第26話 おっ仕事おっ仕事行ってきます

お仕事はじめますた。

素材収集。


薬品用ポーション素材の収集……セロパセモギの葉を百枚。スライム粘液10リットル、これは金属製の防具表面に塗布する品に加工します」

「葉っぱが薬の元ってのはよくある話だから分かるけど、スライム粘液? どっちかって言うとローションになりそうな感じなんだけど」


薄い本に出てきそうやん? スライムローション。

あと、セロパセモギの葉っぱってどんななのか調べないとな。


「スライムの粘液は強酸性ですので劇薬扱いです。……溶けますよ?」

「お、おう。そらアカン」


劇薬を素人に扱わせていいんか? まあそういう法整備はされてないから出来るんだろうけど。


「加工後に金属表面に塗布すると、乾燥を経て薄い膜が残ります。金属同士で当たっても音がしにくくなるのです」

「なるほど、ラミネート加工的な感じか」

「らみ……なんですか?」

「いや、なんでもない。それじゃサクサク行きますか」


私に出された任務と言うか依頼は、冒険者が受ける基本的なお仕事がずらりと並べられていた。

素材採集から魔獣討伐、地域探査等の、一般の人には見向きもされないというか危険がついて回るが誰かがやらないと駄目な案件が目白押しである。

これもう国家事業にすりゃいいのに、って半官営みたいなもんか、冒険者ギルド。

で、まずはって事で、素材取りに行く事になった。

魔獣の残り滓狩りついでに採ってきてる人もいるらしいが、絶対量が不足しているのも事実らしい。

例の戦闘後たくさん使ったから、出そうな。

まあそうだよな。

で、ギルドでその依頼を受けて、今準備中。

採ってくる物を入れる袋とかを。

葉っぱはカバンに突っ込めるけど、液体は何かの入れ物に入れないと無理。

割れたりしない、動物の胃袋とか膀胱を加工して作った水筒みたいなのが専用であるとかなんとか。


「10リットルですと、2つか3つは必要ですね。ギルドの購買で売ってますけれど、購入しますか?」

「ん? ……うーん、とりあえず一つ買おうかな」

「……通常、粘液が入った袋ごと納品しますので、弄って容量増やそうなどとお考えにはならないでくださいね?」

「う゛っ! じゃあ三つ買いましょうそうしましょう」


メアリーが私の思考を先読みするようになってきた、畜生。

ギルドの購買には、色々と冒険者必須の商品が売られていた。

武器防具は無いけれど。

そっちは専門の職人がしのぎを削ってるので参入は無理、と。

まあ、ちょっとしたナイフとかは売ってるけど。

ちょっとキャンプ用品売り場みたいな感じで色々眺めてみたいところだったが、メアリーの視線が怖いので必要な品だけ購入して立ち去った。

スライムを倒した後、液を絞り出して袋水筒に詰めるための漏斗のようなものを買い、ついでに野草の見分け方、みたいな冊子も有ったので購入。

絵がすごい写実的です。

って、これ印刷?

どうせ鈴木氏考案だろうと思って聞いてみたら、これは違う人だそうな。

やはり居たか、別の同類さん。


「とりあえず、どこに向かうのが良いの?」

「街の東門からでて街道を暫く行くと川があります。その川の上流が池になっていまして、そこが群生地になっていますね」


ふむふむ、水辺に育つ草か。

冊子にもそう記述されているし、と。


「で、スライムは?」

「水辺にスライムは付き物ですが?」

「お、おう。せやな」


野原とかでガンガン出てきてたんですが、大体のRPG。

まあいいけど。

だからセットで受けるのね、これ。


「そういうことです。それでは参りましょうか」

「ほいさ」


街を出て、街道を歩くのかなと思ってたが。


「馬には乗れませんでしたか」

「お、おう、残念だけどな」


門の近くにある、馬房みたいな所で馬を借りると言いだしたメアリーである。

試乗したことはあるけども。馬を引く人がついた状態で、園内一周とか。

流石にいきなりは無理、将来的には乗りたいけども。


「仕方ありませんね」


そう言って私を抱えあげると、馬の鞍にぽいと放り上げるようにして乗せてくれよった。

めっちゃ力持ち?

