第43話 はなしあい
「なるほど、安産祈願のお守りな。それなら納得だわ」
『あー、日本じゃ犬は安産の象徴だもんね。でも小型犬種は結構難産とかって話じゃなかった?』
「たしかにそういう話は聞いたなぁ」
子犬のぬいぐるみを抱く美女二人を見つつ、そんなことを言うミハエルと鈴木太郎。
鈴木はカバンから出した首をヨーコに向けつつ、そのあたりどうなのと訴えた。
「ん? ああ、知ってますわよそんな事くらい。ありゃ単にでっふぉーるめしただけだし。と言うか子犬だし」
「成長するのか?」
「いや、そこまでは流石に。しようと思えばやれるけど、それだと――んー、秋田犬サイズになるわね」
『出来るんだ』
お犬様のサイズ的に安産としてどうなの? と問われたが、そのあたりは知っているようであった。
それよりも、成長するぬいぐるみに再加工するとかどうなのよという話であるが。
「このままで構わないですから弄らないでくださいね、ヨーコ様」
「そうねぇ。成犬版は別に作ってもらえば良いんじゃないかしら……ってあら? 陛下のお声が聞えるようになってるわね」
「そう言われれば。先程まではその中にいらっしゃる時のお声は聞こえませんでしたのに」
「む? お犬さまとリンクしてるせいか?」
そんな中、ぬいぐるみを抱いている二人が、これまでは聞こえなかったカバンの中の鈴木氏の声が聴こえる様になったといいだした。
ヨーコの魔力で編まれた様々な術式が秘められているぬいぐるみと腕輪がリンクしているせいなのでは? という話になったが、アレのどこにそんな術式が紛れているのか、作った本人にもわからなかった。
「まあ何でもありだしな。今更だ……んがしかし、ヨーコ。おまえなんでも作れるんだよな?」
「何でもってわけじゃないかもだけど、こういうのが作れないかなと思ったら、その必要なものがわかるっていうか、今あるものにだと、どれだけ詰め込めるかわかるって感じ?」
しかし、突然真顔になったミハエルが、ヨーコに向き直って真剣な口調でこう言い出したのだ。
「元の世界に戻る魔道具、作れるんじゃねえか?」
その言葉は、その場にいるすべての者を驚愕させるに値するものであった。
★
「なるほど、話はわかった」
ギルドの別室で、というか裏の東屋で書類仕事をしていたデービッドも呼び出し、ヨーコ達は再び先程の件を説明した。
「元の世界に戻れる、「かもしれない」と言う話じゃないんだな?」
「確実に戻れるはずです。ただ……」
ミハエルに問われたヨーコが、元の世界に帰るための魔道具を脳裏に思い浮かべたのだが、それは確かに制作自体は可能であったが実現するかどうかは別問題であった。
「およそ数百メートルサイズの魔道具になる、と」
「はい。しかも、材料が」
先日辺境伯に尋ねた超硬ミスリル合金の素材が可愛く見えるレベルである、という。
流石にそれだけの代物を集めるなど、到底不可能としか思えなかった。
「と言うか、実際帰る必要あるか?」
「あー、うん。まあどっちの実家も兄弟が継いでるし、私生活の上では特に問題ないかなぁ」
「俺の方もだなぁ。仕事もなぁ。なんとなれば他の誰かが代わりに開けた穴を埋めてくれてるだろうし……せめて、こっちで無事に暮らしてます、位は伝えらんないかのう? ぐらいだな」
腕組みして頭を悩ませるミハエルとヨーコであったが、ミハエルのその言葉でヨーコがはたと思い出したかのように頭を上げた。
「そうだった! この鞄の中だったら通信繋がるんだ! 連絡っ! メールでもツボッターでもビクシーでもフェイスボックスでもなんでもいいから!」
「マジで!?」
慌ててカバンからスマホを取り出す二人。
そこには、仲間や知人、親類や会社関係者からのメールや電話の着信履歴が、大量に並んでいた。
『え、携帯ってなにそれ、今のそんなふうなの? ちょ、ちょっと見せて? うっわ、液晶画面がカラーじゃん! え、なにこれPDA?』
「あー、そういや鈴木氏の頃にはまだそこまでのはなかったか。コイツは携帯電話って言うより最早、電話もできるミニパソコンみたいなもんだ」
『マジで!? く、クロック数は!? 僕の居た頃は確かペンティアムⅡってのが出たトコで、233MHzだったけど』
