第23話 自重? うん意味は知ってる。

 メアリーにお願いして、コイルスプリング式のクロスボウ――こんな形状でもクロスボウっていうのかしらん? ――を触らせてもらっている。

 あと魔導銃も。

 どちらもまだ弄る余地があると、脳内の魔導装具製作者さんが伝えてきてくれる。

 使い方のあらましは持っただけで分かるけれど、細かい使い方とか内部構造とかまではわかんないしね。

 あー、もうちょい銃とかの構造に詳しかったら連射可能にしてやれるかもなのに。

 とりあえず自動でコッキングは出来るようにしてやろうかしら。

 弓を差し込むだけで次々打てるのはアリじゃろ。

 そんな感じでいじくり倒してると、自分の武器が心配なのかして背後から覗き込んでいるメアリーからぽろりと苦言が降ってきた。


「しかし、食事は普通にとっているのに、よくもまあ色々と食べる気になりますね、ヨーコ様は」

「ラーメンは別腹」

「……入るお腹は一つですが」


 いーんだよ、慣用句なんだから。

 というか、慣用句はどう伝わっとるんだろう。謎だ。

 そう言えば夕飯までどれくらいだろうか、と思いつつ部屋の窓から外を眺める。

 もう日は沈んで、残り火だけのようになっている夕焼けの空が見えた。

 そういやここ、普通に窓ガラスあるよな。

 この世界だと、どうやって作ってんだろ。

 元の世界じゃ、板ガラス作るのってすごい設備が必要だって聞いてたけど。

 溶けた金属、錫だっけ? その上に溶かしたガラス素材浮かせて平面にする、とかなんとか。


「ガラス、ですか? 錬金術師が魔法使いと協力して作ってますね」

「錬金術師とな」


 聞いてみたところ、魔法使いの魔法と錬金術師の素材との合せ技で量産されているらしい。

 どうやるんだろう、見てみたい。

 んがしかし。


「ガラス製造の、見学ですか? その手の工房は技術面に関しては門外不出、という所が普通ですね。鈴木太郎氏も気になさっていたという記述が残っておりますが」

「ほほう、でも手を出さなかったのか」

「技術的な指摘をしただけで、直接の関与はなさっていなかったはずです」


 流石に大英雄で王様な人が見せろといったら見れたのか。その時どんな立場だったかは知らんけど。

 ふむ。

 まあいいや、ガラス工芸には興味あるけど、板ガラスはそんなに気にするほどではないし。

 なんて事を考えていたら、メアリーから爆弾発言が飛び出してきた。


「こちらの窓に使われてるのは、その大英雄が伝えたとされる物で、宝石のルビーと同じような素材だとか。強度的に旧来のガラスに比べてとても頑強で、王城や貴族などで多数採用されているとのことです。」

「まさかの透明アルミ!?」


 別にそういう材料工学的な方面に詳しいわけじゃない。

 単に昔見たSF映画でクジラを運ぶ水槽に使う素材の話をしていたのがスゴク印象に残ってただけである。

 まさかの鈴木氏トレッキー疑惑である。

 ちょっと会いたくなってくるな。

 魔導銃も鈴木氏発案のようだし、どれだけ手広くヲタクやってたんだよ鈴木氏。

 ヲタクじゃなかったんならゴメン、博識なんですね、だけど。


「っしゃ、でけた」

「……見た目は特に変わったように見えませんが」

「こっちはな」


 預かったコイルスプリング式弓をいじくり倒してわかったけど、これ普通に空気銃的な代物だった。

 内部のバネで打ち出してると思ってたけど、専用の短い矢を差し込んでもバネに届いてないし。

 コッキングハンドルでバネを引いて、引き金を引くとバネが戻る。

 普通の玩具的空気銃同様そのバネの戻る勢いで、空気を瞬間的に圧縮して弾を打ち出すわけだけれど。

 それ以外に、空気を貯める魔法が付与されてる。

 安全装置みたいなセレクターレバー付いてて、通常とは別にコッキングハンドルを引く回数で威力を変える事が出来るモードがあった。引き金引いたままコッキングハンドルを何度も動かすことで空気をためるんだなコレ。

