第27話 なんか拾った

 馬の背に揺られて街道をゆく。

 めっちゃ視点高い。

 最初はちょいと怖かったが、後ろからメアリーが抱えるようにして乗せてくれているので、だんだん楽しくなってきていた。


「はぁー、結構人通り多いんだねぇ」

「先日の魔獣の大群を阻止して以降、残りもあらかた片付いてますからね。足止めを食らっていた旅人や行商人達が順次旅立っているのでその為でしょう」


 なるほど、道中の安全確保が出来るまでは焦らず待機していたのか。

 そんで冒険者達が残敵掃討のお仕事から、護衛任務を受け始める段階にまで進んだってことよね。


「そりゃ素材採集とかのお仕事は放って置かれるわけだ。急ぎではあるけど他にもっと切羽詰まってる件があるって話だしね」

「左様ですね。特に日持ちしない荷を抱えてる行商人達にしてみれば、命は助かっても大赤字で首を括らなければならない人も出かねませんし」

「まじっすか」

「まあ、食品等であれば、お方様が街に手を回して買い取り済みのはずですが。入ってくる物もありませんでしたので」


 そりゃまあそうだわな。

 大規模な魔獣の群れに襲われている、と言う話がいつから始まっていたのかは知らないが、これだけ大きな街になると、自給自足ですべて賄えるわけでも無いだろうし。

 あんまり周囲に畑とか無かったしね。元荘園のくせに。


「そろそろ川が見えてきますよ」

「おう。っていうかどんな川?」


 そう大した川じゃない、らしい。

 川幅はそこそこあるが、浅いので漁が出来るほどの魚も捕れないそうな。


「ほー、結構きれいな川ですこと」

「そうですね。ですが先にも申し上げましたとおり、この川辺にはスライムも多数生息しておりますので」

「ふむふむ」

「稀にスライム混じりの水を飲み込んでしまい、胃に穴が空くという症例が」

「スライム胃酸に勝ってる!?」


 スライムは分裂して増える、んだそうだ。

 で、陸上を這うようなタイプは大きさとしてはだいたい普通は5~60センチ程の水袋のような感じだそうな。稀にいる樹木に張り付く系の奴は陸生にしては形が崩れて正しくゼリー状だそうで、注意しておかないと上から降ってくるので下手すると高位冒険者でもソロだと死ぬ時があるそうだ。

 呼吸できなくなったり麻痺毒が回ったりするんだと。

 んで件の水棲のスライムの場合、同種でも環境によってガンガン分裂しまくってものすごく小さなマイクロサイズのスライムになっていたりするんだとか。


「水源に生息している類がその顕著な部類ですね。住処が手狭になったら分裂して流れに身を任せ、拡散するのです」

「……じゃあ、あのプカプカ浮いてる丸いのはスライムじゃないんだ?」

「は?」


 川の中ほどに何か丸いのがプカプカと浮き、ゆっくりと流ていく。


「ああ……あのサイズでしたら恐らくは魔獣か何かの卵か何かでしょう」

「へー」


 かるく説明してもらって納得したが、魔獣って卵生のもいるんだ、ふーんと思って――。


「魔獣の卵ッ!?」

「はっ、そうです。もし危険な魔獣の物なら始末しておかなければ!」


 慌てて馬首をめぐらせると、私たちは慌てて川の中へと馬を進めたのである。

 ほんと浅いのね。

 卵の流れる方に先回りして行くと、馬の胴体半ばほどまで水に浸かったが、馬は平気な顔で進んでいく。

 慣れてるのかしらん。


「確保するのをお任せしても?」

「おっけー」


 ちょうどバレーボールサイズの卵がどんぶらこと流れてきたのを、身体を捻りつつ受け止める。


「よっと」

「お手数をおかけします」


 いやこれくらい出来ないとアホの子扱いされてしまう。

 既にある意味アホの子扱いかもしれんがそれはそれとして。


「で、これどうするの?」

「どうするも何も、恐らくは魔獣の卵なので、破壊してしまうのが一番手っ取り早いのですが」


 卵を腹に抱えて、川岸に向かう。

 まあ馬が頑張ってるけれど。


「パット見じゃ何の卵かわかんない?」

「そうですね、その形状・サイズだと鳥類の魔獣ではないと思われます」

「そうなのか」


 形状は真球に近い。

 鳥類だと楕円形になるから、それ以外、ということになる。


「両生類系は硬い殻を持ちませんし、爬虫類系統で、その大きさとなると限られてきますが……」


 そんな感じで川岸に戻ると、腹に抱えている卵から、コツコツと何やら音が……。

 これ、生まれるんちゃうのん?