いやまあ想像はしてたけども、絶対スゴク=強いって。


「では参りましょう」


そうして馬を走らせて、私たちは薬草採集とスライム退治に出かけたのであった。

……初心者用のお仕事って言ってたのに馬使うとか。他の初心者、絶対馬なんか使わないだろ……間違いなく足が出るよこんなの。



「俺まだ生きてる、割と凄い。すごくない?」

『凄いって言うか、ステが高いってだけだけどね』

「まあそうなんだろうけどよ」


面接を終えた俺は、受付嬢のガーベラさんとわかれ、バーバリアンとアマゾネスの二人に連れられて、建物の裏手に回った。

そこは高い壁に囲まれた広場になっていて、アチコチで剣を振り回したりしている人の姿が――無かった。


「いつもなら他に何人かいるんだけどな。今ちょいとかき入れ時で出払っちまってるんだ」

「ああ、聞いてます。魔獣の大群が襲ってきてたんですってね」


うむ、と頷くバーバリアン、デービッド氏。

聞けば、その魔獣の撃退がそれはもう劇的だったらしい。

ちょっと興味を惹かれたが、アマゾネスな姐さんが「そういったのは終わらせてからにしな。ほれ、アンタも」と言って木剣を放り投げてきたので聞けなかった。残念。


「武器は剣でいいのか?」

「ああ、はい。今使ってるのはもうちょいでかい奴ですが」


ろくに使ってないけどな。

元の世界から持ってきたやつは玩具みたいなもんだし、アレでぶん殴ったら相手じゃなくてこっちが壊れるだろ。

かといって、鈴木氏から譲られたあのでかい剣なんて、どこで使うんだって話だし。

というか、鈴木氏の剣って元の世界じゃ発泡スチロール製って言ってたな……。

アクリルの剣とかどうなってんだろ。後で確認だな。

あ、あと剣といえば鈴木氏が素振りしてた奴も有ったな。

後でカバンの中の整理も考えないとだな。死蔵品山ほど入ってるんじゃねえか? もしかして。

んなことを考えながら、受け取った剣を片手にブンブンと振り回して見る。

流石に身体のスペックがバカ高いので、木剣の重さを感じないレベルである。

元の世界だったら木刀でもこうは振れない。


「ふうん? 身体は出来てる・・・・みたいだねぇ」

「まあ、ここ登録しようかって奴は多少なりとも鍛えてくるからなぁ。さて、と」


ずっ、とデービット氏が取り出したのは、俺よりも上背があるにも関わらず、それを遥かに超える長さの、戦斧と言うタイプの武器だった。

ズルい。

長物最強伝説じゃん。

それなら俺だって槍が良かった。

リーチの差で即死確定じゃないか。


「いや、某ゲーム的に言えば、槍は剣に負ける。大丈夫、と思おう」

『そんなゲーム有ったっけ』

「20年後にはあるんだよなぁ……まあ逆の設定のもあるけど」


なお、カバン等は身につけたままである。

冒険者たるもの、常に戦闘が始まっても大丈夫なようにしておかなければならない、らしい。

まあ旅の最中に襲われて、荷物下ろすの待ってくれる敵とか居ないしね。

そんな訳で、開始。

と言われる前に、デービッド氏がいきなり戦斧を振り下ろしてきた。


「おわっ!? っとぉ!」

「ふふん、避けたか。まあ先ずは加点だな」

「だいたいここで一撃食らって終るんだけど、なかなかやるじゃない?」


振り下ろした戦斧を戻しつつ、んなことを会話してる二人だが、言いながらもアマゾネスのエイミアさんは短弓というのか小さめの弓に矢をつがえ、こちらに向けてくる。

こええよ!

俺はダッシュで逃げ出して、何か遮蔽物になるものはと探し――たけれど無かったので盾をカバンからだして身を守った。


「おや、なかなか準備が良いねぇ。……ってえらく値打ちモンに見える盾持ってるわね」

「ま、加点2ってところか」

「だねぇ。さて、それじゃ、小手調べはここまでにして、実践といこうじゃないか」


何か不穏なこと言うてはる。

鈴木氏、ヘルプ!


『あー、こんなところでもマニュアル生き残ってたかー。紹介なしの奴は基本、即戦力にならなきゃ意味が無いから、『7人の侍』的に不意打ちとかありありで戦闘技術を見極めるってことになってさ』

「なんという実践主義。いや実戦主義か」

『加点10で合格なはずだから、まあ頑張って』

「くっそ、こんなの決めたやつ死ねばいいのに!」

『死んでる死んでる』

「そうだった!」


すっごい楽しそうに俺を追い回すデービッド氏とエイミアさん。

なんとか避けまくって逃げまくって、合格点をいただけました。

まあ逃げてただけだけど。なので二人から、合格ではあるけど、戦闘訓練を言い渡された。

なんかすっごい笑顔で!

この人達、そういうの好きそうですよね。

俺、すごい嫌。

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