第42話 おまもりだからね?

「できた」

「は、もうですか? ヨーコ様」


自室に戻り、適当な素材の在庫を使って安産祈願のお守りを作ろうと思ったヨーコだったのだが。


「日本的なお守りはなー、うーん」


リアルに現実で効果を発揮するアイテムとなってしまうだけに、身に着けやすい物にしてしまいたいところである。

普通にお守り形状だと、普段持ち歩く物に結んだりするか、それこそ紐付けて首からかける様にするかだが。


「うん、なんか違う」


エルフのアズール女史には圧倒的に似合わないと考えたヨーコであった。

ミスマッチで逆にいいかもと思ったが、それはまた別の機会でいいやと。


「案外デカくなってしまった。色々詰め込んだせいかしらん」

「それは……なんですか?」

「安産祈願のお犬様」

「……はぁ」


メアリーに問われてニッコリと微笑みながら見せたのは、犬。

でふぉるめされた小豆柴のぬいぐるみであった。

そして、その首に巻かれている首輪と同じデザインの、腕輪が一つ。


「……あの、ヨーコ様」

「なに?」

「コレと同じのを、見た目だけでよろしいのでもう一つお願いできませんでしょうか」

「……いいけど、どしてまた」

「いえ、その……」


もじもじとした態度をとるメアリーに、「なるほど可愛いは正義」と察したヨーコは、後ほど新たに作ることを約束し、アズールの後を追ってギルドへと向かったのであった。



「ヨーコ様でございますか? 冒険者ギルドに向かわれたかと」

「ありゃ、そうなのか。メシどうすっかな」

「こちらでもご用意出来ますが、いかがなさいますか?」


屋敷に戻ったミハエル達、執事のジーヴスにヨーコらが出かけていると聞かされさてどうするかと頭を悩ませていた。


「んー、いいや。俺もギルドに行くか。鈴木氏はどうする?」

『僕も行こっかな。カバンに入って。やっぱ昼間は今の僕にはキツいしね』


カバンの中だと、昼夜関係なしに何の消費もなく意識を覚醒させていられるらしい。


「というか、その鎧着てても昼間は駄目なん?」

『コレ、言ってみれば自力で夜の環境を鎧の中に生み出してるようなものでさぁ。止まると死ぬ魚みたいな感じ?』

「ああ、そりゃしんどい……のか?」


【闇属性】を持つその鎧はずっと死蔵品だったらしく、本人もカバンの中で再会するまで忘れていた品であったという。


『普通なら、魔力吸い尽くされて死んじゃう呪いのアイテムなんだけどね』

「リアルで『闇に飲まれよお疲れ様です』な鎧だったとは」

『ん? どういう意味?』

「後でな、あとで」


そんなことを言いつつ、屋敷を出るミハエルに、頭を下げて見送るジーヴスであった。

なお馬車を、と言われたが「走ったほうが早い」と、丁重にお断りしたのである。



「あらいらっしゃい、どうしたの?」


冒険者ギルドのマスター執務室で、アズールは二人を出迎えていた。

ちょうど昼食前だったとのことで、仕事も一段落させたところだという。


「はい、昨日言ってた安産のお守りです」

「あら、もう出来たの? まあそう時間はかからないと思ってはいたけれど、予想以上ねぇ」

「ええ、と。コレがそのお守りになります」


そう言いながらヨーコがカバンから取り出した、豆柴っぽい犬のぬいぐるみに、アズールは目を輝かせた。


「あらあらまあまあ、可愛らしいわねぇ。これがお守り?」

「えーと、正確にはこちらが本体で、そっちは外付けというか……」


そう言って差し出した腕輪を見て、アズールは首を傾げた。

まあわからんだろうなと思っていたヨーコも、彼女にその腕輪を渡しながら説明することにした。


「えーとですね。ちょいと加護を色々と詰め込みすぎまして。腕輪だけだと容量が足りなくなっちゃってですね、言ってみればそのワンコのぬいぐるみは外付けメモリーです」

「……言ってる意味がよくわからないんだけれど」