「あー、いくつだっけ?」
「たしか――2.33」
『あ、流石にそこまで小型だと、性能は落ちるんだね』
「そうだそうだ、2.33GHzだ」
『――は?』
「だね。凄いね、未来」
「そのうちまた俺らより未来の人が来て、俺らが驚くことになるのかね?」
『僕の時代はデカイタワー型でやたらうるさいファンぶん回しての233MHzだったのに、そのサイズでGHzとかなんとまあ……』
日本組にしかわからない内容の話を暫く続けていたが、とにかく連絡してしまおうと着信のあった先を色々と吟味し、とりあえず会社に突然失踪した旨をどう伝えるか、というあたりを考えることにした後。
「親兄弟はどうすっかねー」
「たぶん、馬鹿なこと言ってないでとっとと帰ってこいって言うのに5000兆ジンバブエドルかける」
「そーよねー。お互いの親兄弟、こっち方面の理解ないからねぇ」
『いやいや、あっても普通無理でしょ。こんなの誰が信じるかって話だし。あとジンバブエドルって?』
「後でな、あとで」
向こうに残してきたのはそういった対人関係以外にも、まだローンが残っている自宅や、LARP会場の野原に続く道端に置きっぱなしの車など、色々ある。
そのあたりどう処理されるのやら、と言った不安があるのだ。
「鈴木氏、そのあたりの折り合いどうやって付けなすった?」
『僕? 僕はもともと天涯孤独だったしね。向こうに財産なんかもなかったし、知り合いもそんなに居なかったからねぇ……ああ、PCのデータとか、部屋に置きっぱの本とかビデオは処分したかったかなぁ……』
こういう事は先達に聞くべしとばかりに尋ねたのだが、返答は芳しいものではなかった。
と言うか、先例に倣うという事も出来ない話であった。
物理的に残してきた品に関しては、最早手が出せないのだから。
「……お、おう、すまんかった」
「わりいこと聞いたかなぁ」
『いやあ、もう昔の話だしねぇ。親の遺産食いつぶしてただけの向こうの生活より、こっちの方が僕に合ってたんだろうし。まあいつも泣き言ばっかり言ってたけどね』
「モーヤダって国の名前になるくらいだからねぇ……」
『……止める間もなく発表しやがってさぁ。何が「いつも一人でそう呟いているのを聞いておりましたので、てっきり」だよ! 聞けよ!』
「まあ落ち着け」
「そっかー、じゃあ私らも適当に向こうの事は後始末してもらえる様に話つけてもらうかなぁ」
『ていうかさ、そのカバン。電波は通じてるんだから、
鈴木氏の言葉に、その考えはなかった、とばかりに目からウロコのヨーコである。
「そうだわ、イチから作ること考えてたけど、これ電波は向こうの世界につながってんだから――あ。あかん」
「お、おい。どしたん」
『なに? 弄るのに超レアな代物でも要るの?』
カバンを凝視して、その弄る内容を吟味しはじめたヨーコであったが、即、肩を落として俯いてしまった。
心配げに声をかける二人に、弱々しげに顔を上げたヨーコ曰く。
「向こうにつなげるゲートみたいなんは出来るけど――」
「けど?」
『なんか不都合があるんだ?』
「繋ぎっぱなしになっちゃうみたい。それって色々拙くない?」
それは、どうなんだろうか。
色々と、拙いことが起こりそうで気軽にさくっと作る気になれない。
と言うより、脳内で警鐘がガンガン鳴るレベルである。
「あ、『危険察知』が生えた」
「……お、おう。そりゃやべえ」
『あー、多分空きっぱなしの異世界の穴とか、色々ヤバそうだよねぇ。細菌とかが行き来したりとかは小手調べで、魔素があちらに垂れ流しになっちゃったりとか?』
「あー。向こうで超常現象起こるとかか」
『いやあ、それくらいならまだ良いけど。向こうで魔獣が生まれたら悲惨だよ? 多分通常兵器効かないから』
「マジで!?」
そう簡単に帰還できるようにはならない、そう痛感したヨーコたちであった。
なお、地元組はと言うと。
「お、おい。俺もちょっと抱っこさせてくれよ」
「駄目です。これは私のお守りなんですから」
「ぬー、じゃあメアリー、頼む」
「流石にこれは譲れません」
悩む日本組をよそに、なんか取り合ってた。
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