第30話 街道にて

「それでは参りましょうか」

「そだね」


葉っぱもスライム粘液が入った水袋も、カバンに入れてしまえば身軽なもんである。

(メアリーが)ひらりと馬の背に跨って、いざ帰還。

私は当然抱え上げてもらいましたとも。


帰りも行きと同様、街道に出るまではゆっくりと馬を歩ませる。

この池までの脇道も整備されているのか、上を見上げたら枝が伸びておらず空が見える。

落ちてくるスライムとかの対策なんだろう、多分。


「しかし、やってみると結構あっさり済むもんだねぇ」

「まあそのための初心者向け依頼ですから……」


馬の背で揺られてる間、暇なのでそのあたりの話を聞くと、どうも他の集落とかから出稼ぎに来てる人とかもいるらしい。

農家の三男四男とかは、そのまま専業冒険者になる事が多いらしいが。

新人や、そういった人向けに、簡単で手堅い、けど玄人の手を煩わせる程の仕事ではないこの手の仕事を斡旋しているのだとか。

まあ領主の娘がギルマスって辺りでお察しだわね。

公的救済というか支援? そんな感じなんだろう。


「まあ今回のように、農繁期に魔獣の襲撃が重なってそう言った仕事の担い手が足りなくなると言う事態も起きてしまいますが。基本誰でも出来るので」


いざと成れば、手の開いてるギルド職員さんや、それこそ薬作ってる錬金術師の人が直接出張るのだそうだ。

そんなこんなを話ししながら、脇道から街道に戻ると、結構な数の人が街へと足を運んでいる光景が見えてきた。


「だいぶ人通りが増えたねぇ」

「街道の安全が確認できたようですね。数日前に出立した行商人が無事隣町にたどり着いたのでしょう」


荷物の配達期日が切羽詰まっている商人たちが、街道の安全確認が住む前に出立していたそうである。

というか、その商人たち自体が街道の安全確認役になってるとも言う。


「そっか、無事向こうの隣町とやらに着いたのなら、向こうからも安心して出発できるって話だもんね」

「そうなります。……あら、すいませんヨーコ様。少々よろしいでしょうか」

「どったの」


なにやら、見知った顔が街道を歩く人の中にいたらしい。

馬を寄せ、そこに近づいてゆく。


「アルム!」

「ん? おお、メアリーじゃねえか。どうしたこんな所で」


メアリーがアルムと呼んだのは、商人の物だろうか高く荷を積み上げた荷馬車の横に並んで歩く、一人の男であった。

見た感じ、メアリーと歳はあまり変わらないようだが、凄いイケメンである。

中東系のモデルみたい。


「お仕事の最中です。貴方こそこんな所で何を?」

「俺もお仕事の最中さ。例のアレだよ」

「例のアレ? ああ、なるほど」


例のアレ、といいつつ、後ろを親指で指し示すイケメン。

なにやってもカッコイイとかナニコレズルい。

て言うか例のアレってなんぞ?


