第35話 帰還報告を聞かんと

日が傾き、そろそろ夕方と言える時間になった頃、ヨーコ達一行は街の入り口へとたどり着くことが出来た。

その際、ヨーコは謎のローブ男を街の衛兵に突き出そうとして、何の罪で? と、ちょっと悩んだが。

襲ってきたんだから普通に強盗? 馬殺されたからそれは間違いないよね、と。

しかし、そう告げようとしたヨーコより先に、メアリーが衛兵に告げた。


「この者は、初代国王「タリョー・スズゥキィ」の墓所を荒らし、我々に襲い掛かってきた悪逆非道の男です。叩けば更にホコリが出るでしょう。ありとあらゆる阻害アイテムを用いてその身を縛り、王都での裁きを受けるべきかと」


そう彼女が告げたところ、衛兵のみならず、周囲に居た街に入る列に並ぶ者たちからも、どよめきが上がった。


「なんかすごい反応だねぇ」

「んだな。流石に王様の墓荒らしたとか、ゴメンじゃすまん話だろーし」

「まあ、良くて極刑だな」

「マジで!」

「良くて極刑……それに付け足すって話だと、拷問とかさらし首とかか」


ヨーコ達がその周囲の反応に驚いていると、横からアルムが口を挟んできた。

それによると、王族の墓を荒らすのは、ある意味国家に対する冒涜に値する為、国家反逆罪が適応されるのだという。

その上建国の祖である初代国王と成れば、その扱いは更に手酷いものとなるだろう、ということだった。


「多分、これから墓所の確認に誰かメンバーを組ませて出立させるだろうな。その結果次第と言う訳だ」

「ほ、ほほう……」

「ミハ、何いきなりキョドっとるん」

「い、いや別に? ほら、メアリーさんが手続き終えたみたいだぞ、行こう」


街に入り、冒険者ギルドへとたどり着くと、ミハエルはアルム達に引きずられ、研修結果の報告を行うために元締めであるデービッドの所へと引っ張られていった。

ヨーコはメアリーとともに、お仕事の完了報告である。


「あら、結構時間かかったんですね?」

「ちょっと別件で面倒事がありまして」

「ガーベラ、依頼品の確認をお願いします。ヨーコ様、お荷物を」

「らじゃ」


受付窓口には、ヨーコが依頼を受けた際に担当した女性、ガーベラの姿があった。

ヨーコはメアリーに促され、カバンからセロパセモギの葉とスライム液の入った水袋を取り出し、窓口の向こう側にいるガーベラへと手渡した。


「はい、確かに。やっぱり魔法の鞄は便利ですよねぇ。ヨーコ様はそのカバンをどちらで手に入れられたのですか?」

「え、自作だけど」

「うふふ、またまたご冗談を……え、冗談ですよね?」


問われて正直に答えてしまったヨーコであったが、受付のガーベラは一旦は冗談と受け取ったようであった。

しかし、ヨーコが、「ん?」と首を傾げ、不思議そうな顔をするのを見て、その言葉が嘘ではないのだと理解してしまった。


「ま、ままま」

「マントバーニー?」

「なんですかそれ? 違いますよっ! マジックバッグの製法なんてとうの昔に失伝して、今は遺跡で発見されたりダンジョンから得られる品しか出回っていないんですよ!?」

「……ガーベラ、そこまで。お方様……ギルドマスターを呼んで下さ――いえ、マスターの部屋に向かいましょうか。ヨーコ様、こちらへ」

「あ、うん」

「ご、ごめんなさい。こんなところで声を上げて良い話題じゃなかったわ」


ナンノコッチャと思いつつ、ヨーコはギルドマスターの部屋に向かう最中で、気がついた。

マジックバッグは希少→その希少なマジックバッグを私は持ってる→普通ならどっかで発見とか発掘レベル→でも自作なのは間違いないの。


「おおっ!コレはいわゆる『もしかして僕or私、何かまたやっちゃいましたか』系の展開!」

「何かおっしゃいましたか? ヨーコ様」

「いえ、独り言です」


思わずニヤついてしまったヨーコだったが、普段よりもちょいと張りつめた感じのメアリーの雰囲気に、思わず空気を読んだ返事をしてしまった。