外付けメモリーと言っても、そもそもこちらにはパソコンなどありはしない。

「んー、なんて言ったら良いのかなー」と悩んでいると、予想外の所から援護射撃が行われたのだ。


「お方様、それはいわゆるおぷしょんぱあつと言うやつです。私の銃に後付けされた、魔法障壁と似たようなモノでしょう」


メアリーからのその説明に、アズールも「ああ、なるほど」と納得したのである。


「要するに腕輪の容量が足りなくて、このぬいぐるみに加護を付けたのね?」

「うんまあそうなんですけど、このワンコの首輪部分がその腕輪と繋がってまして」


そういってアズールの手を取り、その腕輪を着けてもらう。

すると。


「わふ?」

「うむ、成功」

「まあ、まあまあ!」

「……かっ、かっ、かわいい」


豆柴ぬいぐるみは、腕輪が身に付けられたのを感知し、その活動を開始したのである。


「キュ?」

「あー、あんたのお友達じゃないからねー。アズールさんのお守りだから」


頭の上のチビ龍がしゅるっととぐろ状態を解いて豆柴にじゃれつきに行く。

サイズ的に蛇と子犬にしか見えないが。


「えーと、一応母体とお腹の子供の安全を第一に加護を付けてみました。基本的な仕様は以下のとおりです」


魔法防御。

攻撃その他の魔力による外部からの攻撃に対して、ほぼ完全な防御能力を付与。

対呪詛。

敵対組織――あるかどうかは知らんが――から呪いとかがかけられたりしても大丈夫なように、絶対魔法防御レベルの加護を付けてみた。

対物理。

一定以上の衝撃からの保護を行う。馬車で事故っても転けても大丈夫。

その他、身体的な問題に関して、ヨーコが覚えたピースフルスピリチアル等の神聖魔法を常時微弱に行使するようになっており、精神的ストレスや肉体的な異常を未然に防ぐ事が可能となっている。


「言ってみれば、個人用シェルターと考えてもいいレベルで組んでみました。なので腕は一つに収まらなくてですね――」

「え? ごめんなさい聞いてなかったわ」

「お方様、次は私にも抱かせてください」


色々詰め込んだ自慢の一品を解説していたヨーコであったが、それをまるっと無視して豆柴のぬいぐるみをモフっていたアズールであった。

あと落ち着けメアリー。すぐ君のも作ってもらえるはずだから。



「なんなんなんだ」

『ほんとにね』


ギルドマスターの執務室を訪れたミハエルと鈴木太郎は、目の前の光景になんと言ってよいやらと、苦笑いを浮かべていた。

執務室で仕事をしているアズールの邪魔をしているのではないかと心配していたのだが、寧ろそのアズールが率先して仕事を放棄しているようにしか見えなかったからだ。


「ヨーコ様、もっともふっとした感じでもかまわないのですよ?」

「あーはいはい、ポメラニアンっぽくしとくねー」

「ぽめ何とか言うのがどんなのかは存じ上げませんがよろしくお願いします」


チクチクというよりもシュババババといった感じの速度で運針をしているヨーコ。

あっという間に布を縫い合わせて綿を詰め、毛糸を体毛のように表面に植え付けている。

はふはふと動き回る豆柴ぬいぐるみを抱っこしつつ、その作業を見守るアズールとメアリーと言う図式であった。


「ウチのコが一番可愛いのにねー」

「ふふふお方様、私の子が出来上がるまでの天下だと思っていてください」

「どっちも落ち着け。すぐ出来上がるから。まったく、まさか材料足りないって言ったら即買いに走ってくるとは……」


ぶつくさ言いながらも手を止めないヨーコ。

まるで早回し映像のごとくぬいぐるみが出来上がっていくのを見ながら、ミハエル達はというと。


「まさかのぬいぐるみ製造工場と化してるとは」

『まあ楽しそうだから良いんじゃない?』


階下の食堂から料理を運んでもらい、空腹を満たすのを優先する事にしたのであった。

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