「メアリー、メアリー。なんかコツコツ音してるんですけど」

「いけませんっ卵を捨ててください、早く!」


 慌てて持ち上げて放り投げようとしたのだが。

 持ち上げた所で殻が一部蓋のように割れ、中からつぶらな瞳を持つ魔獣がこんにちわしてきたのである。


「こ、これって……」

「見慣れない魔獣ですが……。今のところ危険はないようですね」


 殻の中から首だけだして、こちらを見つめる、蛇っぽい魔獣。

 爬虫類のくせに可愛いじゃ無えか。

 そう思ってた時が私にもありました。


「うーん爬虫類ってインプリンティングしたっけか? 敵意がないのは助かるけど」

「いんぷり……?なんですかそれは」

「刷り込みってやつ。鳥とか卵から孵した時に初期に見たのを親と認識するって奴なんだけど、知らない?」

「話には聞きますが、なるほど」


 爬虫類は人には懐かないって聞いたことあるんだけどなぁ。

 まあ敵意がないならしばらく様子を見ましょう。

 べ、別にちょっと可愛いとか思ってたりしないんだからね。


「蛇、にしては少々変わった子ですね……見たことがありません」

「そうなんだ?」


 とりあえず、目的地に向かって川を遡上している。

 卵の中から顔出してる蛇と一緒に。

 メアリーによれば、蛇の魔獣がこのあたりに生息しているとは聞かないという。

 だったらどこかに新しい巣が出来ているのではと、帰還したらギルドに報告をあげようということになった。

 しばらくこの蛇は旅の道連れである。


「キュー」

「お、鳴いた。ん?蛇って鳴くのか?」

「……初耳です」


 なにやら蛇が首をフリフリ殻を割って完全に外に出ようとしている。

 そこからニュルッと出ればいいやんけ。

 そう思っていると。

 穴の縁に、何か指のようなものがかかり。

 ぱきぱきと割り広げて、その姿を表したのである。


「なんやて」

「なんですかこれは」


 メアリーはわからないようである。

 私の前に全貌を表したのは。

 長い蛇のような胴体をもち、短い四肢をもった、いわゆる東洋の龍そのものだったのである。


「……これって、龍じゃないの?」

「りゅう? なんですかそれは」


 龍を知らないそうである。こまった。

 あ、そうか。


「ドラゴンの仲間というか、近隣種的な感じだと思うんだけど」

「ドラゴン、ですか。その類の幻獣や神獣・霊獣は、あまり詳しくないので……倒し方なら存じておりますが」

「倒せるの!?」

「いえ、あくまで倒し方、方法を学んでいるだけでございます」


 絶対倒せる気がする。

 それはともかく。

 こいつどうするよ。

 怒り狂った親が探しに来て面倒なことになったりしないだろーな。


 ★


「いきなり出発させられるとは思わなかった」

「何、コレも研修の一環だ。気をつけて行って来い。じゃあお前ら、任せたぞ」

「はい、元締め」


 俺は現在、街を出て冒険者な人達とともに研修の旅に出発させられている。

 この街から隣町まで、荷馬車の護衛をしつつ、野営とかの経験を積んでこいとの事だ。

 まあキャンプとかなら経験はあるけれど……。


『まあ道具類持ってないって言ったら購買で買い物はさせて貰えたんだから良いじゃない』

「そう言われたらそうだけど」


 カバンの中を検めるのはまた暫くお預けである。

 何が入ってるかわからんのに、店なんて開く気にならない。

 下手に王室御用達の品とか出て来て人目につくとか盗まれる気がしまくって誰もが強盗に見えてしまう。


「キャンプ用品とかの一式揃って売ってたのはほんと助かる」

『でもまあ、護衛任務中だと基本寝袋に入って寝るとか無理だけどね。夜番とかあるし』

「まあそうだろうなぁ。襲撃のときとか寝袋ごと刺されるとかありそうだし」


 仕方ないので、夜露とか避けるためのマントとか買った。

 カバンにあるかもだけど、王家の紋章とか入ってそうだし。


『あー、うん。僕もお勧めしない』

「やっぱりかよ……」


 そんな感じで現在荷馬車の護衛を行っているのである。

 護衛の依頼主は本当なら既に目的地に到着しておかないと駄目だったが、魔獣が襲ってきていたせいで出発できなかった行商人だとか。

 もう何日が待ったほうが良いと言われていたらしいが、無理言って護衛を人数割り増しで付けて出立するらしい。

 凄いフラグ立ってんなおい。


『大丈夫だって。魔獣だって襲うならもっと人数が少ないの襲うから』

「それ空腹で死にかけてる魔獣の前でも言えんの?」

『……まあそんな時は普通に倒せば良いんだし?』

「それが一番不安なんだよなぁ」


 デービッド氏からは、割と本気で殺すつもりだったのに全部避けられるとは思わなかったぞ!と褒められたが。

 殺す気だったのか。


「なんか、今なら何が来ても死なない気がしてきた」

『ウンウン、その意気だよ。まあ、いざとなれば奥の手もあるしさ』

「奥の手? 左手に革手袋でも常にはめとこうか?」

『鬼の手! って? 懐かしいなー。アレも続いてるってことはないよね、まさか』

「スピンオフとか続編とかならまだ連載してるぞ。テレビドラマにもなったな」

『マジでっ!?』


 そんなこんなを話しながら、荷馬車護衛のお仕事に向かった俺達であった。

 マントカッコイイ。

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