そして、ギルドマスターにその事を報告すると。


「うーん……ヨーコ、あなた自分にバカ高い懸賞金かけて追いかけられる趣味でもあるの?」

「どんな趣味やねん」


曰く、マジックバッグはその有用性と希少さから、垂涎の的となっている。

商人は当然のことながら、軍事関連でも兵站の問題が一気に解決してしまうのである。


「今この事を知っているのは?」

「ここに居る三名と、受付のガーベラ。1階のロビーに居た者の耳に入っているかどうかは微妙ですが――」

「すいません失礼します! ガーベラです! ああ、メアリー、マスター、すいません。ロビーに居た人達に口止めしていたんですが、その」

「何があったのか結果を先に言いなさい、ガーベラ」


アズールがメアリーにこの事を知る者を聞いている最中、1階に残してきていたガーベラがギルドマスターの部屋に飛び込んできたのだ。


「すいません! あの、ロビーに居た冒険者の方々で先程のことを耳にしていた方は口外しないと確約を得たのですが、職員の一人が、突然姿を消してしまったのです!」

「なんですって!」


悲壮な顔をするガーベラと、いつもの冷静な顔を崩してしまう程に慌てたメアリー。

そんな二人の間に挟まれて、ヨーコは「おおう、なんやこの異世界面倒事生えてきたムーヴは」と他人事のように考えていた。



一方のミハエルの方は、アルム達に連れられてデービッドの元を訪れていた。


「ただ今戻りました」

「お、帰ってきたか。どうだった?うまく護衛依頼はこなせたか」


ギルドの裏手、訓練場の一角に設けられている東屋のような屋根の下で、デービッドは書類に何やら判子を押しまくっていた。

判を押しながら、こちらに話しかけてくるデービッドに、アルムらは屍ドラゴンの襲撃などを気楽そうに報告していった。


「はい、なんとか。帰路に死霊術師の操る腐れ龍の襲撃があったぐらいですね」

「ほほう? ちゃんと倒して燃やしといたか? アイツら放置してると病気ばらまくからな」

「そのあたりは問題なく」

「そうか。で、ミハエル。仕事はどうだった」

「結構楽しく過ごせました。まあ、続けられるかと言われたら、正直厳しいかもですが」


相も変わらず判子を押しながら話し続けるデービッドに苦笑しながら、ミハエルは正直なところを彼に告げた。

本来、冒険者になったのは、目的があったからで、その目的が既に片付いてしまったためにその意欲も失われてしまったのだ。

そのことを話すと、デービッドは判を押す手を止め、首を傾げて立ち上がった。


「うーむ。どうしたもんだか」

「デービッドのおやっさん? どうしたんです?」


立ち上がって今まで自身が作業していたテーブルの前を行ったり来たりするデービッド。

何に頭を悩ませているのかと、アルムは彼に問いかけたのだが。


「直接聞いたほうが早えな。おい、ちょいとこいつ借りてくぜ。ああ、修了証はお前らのサイン入れてそこの机の上にでも置いといてくれや」

「あ、はい」


ミハエルの腕を掴み、有無を言わせぬ態度でギルドの建物に入っていく。

と、食堂の給仕役の娘が、何やらコソコソと外に出て来て辺りを見渡しながら何処かへと向かおうとしていた。


「食堂のウエイトレスの娘? そろそろ忙しい時間なのにサボりか」


どこにでもそんな奴は居るもんだなぁと見ていると。

いつの間にか自分の手を引いていたデービッドがその娘の背後に移動し、首根っこを掴んでまるで猫をつまみ上げるかのように持ち上げていた。


「……いくら就業時間中にサボってたからって、その扱いはどうなのよ」


ミハエルのつぶやきに、鞄の中でしばらく静かにしていた鈴木太郎がいつものように頭を出し、「悪意識別のスキルでも持ってるんじゃないかな?」とミハエルに告げ、「あー、まだ消えそうだからもちょっと大人しくしとくよ」と、再び消えていったのだった。

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