第44話 おまえもか

「ちょっと鈴木氏。魔獣に通常兵器効かないって、なんでわかるんだ?」


 鈴木太郎の言う「魔獣に通常兵器が効かない」という言葉に、ミハエルは首を傾げた。

 普通にアレだろ! レベルを上げて物理で殴れ! が通用するだろ! と思ったからだ。

 しかし、鈴木の答えは少し違っていた。

 純粋な物理攻撃自体を否定しているわけではないというのだ。


『うん、正確に言うと攻撃自体は効くよ? でもそれは一時しのぎになると思うんだ。向こうで魔獣が生まれるでしょ? 銃で撃ったりして殺すとするよね? そしたら、殺された魔獣から吹き出る魔力とか魔素が、周りに散らばるんだ。そして、また魔獣の生まれる原因になっちゃう。下手するとパンデミックだよ』


 現れた魔獣自体は倒せるが、それによって再び魔獣が他にも生まれる事を阻止できないのではないかというのだ。

 無論それに関しての疑問も当然生まれる。


「うん? こっちの世界だと殺した魔獣から出る魔力とか魔素は?」

『殺した側が吸い取る形になるね。僕がそれを『経験値』って言い出してからはその言い方も結構広まったけど。でもね? それって向こうの人間が吸えるとは限らないって話なんだよ』


 鈴木太郎曰く、魔獣を狩った時にその魔素など――経験値――を吸収して強くなれるのは、こちらの世界の生き物の特性なんじゃないかという。

 だから、向こうの人間がそのままの状態でこちらに来て魔獣を狩ったとしても、強くなれないのではないかと。


『なんでそんなことがわかるのか、って顔してるけど。だいたいさ、向こうの世界で強い獣とか殺して、それだけで強くなれる、なんて事ないじゃない?』

「そりゃまあ」

「そうですけど。でもそれは魔素とかが無いから、って話じゃないん?」


魔素が世界に満ちているからこその、魔獣の発生であり、魔獣を倒すことによりその身に蓄えていた『経験値』を得て能力を上げる――。

確かに、元の世界ではありえないことである。


『普通の人が向こうに現れた魔獣を狩れたとして、強くなれると思う? 僕はそうは思わない。こちらの世界で生きてる人達だからこそ、魔素や魔力に馴染んでるからこそ、吸収できる。そう考えてるんだ』


死んで暇だったから、ずっとそんな事ばっかり考えてたからね、と乾いた笑いを浮かべる鈴木太郎。


『だからさ、そういう風に敵を倒して強くなるっていうのはある種の超能力みたいなもんなんじゃないかって。だから向こうの普通の人は魔獣を倒しても強くなれない。もし向こうで魔獣を倒して強くなれる人が居たとしたら、それは多分、神話とかに残るような英雄みたいにすごく希少な存在だと思うんだ』

「……」

『そもそも魔獣が生まれるのは魔素が吹き溜まったり、特定の生き物が魔素に染まって生まれるんだ。その点は向こうの生き物も関係ないと思う』


 魔獣が生まれる理由は、未だにはっきりとはわかっていない。

 しかし、環境が魔獣を生み出しているのは経験則から理解はされている。

 そのプロセスがはっきりしていないだけだ。


『元の世界の神話の英雄とか怪物っていうのは、そういう異世界と関連のある人とか生き物だったんじゃないかなって』

「そう考えると、俺らのこの身体ってこの世界に仕様を合わせて改造されたモノなのかね?」

「そういやそうねぇ。魔素に限らず、空気の成分とか、食べ物とか、身体が吸収できない組成だったりしたら死ねるもんね」

『向こうで読んだ話で、鏡の向こうの世界にいったら、アミノ酸とか全部鏡面状態で身につかないってファンタジーがあったような。移住は出来ないけど好きなだけ食えるからダイエットに最適! とか居うオチで』

「好きなように往復できるなら便利な世界だな。ってそんな話は置いといてだな」

「とりあえず、今カバンこれを弄って向こうと繋げるのは時期尚早というわけやね?」

『そうそう。別に急ぐ必要ないでしょ? 連絡は取れるみたいだし』


 帰る帰らないはともかく、向こうに一言連絡くらい入れて安心させておきたい。

 そう考えているのは手に取るようにわかる鈴木氏である。彼も来た道なのだ。


「特に俺なんて、嫁が行方不明になった後に消息不明って話だからな」

「むっちゃ心配させてるだろーね」

『まあ、どうボカして言うかはちょっと話し合ってからにした方がいいんじゃないかな。ミハエルくん達が落ちてきた穴にしたって、今も空いてるとは限らないわけだし』

「まあなぁ。嫁はこの街のそばに落ちたって話だろ? 俺が鈴木氏の墓のそば。落ちた時間でズレが出たと考えたら、いまあの穴落ちたら、どこに出るんだって話だしな」

「せやな。絶対真似するぞ、あの連中」

「話は一段落したか?」


 そう言って頷きあった三人に、デービッドが近寄ってきていた。

 何やら難しい顔をしているが、何か問題でも起きたのか? と尋ねると。


「いや、その、なんだ。俺にもアレを一つ、だな」

「……ああ、はい、かまいませんけども」


 どんだけ気に入られてるんだお犬様、と呆れるヨーコであった。


 ★


「だって、もともと私もデービッドも、メアリーにしたってそうなんだけど、動物好きなのよ」

「はあ」

「でもね? こう、強くなっちゃうと、ああいう子たちは怖がって近寄ってくれなくなっちゃうの。そりゃしっかりとしつけすれば別だけど、そういうのは違うでしょ?」


 お前はどこぞの生徒会長か。とミハエルとヨーコが突っ込みたそうにしていたが。

 小豆柴を抱っこしてご満悦のアズールにかける言葉は見つからなかった。


「愛玩犬なのに、躾けすぎて狩猟犬みたいな態度取られるとなんか違うって話かのう?」

『あー、僕も昔はペットに近寄られなかったなぁ。寄ってきたのはドラゴンとかばっかでさ。馬とかはむしろ言う事聞いてくれて助かったけど』

「そりゃ生死をかける意味で向かってきたんだろーね」


 残っていた素材でさくさくとデービッド用のぬいぐるみも作っているヨーコである。

 ただの動くぬいぐるみ、と言うだけならあっという間である。


「これ売って生活できるな」

『でも、これ売るとしたら一般人買えないと思うよ? ねえ、アズちゃんならいくら出す?』

「そうねぇ、普通に金貨で数十枚ぐらいが相場になるんじゃないかしら」

「マジで?」

「まあこんなの他にありゃしねえからな」

「そもそも作り方が謎すぎます。仕組みを調べようとして分解した場合、再度組み立てたら動くのでしょうか」


 ヨーコとしては、核になる魔晶結石にお犬様のイメージを込めて頭の部分に収めているだけである。

 その他の付与はまた別だが。

 だから他の人が真似するんならどーぞー、的な感覚だったのだが。


『考えてもみてよ。元の世界で自立稼働するペットロボットなんか出たらすごい値段になるでしょ?』

「そういや犬型ロボットは25万とかそんな値段だったな」

「ああ、あったねぇ。死なないペットとか言いつつメーカーがアフターケア終了のお知らせとか言い出して死亡確認されちゃったアレね」

『マジで売ってたの!?』

「うん。普通に売り切れてた」

『じゃ、じゃあメイドロボは!? 20年経てば……!』

「流石にそれはない」

「ないねー」

『がっかりだよ未来』


 そう言いつつ、ついでだからメイドロボ作れない!? できればドジっこな奴! とか言い出しヨーコらに呆れられる鈴木氏であった。

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