「ああ、それは……まあヨーコ様なら構わないでしょう」


解説された。

冒険者ギルドに紹介ナシで入りたいと言う新人の研修に付き合っているのだとか。

面接して、能力の確認して、ハイ後研修してきたら採用だからねーって言って送り出す。

ちょっと熟れた冒険者を付けて。

そして、その研修の道中の様子を見て、正式に登録するかどうかを見定めるのだと。

内緒の二次面接みたいなもんか。

社内の掃除をしてるじいちゃんが実は社長でしたとかそんな感じもありだよな。


「そうですね、昔はお方様が窓口を兼任して座ってらした時に、直々に似たようなことをなさってたらしいですが」

「やってたんかい」

「親方様が、タリョー・スズゥキィから直伝の採用試験だ、とお方様にお教えになったとか」


鈴木氏ェ……。

でもやりたい気持ちはわかる。

私だって企業のお偉いさんだったらちょっとやってみたい。


「で、メアリーの方は何やってんだよ。そんな子抱えてさ」

「この方は、お方様の養女となられるお方ですよ?」

「マジっすか……」

「暫定だから、暫定だからね」


あのアイテムが効果を発揮してくれていたら、完全に不妊でもない限り大丈夫だと思うんだけどな。

それはともかく。


「で、メアリー。あの男の人はどういう関係?」


噂好きの井戸端婆みたいな顔になってたかもしれんが気にするな。

だってイケメン兄ちゃんと美人なメアリーの間柄、気にならんはずがない。


「ああ、弟です。双子なんですよ」

「数分早く生まれたからって姉貴づらすんなよなー」


……何だつまらん。

美人なメアリーさんの弟さんは同レベルでイケメンでしたって面白くもなんともないわ。

でも一応紹介しておいてもらおう、うん。

見てるだけでも目の保養だしな。

ワイルド系イケメンとか二度おいしいわ。


「で、その新人君は使えそうなのですか?」

「ああ、剣の腕とかはまあ未知数っていうか、あいつ真正面から戦わねえんだよ。まあ為人は気のいいやつだったから問題にはならんと思うけどな」

「戦わないのですか? それは……」

「ああ、違う違う。ちゃんと戦うぜ? ただ、できるだけ手間を減らす方に頑張るんだよ」


街へと同道しながら聞いた話では、行きも帰りも荷馬車の列の最後尾で警戒に当たらせていたと言うその新人君とやらは、面白い戦い方をする人物だったらしい。


「それがな、行きの途中ではぐれ魔獣が出てきて馬車の後を追いかけてきたんだよ」

「それを彼が撃退したのですか?」

「まあ聞けって。普通なら大声出して俺らを呼ぶだろ? 新人ならよ。でもあいつはぁ――ミハエルってんだけどよ」


……カバンからタイミングよく、クソでっかい鉄の塊みたいな剣を取り出したんだそうな。

その襲ってきた魔獣の上に。

マジックバッグのなろう的利用方法だ!?

その話を聞いた私は、思わず後方に振り向き凝視してしまった。


「違った……」

「どうなさったのです? ヨーコ」

「いや、知ってる人の行動パターンに似てたから、もしかしてと思って」


ぜんぜん違う人だった。

かなりイケメンだったし。

うちの相方がイケメンじゃないとは言わんが。イケメンだとも断言せんが。

まるで方向性が違う、若い男性だった。

何だよ相方も来てるのかと一瞬期待したじゃねえか。



護衛任務は、隣町まで特に何も起こらなかった。

一度だけ魔獣か何かは知らないが、凶暴そうな犬みたいな虎柄の動物が後ろから襲ってきたので、カバンから出来るだけ重い物! と考えながら取り出し、そのまま頭上に落としてやった。

鈴木氏の家宝の剣だったがまあ気にしない。

手も汚さずぺたんこになった相手を、片手で剣を持ち上げながら確認する。

そうしていると、前の方を見張っている冒険者の人が走ってきて「大丈夫だったか」と声をかけてくれた。

見ての通り、なんともないぜ。

放り出した剣をカバンに仕舞いなおし、潰れた奴を道端に放り込もうとすると、再び声をかけられた。

ああ、牙だけ抜いとけって? 倒した証拠で金になるから?

なるほど、基本だ。

ゴブリンとかなら耳なのかなやっぱり。

そんな感じで無事、隣町に着いたのだった。

なお宿は自力で探せと言われた。

それも研修の一部ですって!


『流石にこの町は存在自体知らないや』

「さよけ……」


ギルドの支店というか、小さな出張所みたいなところで、お仕事終了の報告を他の人たちと一緒に済ませた後、帰りのお仕事も受けてから宿探しに出かけた。

他の人らは定宿があるそうな。

と言うか、そこに俺も連れてってって言えばよかったんじゃね? と気づいたのは彼らと別れて屋台で飼い食いし終わって、どこに行ったのかわからなくなってからだった。


『まあ心配しなくても大丈夫さ。明日の集合場所は聞いてるんだし』

「最悪野宿しろってか」

『まあ、本当の最悪はそうなるだろうけど。普通にギルドで聞けばいいじゃん。前の街のときみたく』

「それだ」


流石にここのギルドは小さかったので、宿泊施設はなかったが、ちゃんとマトモな宿を教えてくれた。

そして宿に行ったら、一階のロビー兼食堂みたいな所で先輩冒険者の人たちが飯食ってた。

何だよあんたらもココかよ、って愚痴ったら飯おごってもらえた。

タダ飯美味しかったです。

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