 自動にしたらレバー何回も引かなくてすむんだから良いよねと弄ろうと思ったんだが、こんな機能がついてるんだったらいらないよね。


「そうですね。これは主に長距離からの一撃にしか使いませんから、連射する必要性もありませんし」

「そか。じゃあコレでオッケってことで。付与されてた魔法を強化しといてあげたから。あと、断熱圧縮された空気は超高温になるから、その辺の強度も考えて修正しておいてあげたからね、ぐふふ」

「……なにげに怖いのですが」

「強度計算とかしてないからはっきりはわかんないけど、性能が数倍に跳ね上がったと思ってくれていいわ。試射する?」

「……ゴーレムを使って打たせましょうか。何か怖いです」

「信用ないなぁ……」


 強度増す為にも魔力はたっぷり込めたから、壊れることはないと思うんだけどな。

 んで、魔導銃的なやつ。

 こっちは普通に銃と呼ばれてるけれど、そのまんまだった。

 リボルバー式の形状で、弾倉部分に『魔法の杖』の『玉』が収まってた。

 儀式魔法でその玉に魔法を込めるそうなんだけど、普通は魔法を込めるのを職人に金払って頼むらしい。

 んで、引き金引くと魔法が打ち出されるわけだけど、弾倉は手で回す。

 撃鉄もないし。

 弾倉は振り出し式じゃなくて中折式だし。

 なんか色々と残念だったので。


「これは形状含めて全面改修しました」

「……なんですかこれは」

「銃だけど」


 元々が駄菓子屋で売っているおもちゃの拳銃レベルの貧弱なディティールだったので、記憶にある好きな拳銃の形状にリファインして差し上げた。

 見た目はアレよ。

 宇宙を機関車で旅してたり海賊してる人が持ってたりするアレだ。

 まあうろ覚えだからまったく似てないけどそれっぽく作ってみた。

 あと、魔法を打てる回数分だけ入っていた弾倉の石を、大粒のにかえた。

 大容量高品質なので、一回魔力込めたら前に入ってた程度の魔法なら百回は撃てる。

 撃鉄がなかったのでその部分に取り付けた棒状のレバーを伸び縮みさせることで威力を変える事もできるぞ。

 それと、残弾は気にしなくていいぞ、私が魔力込めるからな。


「……コ、コレも試射させていただきたく」

「……お、おう」


 やけにすごい目で見られてしまった。

 もしかして誰かから頂いた大事な代物だったのだろうか。

 もしそうだとしたらごめんなさい。


「いえ、武器は消耗品ですからそういった物はありませんが……」


 じゃあ何なのだろう。

 解せぬ。


 ★


「メシ美味え」

「おっ、ありがとうね。しかしいい食いっぷりだねぇ」

「おう、昨日からろくなもん食ってなかったからな。ここに来る途中ででかいネズミみたいなのとっ捕まえて焼いて食ったぐらいでな」


 肉自体の味はなかなか良かったが、味付け無しは少し寂しいものがあった。

 それに比べてここの飯はうまい。

 料理長おすすめのセットとやらを頼んだが、量も多くて大満足である。

 もしや「おすすめなのは俺が楽できるからだ」的な手抜き料理が出てくるんじゃないかと勘ぐったりもしたがそんな事はなかったぜ。

 まさかのマンガ肉がメインでとても美味かった。

 飲み物は酒が何種類かあったので、無難なのを鈴木氏に聞いて頼んだ。


『ご飯、僕も食べたくなってきたよ』


 とか言うが、きみ死んどるがな。

 カバンから出てる首に一口食わせてみようとしたが、やはり無理だったし。

 幻影っぽいね、これ。


『残念だ』

「まあ流石にそこはしょうが無いだろ」


 二階の部屋に上がって荷物を置く。

 ついでにずっと身につけたままだったLARP用の鎧と武器も外して。


「さて、明日はどうなることやら」

『僕もちょっとカバンから外に出たいんだけど』

「部屋の外に出ないってんなら良いけど……」


 流石に骸骨が歩き回るとかアカンやろ?

 アカンよな?


『竜牙兵とか結構使う人いるよ?』

「……街中ではアカンやろ」


 カバンから出るや、カタカタと骨を鳴らしながら喋るその姿を見て、改めて「変なことになっちまったなぁ」と思う俺なのであった。

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