合いって時点でなんかすげえ事やらかしてそうなんだけど」
『そんな事は――あるかな。飯食うのも寝るのも研究するのに時間の無駄だとか言ってたし』
「はぁ、もしかしてその人、自分でアンデッドになっちゃったとか?」
『僕が知り合った時はもうアンデッド化してたからねぇ。デモニッシュリッチだっけか』
「名前だけでヤバイ」
鈴木の知り合いに死霊術師が居た、という時点で驚いたが既に不死者となっていた事に更に驚きその成れの果てである名称に更に驚かされた。
『あ、でも危険はなかったからお友達になったんだよね。研究内容がまた変わっててさ、不死者に子供は生まれるか、って』
「……死んでるんじゃないの?」
「どこかのとんでもアパートに住んでるんじゃね? 死者の子供」
『ああ、あったねえ』
「まあそれはそれとして。死霊術師の方は辺境伯に丸投げしたってことですね? じゃあクノイチの方は?」
また話が横道にそれそうになったところを、ヨーコが無理やり軌道修正した。
のだが、そちらはそちらでまた面倒なことに繋がりそうでもあった。
「そっちがどちらかってぇと本題だな。ありゃあ、裏社会の人間だ」
「裏社会、ですか」
裏社会、と言う言葉に、ヨーコもミハエルも嫌な顔をしてしまった。
現代日本でも、そう言った連中とか代わりになるのは身の破滅に直結してしまうのだから致し方ない話である。
「そんなのが入り込んでたなんて、面倒な話にならないんですか?」
「裏社会って、暗殺ギルドとか盗賊ギルドとかの構成員ぽいなぁ」
『似たようなのはあったけど、全部潰したはずなんだけどなぁ』
「潰したんだ……流石」
『潰したって言っても、恭順してくるところは残しといたけどね。裏は裏でないと更に面倒なことになるし』
なんだかんだ言ってヤリ手だった鈴木氏にヨーコらが感心していると、デービッドも今回の件に関してはもう出来ることはないと告げた。
「ま、表に出てきてるやつぁ基本ただの枝葉だからな。捕まってもトカゲのしっぽみたいなもんさ。報復も何もありゃしねえ代わりに、こちらもそれ以上探れねえ。とっ捕まえたクノイチだって、まともにやったって何も話しゃしねえしな」
『まあ裏を返せばまともじゃない手段ならやりようはあるんだよね……今回やってないみたいだけど』
そういう鈴木に、デービッドは訝しげに尋ねた。
昔はどうしていたのかと。
『ああいう連中、苦痛とかに訴えても効かないし、役目さえ果たせば自裁しちゃうでしょ?』
「ああ、そうだな」
『面倒な時は、殺してから死霊術師に話をさせたりしてたよ』
「うわ、鈴木氏エグい」
『僕だって推奨はしてなかったけどね。放置した時のリスクとか考えたら、それくらいはね。どうせたいてい死罪だし、そういう連中』
どうせ死罪なのだからと、そういう行為に及ぶのは流石に人権意識が向こうとは違うだけのことはあるなと納得する。
自分たちはそういう立場にならないよう気をつけたいところだと考えながら。
「そうだな、それくらいの事が出来て信頼ができる死霊術師が居るのならいい手かもしれんな。だが今のうちにはそんな人材もツテもない』
「私の知り合いに頼むのも基本無理なのよねぇ。自作のダンジョンの奥に篭っちゃってて」
「ダンジョンとな」
『あるよ、ダンジョン。たまに持ち主が奥で生きてて逆に怒られたりしてたなぁ』
「……ああ、その持ち主の一人がその死霊術師の知り合いさんですか」
『だね。死んでるから元気かなぁっていうのもおかしいけど、元気かな』
異世界ファンタジー名物、ダンジョンである。
異世界に来たら潜らねばならないという縛りでもあるのだろうかと言うくらいダンジョンは普遍的に存在し、皆潜る。
「ミハ、あんたダンジョン潜りたい?」
「おれは出来ればお断りしたいでござる。何が悲しゅうて危険が危ない所に行かねばならんのか」
「だよね。ちょっと覗きたいとかは?」
「すごく覗いてみたい」
「ですよねぇ」
安全なダンジョンがあれば行ってみたい、と同意した二人であった。
そんな物があったらね、と笑い合う二人に、アズールが首を傾げてこう告げるまでは。
「あるわよ? 安全なダンジョン」
「マジすか」
「あるんだ……」
そんな気楽な方に話がねじ曲がっていっているヨーコたちとは別に、鈴木とデービッドの話は少し危険な方向に進んでいった。
『そのクノイチ、まだ死んでないってことは、情報を伝えて無いから死なないでいるのか、そもそも自分が裏とか表とか知らされてないって可能性もあるんじゃないかなって』
「なるほど、手にれた情報を伝える機会がまだ残されている、と見るか、そもそもヤバイ橋を渡るのは理解していても、その指示してきた奴らが別の皮を被ってるって事もあるわけだ」
『そのクノイチ、ちょっと僕も興味出てきたなぁ。会わせてもらえるかな』
「そうだな。何か進展があるなら助かるしな」
そうしてクノイチと顔合わせを行うこととなった鈴木太郎氏であった。
なお、デービッドはずっとお犬様を抱えたままだったので絵面的にはものすごく微妙な感じであった。
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