第25話 ギルドでお仕事してみる

矢を強化して作り置きしておく。

メアリーの魔改造弓用である。

矢の強度が足りなくて打てませんとかマサカの事態であった。

改造した手前、責任とって矢も発射する時吹き飛ばないよう弄って差し上げねば。

あと、魔導銃の方も、ちょっと弄り直した。

封印はしなくていいということなので、弾倉部分をまるごと交換できるようにした。

コレで火球の魔法だけじゃなくて、他の種類の魔法も撃てるように――。


「ちょっとヨーコ、目を離したらすぐコレなんだから」


異世界六日目の朝食の席で、アズール女史に怒られた。解せぬ。

魔導装具製作者の称号が生えたあの日から、魔道具制作に関しては以前に増してデタラメになっている私である。

なにせ、部材を形状変化させるのに工具とか使わなくて良いんだぞ?チート過ぎない?

こう、どんな素材も粘土捏ねるみたいに、にゅーんと曲げたり伸ばしたり出来るんだけど魔力使うっぽいのでやりすぎると凄い疲れるけど。

それと、材質によって魔力使用料が違うので気をつけないとヤバイ。

ミスリルとかの高価な材料ほどめっちゃ魔力いる。安い材料と同じ感覚でやってたらぶっ倒れるぞコレ。

で、昨日試射を終えてから空いた時間でサクサクっと弄ったのがバレてるとか、まあメアリーの目の前でやってたら報告行くよね……。

でも増やしてないよ! 入れ替える弾倉だから、矢と同じようなもんだから。本体がないと使えない仕様になってるから!


「……まあ、そういう事なら、今回は大目に見てあげます。使い手がメアリーなら大丈夫だと思うし。貴方の作るアイテムは取扱い注意の品ばかりなんだから、ほんっと気をつけてちょうだい」

「努力します」


努力目標じゃなく、達成しろと言ってるんだけどと怒られた。

いやまあちょっと調子にのりすぎたのは自覚してる。

あれだな、ちょっと気分転換しなければ。


「じゃあちょっと、お使い行ってきてくれない?」

「おつかい、ですか?」


ふむふむ、せっかく冒険者ギルドに登録したのだから、ちょっとは実績を積んでおけと。

もぐもぐ、せっかくカリカリベーコンと半熟目玉焼きがあるのにご飯がないとかなんて拷問だ、畜生め。

いかん、飯に集中力が削がれた。

なるほど、ペーパードライバー状態だといざという時に信用がアレだと。

いくらギルドマスター付きと言う扱いでも、何が出来て何が出来ないのかくらいはハッキリさせておかないと拙い?

そりゃまあ贔屓の引き倒ししてるようにしか見えないわな、魔獣撃退最初のアレの功労者と言ってもさ。


「それじゃ、ギルドの窓口に行ってお仕事貰ってきたら良いのかしらん?」

「うーん、それでも良いんだけれど。あ、メアリーは手を出しちゃ駄目よ?」

「承知しております」


護衛お目付け役はついてくんのね。

まあ、彼女がいなかったら多分道に迷う。

ギルドまで行くだけでも迷える自信があるぞ。


「じゃあとりあえず、着替えてくるわ。こないだ買った服でそれ用に弄ったやつもあるし」

「私も準備を整えてまいります」

「ええ、お願いね、メアリー」


そんなわけで初仕事っす。


「で、出先で食える物を作れと」

「おなしゃす」

「まあ良いけどぉ。何か希望はあるかしら」

「サンドイッチ的なのとかオニギリあたりで良いんですけれど」

「あ、そんなのでいいんだ」


身繕いをしたあと、厨房に寄ってサヴールさんにお弁当を頼んだ。

やはり有ったかサンドイッチとオニギリ、さすが鈴木氏抜かりない。

それにしても、私がどんなお弁当を持ってくと思ってたんだ。


「貴方のことだからぁ、もっととんでもないのを言い出すとばかり……フルコース作れとか」

「いや水漏れしない容器に詰めてカバンに入れたらいけなくもないだろうけど。まあ出来るなら出先といえど火を熾して煮炊きしたいんだけどねぇ。そんな暇あるかわかんないし」

「やっぱりしたいのねぇ……」

「そりゃ疲れたら暖かい物が食べたくなるやん? こんど持ち歩けるカマド携帯コンロ的な何か作っとこ」

「あ、それ良いわねぇ。外だと焚き火とかになるから面倒といえば面倒なのよねぇ。私の分もお願い出来ないかしら」

「……ずっと厨房にいるのにどこで使うの?」

「あら、私だってたまの休みには気分転換に遠出ぐらいするわよぅ」


なるほど小旅行。

ぜひご一緒してご相伴に預かりたい。

その時は是非一緒にと約束して、作ってもらった豪華サンドイッチクラブハウスサンドをカバンに詰めてメアリーと合流する。

装備を固めてきたメアリーちゅわん、なんかすっごい。

バリバリの軽装戦闘職って感じである。


「なにか?」

「いや、ちょっと見惚れてただけ。かっけーなと」

「……お戯れを」


カッコイイもんはカッコイイんだから仕方がない。

そして、やって来ました冒険者ギルド。

午前中だから、お仕事貰いに来てる人でごった返してるのかなと思ったけど、そうでもなかった。


「この間の、魔獣の狩り残しの掃討を、暫くの間は行っているからかと」

「なるほど」


危険な魔獣を狩ってきたら、それだけで報酬におまけが付くと。

そりゃみんなそっちに行くわな。

では今はそれに比べたらあんまり美味しくないお仕事しか残ってないのかしら。


「そうですね、割に合わない厄介で面倒な依頼が残ってる、辺りでしょうか」

「ですよね」


壁一面に張ってある依頼書。

うーん、こりゃ確かに冒険者ギルドっぽい。

けれど。


「なんか、無理ゲーなのが残ってるっぽいなぁ」

「むりげえ?」

「ああ、えっと、普通にやっても達成できない、って感じのしか残ってないような」

「ここに張り出されるのは、基本的に物好きな人か、ギルド的にはおすすめできない依頼が張ってあるのです」

「晒してるだけ!?」


なんでやねん、と思ったが。

メアリー曰く、普通はギルド側から冒険者たちに仕事を割り振りするのだそうな。

達成できる人に、確実な仕事をお願いしていると言い換えたほうが良いかもしらぬ。


「そうです、ギルドのお仕事は依頼を受けつけて内容を精査して、その依頼を達成出来る能力を持つ冒険者に仕事を振り分ける、というのが主な業務ですので。こちらに張ってあるのは、まあ言ってみれば『確実に出来そうな人に心あたりがないので、自信のある方どうぞ』という、言わば本当に自己責任で仕事を受けてくださいねという、意味があります」

「ギルド、意外に良心的だ!?」


そう言われて掲示物を見てみると、私が無理ゲーと思ったのも仕方ないと思えるのばかり目についた。

その中に『魔法剣改造依頼・秘密厳守出来る方』とかが有ったけど――あ、受付のおねーさんが剥がしていった。

ま、それはともかく。

お仕事です。


「あ、ヨーコ・ウティダ様。ギルドマスターから伺っておりますのでこちらにどうぞ」

「ア、ハイ」


さっき依頼書を剥がしていったおねーさんが、戻るついでのように私に声をかけてきたのだった。

さて、何が出るかな。



質疑応答は、想像以上に想像通りだった。


「このギルドを知ったのはどこでですか?」

「はい、知人との会話で知りました」

「その知人はギルドの関係者ですか?」

「はい、そう聞いてます」

「ではなぜその方に紹介状を書いていただかなかったのでしょう」

「その、もう亡くなってまして」

「……それは失礼いたしました」


こんな感じだった。


『あー、僕の作ったマニュアル、ここでもまだ生きてるとかすごいなー』


そりゃお前、ギルド創始者で王様にまでなった人の残したやつをそう簡単にコロコロ変更できんだろ。

つか、他人に聞こえんからと言ってあんま喋るな、俺の気が散る。


「それでは質疑応答は以上です。お疲れ様でした」


ペコリと頭を下げられて、面接は終わった。

なおバーバリアンなデービッド氏とかからは、圧迫面接かよと思えるレベルの質問を頂いたりしたが、その前のフレンドリーな対応のせいで、やらされてます感が見え見えだったので気後れすることはなかったのだった。

が。


「さて、次は戦闘だ!」

「楽しみだねぇ!」


アマゾネスとバーバリアンが張り切りだした。

俺、もうダメかもしれない。

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