第21話 自重するといったな、アレは嘘だ

 次の日、異世界四日目である。

 買い込んだ服が届いたので早速着替え、る前に。

 イジり倒した。

 衣服の魔道具化である。

 だってここんとこ、服屋じゃ店主に抱えられて奥に連れ込まれたり、タールベルク卿には拉致られたりと、相手が悪意のない人達だったから良かったものの、コレが犯罪者だったら目も当てられない状態になってたのは火を見るよりも明らかだろう。

 そこで、私は新しく手に入れた衣装に出来る限りの護身用機能を付けようと思い立ったのだ。

 今までの着たきり雀だった衣装は一旦お役御免。

 清潔なままでいられる魔道具化したのは需要あるかもだけど。


「さて、こんなもんかしら」

「……どのようなものなのです?」


 魔道具化し終えた服を広げ、出来を確認していると、背後からメアリーが覗き込んできた。

 この娘も会った当初に比べたら遠慮がなくなってきたなぁ。

 まあワタシ的には歓迎出来る流れだけれど。


「んっとね、大雑把に言えばもう拉致られたりされないように、身を守る機能をつけてみた」

「身を守る、ですか?」


 そう答えたメアリーの瞳に、若干暗い色が浮かんでしまった。

 いやいや護衛役を兼ねてるメアリーの腕を信頼してないって意味じゃなくてですね?

 と言うのもこのメアリー、ただのメイドじゃなかった。

 アズール女史に雇われているただの使用人、と言う立場ではなく、ようするに「家臣」なのだ。

 私の監視役と護衛、その他もろもろを任せるに足る、彼女の腹心と言ってもいいのかもしれない。

 なので、戦力としてはかなりの腕を持っている、らしい。

 私がタールベルク卿に拉致られた件について、それであんなに落ち込んでたのかー、とこの話を聞いて納得したのだ。

 すなわち、私が衣服を護身用に魔道具化させるという事は、彼女の護衛として信頼していないことに繋がる、と言うことになる――ってそりゃ違うのよ?


「違う、のですか?」

「違うに決まってるやん。それにそこまで無敵になれるわけじゃないし」


 護身用機能を付けると言っても、普通の素材の服をどういじっても、戦闘用に特化した防具のような魔改造は出来ない。

 せいぜい、毒とか飛び道具から身を守る結界だったり、攫われるのを防ぐために抱きつかれたりした時、任意で電撃を発したりする程度である。

 服に元から備わっている能力というか、機能と言うか、性質を強化したりしただけなんだよ。

 結界ってのは服の裏地に刺繍縫い付けて魔法陣描いてみたりして、服本来の「体温維持」とかの部分をより突き詰めて快適な体感温度を維持する空気の層を着用者に纏わりつかせるようにした。

 と言ってもそれは寧ろ余技だ。メインは纏わりつかせた空気の層、これはエアコン機能じゃなくてNBC対策である。

 Nuclear・biological・Chemicalの略だけど、まあNuclearはないな、と思いつつも、毒と病気は怖いので、頑張った次第である。

 そして、電撃機能はそれこそ普通に服着てたら貯まる静電気を貯めて、増幅して放つと言う実に簡単な機能である。

 柔らかいものに硬さを求めるとかは難しいけど、それそのものが元から持ってる機能とか資質とかを流用すると、魔道具化がすごくスムーズであることに気づいたのだ。やるじゃん私。


「という訳で、これは助けてくれる人がいること前提だからね? これからもよろしくね、メアリー」

「はい、そういうことでしたら微力を尽くします」


 そういう事を細々と解説して漸く機嫌を直してくれたメアリーちゃんに、頭を下げられてしまったのである。

 まあ、魔法を使い倒せば無双できるレベルではあるんだろうけれど、自分が戦闘に向いてるとは思えんしな。

 魔法使いの能力もあるにはあるけど、どーも使う気になれないというか。


「そうそう、これ。メアリーに」

「は、何でしょうか」


 自分の服が出来上がってちょっとテンション上がりまくってたが、それとは別にメアリーにと作ったものがある。

 護衛としてならこういうのはなくてはならないと思うんですよ。

 そう、隠し武器!

 傘に銃仕込んでたり、杖が剣だったり、トランクが短機関銃だったり盾になったりとかするアレ!

 この世界でなら、私の妄想が実現できるわけだし、更にはその妄想を使いこなせるかもしれない人材が居るのであるから作らない訳がないじゃないか。

 という訳で作りました。

 ハンカチとかスカーフとか、あのマッチョオネエの店で買った服に付いてきてたおまけアイテムで。


「……あの、ヨーコ様?」

「うん?なんでっしゃろ」

「これ、ハンカチーフ、ですよね?」

「そだね」

「なぜコレが、一振りでナイフに化けるのでしょう」

「そういう風に弄ったから」


 現在、メアリーにプレゼントした品を説明中である。

 ハンカチはキーワードを唱えて「パン!」となるように振れば、一振りのナイフに早変わりである。

 かっこええじゃろ?

 まあ本物のナイフってわけじゃなく、使用者の魔力使って形状変化という荒業なので、あくまで暗器レベルである。

 鍛冶屋じゃないのでな。

 スカーフは、軽く振ればちょっとしたサイズの盾になるぞ!

 手袋?うん、絹っぽい薄手のやつだけど、拳をこう握って両方の拳を胸の前で打ち合わせたら、電撃が出るようにしてみた。ああ、手甲程度の強度もあるからね?

 別に変身して頭だけになるとかはないから。何のことですかって何のことだろうね!


「……ヨーコ様」

「なんぞ」

「ありがたいのですが、出来ればこう言った品はあまりお作りにならないほうが」

「分かってる分かってる」


 バレたらヤバイのもよーくわかってます。

 だからこその、身内の戦力増強は急務だと思うわけですよ。

 アズール女史のもなんか作ろっと。

 あ、おっさんNo.1デービッド氏のもなんか作っちゃろ。

 妄想が捗るわね。


「はぁ……」


 なぜそこで溜息吐くかなメアリーちゅわん?


 ★


 近くに寄れば、やはりでかい。

 三階建てか四階建ての建物ほどは高さがある壁で囲われている街の大門に、俺はたどり着いていた。


「そこで止まれ!」


 門の前で周囲を見上げながら立ち止まっていると、門の上の方から、声がかけられた。

 小さな窓のようなところから顔を出した男が、こちらを見下ろしていたのである。


「街の、衛兵さんかな?」

『だろうね。身分証とかこの規模ならいるかもなぁ……』

「ないぞ、んなもん」

『だろうね。んー、じゃあね――』


 鈴木太郎はそう言って俺に対応案を語ったのだ。



「ほう、冒険者ギルドに? 登録か」

「はい、ココに来ればなれると聞いて、やって来たんですけれど」

「冒険者ギルドは常に人手不足らしいから常時人員募集中だって話だが、お前さん推薦者とかはいるのかい? 無いのなら結構厳しい加入審査があるって話だぜ?」


 大門の横にある小さな扉から出てきた二人の衛兵さんは、結構フレンドリーな対応のおっさんと少し塩対応な若い男性の二人組だった。

 対応に強弱つけてこっちの様子を見る系の奴かとか思ったが、そんなことはなかったぜ。


「ちょっと前に魔獣の大群が街を襲ってきてなぁ。狩り残しがいるかもってんで門は閉めてんのさ。どうせ人の出入りは冒険者連中だけだしな」

「ああなるほど……危険があるとわかってたら誰も出入りなんてしませんよね」

「そうさ。だからこんな時に他所から来るやつなんて危険なやつかただの間の悪いやつのどっちかさ」


 俺は間の悪いヤツなんだろうな、きっと。

 しかし魔獣が大群で襲ってきたとかなにそれ怖い。

 ココに来るまでたいしたのに出会ってないので余計に怖い。

 衛兵さんが出てきた扉を俺もくぐり、街へと入ることが出来た。

 ただし、街に入るのに税として金を取られたが。

 鈴木太郎のカバンに入っていたので何とかなったけど。


「さて、と」

『うわー、すっかり様変わり』

「やっぱ記憶にある集落とはまるで違うのか?」


 鈴木太郎があちこちをキョロキョロと見回している。

 どうもこの半透明の鈴木太郎は、カバンを持ってる俺にしか見えないらしく、衛兵の人らも気づかなかった。


『違うねぇ。それこそ僕が知ってる頃なんて、荘園管理の人員が住んでるトコぐらいしか無かったレベルだったし』

「荘園、ねぇ。にしちゃあ農業してるふうには見えないんだが」

『まあずっと農業してられなくなったんじゃないかな? それより冒険者ギルドを探そうよ。この規模なら絶対あるはずだからさ』

「ふ、ふふふ。冒険者ギルド……なんというテンプレ存在。だがそれがいい……」

『……なんかすっごい嬉しそうだね』

「当たり前だ! さあ冒険者ギルドに行くぞ! どこだ!? 目印的な看板とか無いのか!?」

『あ、ああ僕が制定したのは盾の形の看板に、剣と槍と魔法の杖が三連音叉的にクロスした奴で――』

「よっしゃ……人に聞こう。すいません、冒険者ギルドってどこですか?」


 調子に乗って走り出そうとした俺だったが、周囲の人が何やらヒソヒソと怪しい人を見る目付きで俺を見ていることに気がついて、一旦落ち着いた。

 そうだった。鈴木太郎こいつが他の人に見えないから、オレ一人で喋りまくってる変な人じゃん! 

 そう気がついたので。

 はずかしい……俺は何もなかったような態度で、道を聞いた後にそそくさとその場を後にしたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る