第37話 アンデッドと言われても
ヨーコとミハエルの二人は、アズールら三人に、自分たちに起こった出来事を事細かく説明した。
まあ、元の世界で何やってた最中かは省略したが。
異世界で穴に落ちたらこの世界に来ていたというのは、すんなりと受け入れられた。
というよりも、日が沈み体力か何かは分からないが回復した鈴木太郎がカバンから「解説しよう! と言うかさせて。その方が面倒にならないと思うし」と似てないモノマネを始めかけたりしたのを止めつつ外に出した事で話が進んだとも言える。
「鈴木太郎本人が、まさかアンタのカバンの中に入ってたとか……え、ココ笑うところ?」
「危ないところでした、思わずターン・アンデッドの魔法を使うところでした」
先に姿を見せた際には鎧姿だったから、骸骨だとはわからなかったため、予めそういうのがカバンに入っていると知っていたヨーコとメアリーでも、かなりの衝撃であった模様。
『一応アンデッドだけど、僕悪いアンデッドじゃないよカタカタ』
「骸骨にそれ言われてもなぁ」
どこぞのRPG的なネタを振ってくる初代国王には苦笑を返すしか無いミハエルであった。
『あー、アズちゃん久しぶりだねぇ』
「まさか陛下がアンデッド化しておられたとは……」
骨なので表情は分からないが、実ににこやかな口調で語りかけてくる鈴木太郎に、過去に面識のあったアズールなどはどう反応してよいのやらといった顔つきであった。
本来死亡した後にこうしたアンデッド化を防ぐために、きちんとした葬儀を行うのだが、何故かアンデッドと化している鈴木太郎である。
『うん、アンデッド化した理由、死んでからずっと暇だったから考えてたんだけどさぁ。もしかして、こっちの宗教に帰依してなかったからじゃね? って』
「え、アンデッド化ってそういうもんなの? 宗教違っても昇天する、みたいなの多いやん?」
きちんとした葬儀、と言うか国葬で送られたはずの鈴木太郎である。
この世界的には、アンデッド化する筈はないのだが、現実として立派に骨だけで動いている。
そして、その理由がこの世界の宗教を信じてないから、などと言う鈴木の意見に、ヨーコは思わず首を傾げた。
帰依してないと昇天しないと言うならば、そこらで彷徨くアンデッドがいた場合、いちいちそのアンデッドの生前信仰していた宗教に基づいて浄化しないといけないのか、と。
「いえ、ヨーコ様。アンデッドを浄化するのはあくまでも聖なる力でありさえすれば良いのです。ですから、どの神のお力であっても、悪しき死者は浄化されます。ですが、このタリョー・スズゥキィ陛下のおっしゃるのは、亡くなった時の黄泉送りが出来なかった、と言う事なのです」
「うーん?」
メアリーの言葉を首を捻りながら理解に務めるヨーコ。
だがヨーコが言葉を発する前に、ミハエルが自分の解釈を口にした。
「普通のアンデッドは死体っていうドンガラが魔力で動いたり、それこそ残留思念みたいに悪い魔力の塊だったりする、という感じなのかのう? で、鈴木氏は、身体は死んだけど魂がどこ行っていいかわからんまま肉体に残ってて、生前の高魔力というか廃スペックのせいでアンデッドになった、と」
「はい、概ねそんな感じであっているかと」
「だな。俺らみたいな田舎モンだと、生まれて暫くした頃に村とかを巡ってくる巡回宣教師が洗礼してくれるんだが、タリョー・スズゥキィ陛下はもしかしたら受けてなかったのか?」
ミハエルの言葉に頷くメアリー。
この世界は神様が実在するのだ。
そう言った理の世界なのかもしれない。
「そうねぇ、エルフだと死んだら魂は世界樹の元に帰るって言う話だし」
「そう言えば、タリョー・スズゥキィ陛下は神聖魔法を使えなかったと言うことですが、それにも関係があるのでは?」
エルフの死生観は人とはまた違うようである。
それはそれとして、鈴木氏は無い脳みそを振り絞って思い返していた。
過去に、洗礼を受けていなかった理由を、である。
『ああ、そういや最初に寄った神殿だかで、馬鹿みたいな額の寄進要求されたから嫌になって帰った事があったっけ。それ以来、宗教施設にはできるだけ近寄らないようにしてたなー』
「なるほど、よくある業突く張り聖職者に当たっちゃっと」
『もしかして、ちゃんと洗礼受けてたら神聖魔法も使えてたのかなー、ちょっと勿体無かったかも』
「贅沢すぎるだろ。って言うか、もしそうだったとしたら、今ココにはお前さんいなくなるんで俺死んでたな」
『かもねぇ。
そう言って笑い合うミハエルと鈴木だったが、ヨーコはその様子を見て不思議に思った。
「ねー、普通アンデッドってこんなふうに生前の記憶とか有るもんなんだっけ?」
「ん? ああ、そう言われてみればあんまり聞かねえな」
その疑問に答えたのは、デービッドであった。
曰く、普通は死体がアンデッドとなった場合は、ただのさまよい歩く死体であって、こんな風に話をしたりすることはない、のだそうだ。
「んじゃあ、ちょいと失礼して――っとダメだ。俺の『看破』じゃ読みきれん」
「それでは私が――あら、だめね。流石は初代様、アンデッドになっても高レベルなようですわ」
鈴木太郎がどういった存在であるのかを調べるために何らかの術を用いたようだが、それはうまく発動しなかったようであった。
曰く、彼我の力量差が原因だという。要するに、自分より高レベル相手に用いても、その能力は読み取れないということだった。
「まあよくあること」
「だねぇ。じゃああれだ。ねえメアリー、さっきの珠まだある?」
「ございますが……アンデッドの方に使用したことがないので、どうなるかはわかりかねますが」
『まあ物は試しだよね。ああ、なんか凄い久しぶりだな、コレも』
そう言いながら、用意された珠に骨の手を当てる鈴木太郎。
流石にアンデッドなためか、触れた手のひら部分からは真っ黒な染みのようなモノが伸び、やがてそれは大粒の結晶になってテーブルに転がったのである。
「うわ、かなりでかい」
『うーん、なんか前のとはぜんぜん違うなー』
生前はヨーコのそれと似た、虹色の結晶だったらしいが、今の物は闇が凝縮したような周囲の空気さえ薄暗く見えそうな黒い何かであった。
「コレ、触ってもダイジョブなん?」
『まあ平気でしょ。あ、認識票は後でいいか。よっと』
手渡された――が骨の間から落ちそうになったのを慌てて摘みなおし、鈴木太郎は石に刻まれたその内容を表示させた。
氏名【 鈴木太郎 】
種族【 ノーライフキング 】
『ノーライフキングだって! どっかの小説のタイトルじゃん』
「……リッチとかじゃないんだ」
「死者の王? まあ元王様だけど、似合わんねぇ」
「……生者の仇敵、だと? そんな……」
「ま、まさか……」
「お、お方様、いかがなさいますか」
その結果に対し、のんきな元日本人組とは対象的に、真っ青になって震え上がる、地元組の三人であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます