第19話 アレ、何走法っていうんだろう

 伝説。

 伝説といったらアレか、「この剣抜いたら王様な」とか「海の向こうには黄金の国がある」とか「神の怒りで大洪水」とか「あっちこっちで奇跡を起こして回る聖人が」とか「こんな生き物が!」的な奴とかのあの伝説か。


「その伝説であってるわ」

「さいで」


 そういう伝説だった。

 間違っても電気設備課の鈴木さんじゃない。が、ここの王様は伝説に残りそうな鈴木さんである。

 そんなのと同列にされても困るんだが、私の称号「魔導装具製作者」を以前持ってた奴は、大層なことをでかしていたらしい。

 アズール女史曰く、「山を崩すほどの力を持つ巨人を生み出した」とか「天空を支配する巨大な龍を生み出した」とか「大海原を我がものとする巨大な魔獣を一蹴する大魚を生み出した」とかとかとか。

 ……土木作業用大型ロボットとか、めっちゃ凄い戦闘機かなにかに、超高性能の潜水艦か!? もしくは潜水戦艦的な奴かもだが。

 どれもこれも即それに対しての想像がついてしまう辺り、絶対その伝説の称号持ちだったやつ、同類だろ私と! と脳内で大絶叫しましたわ。


「そんな感じだから、きっとその称号を持ってると、良からぬ考えを持つ組織が動き出す可能性が高いのよね……」

「組織……この国に限らず、大小様々な組織が、ですか」

「この国を筆頭に、と言った方がいいかも」


 現在、この世界においてはこの国――モーヤダ王国――に限らず、殆どが都市国家とその連合と言った感じで点在しているらしい。

 そんでその各国家の戦力の殆どは、国土を維持するために働いているらしいのだが。

 あと鈴木氏、なに弱音はいてそのまま国名にされちゃってるんですか。

 しょっちゅう呟いてたその彼の言葉がそのまま代名詞となった?そうですか……。

 それはともかく。


「うちの冒険者ギルドが大手を振って稼がせてもらってるのも、その一端といえるのよね」

「なるほど」


 人の生存可能な地域以外は、殆どが深い森で覆われており、そこには魔獣が住み着いている。

 そう言った地域から人の住む領域を守るために軍事リソースが食われているお陰で、国家間の争いというのはあまり無いのだという。

 国家戦力を補うという建前で冒険者ギルドが維持されているのだが、結構独自性が高いのはコレも鈴木太郎氏が開設したものだかららしい。

 冒険者を国家からの無理難題から保護する冒険者ギルド、という形が鈴木太郎が作り上げたためだそうな。やるじゃん鈴木太郎。

 だけれども、伝説の称号「魔導装具製作者」を持つ私が現れたらどうなるか。

 冒険者ギルドという砦を壊してでも確保したがるだろうと。

 そして魔獣の生息地をその伝説の通りの魔導装具を生み出させて蹴散らし、人間の領域を広げるために使われる。のは良いとして。

 国と国との壁として機能していた魔獣の生息地が消えたなら、次は何が起こるのか想像に難くない。


「戦争はやだなぁ」

「それもそうだけれど、馬鹿が調子に乗るのが一番怖いのよね」

「馬鹿が?」

「そう、馬鹿が」


 あー、馬鹿が調子に乗ると、確かに際限ないですもんね……身に沁みてますスイマセンごめんなさい。

 恐縮してしまった私に、アズール女史は慌てて「そうじゃないの」と言ってくれたが。


「貴方の作ってくれたアレ・・とかは、それこそ子供の居ない夫婦にはすっごい助けになると思うのよ。でもね、アレにしても悪用しようと思えば悪用できるじゃない?」

「……出来ますね、悪用」


 狙った娘に発情の腕輪を取り付けるとかな……薄い本が捗ってしまう。

 今度作る時は回数制限つけよう。


「人を切るのは剣じゃなく使い手だ、って事ですね……」

「そうそう、わかりやすい例えじゃないの。そういう事よ」


 全米ライフル協会のスローガン『銃が人を殺すのではない、人が人を殺すのだ』のパクリですけどね!

 それはともかく。

 私のこの称号に関しては、極秘にしようと私達の間で取り決めたのである。


 ★


 俺は今走っている。

 かなりの高速であるが、身体は一向に疲れを感じない。


『ね、超ハイスペックだと身体の運用も変わってくるでしょ?』

「あ、ああ、それはありがたいんだけどよ」


 今現在、鈴木太郎のコーチングで、身体の動かし方を学んでいる最中である。

 むろん、目的地の集落に向かいながらであるが。


「この、走り方なんだが、もうちょっとどうにかならんのか?」

『ならない。物理法則は絶対だからね、魔法でも使わない限り。詠唱魔法もそうだけど、ちゃんと習ってからでないと、こっちは下手すると身体中の筋肉ブッチブチに切れまくっちゃう。魔法の杖的なの要らないから素質あったら出来るんだけど、さ』

「神聖魔法使えるんだから素質ないってこたぁ無いんじゃないの?」

『魔法って一括りにされてるけど、系統は別だから残念ながら関係ないんだよねぇ……』


 鈴木太郎は魔法というか魔力で体力をブーストさせる系の能力も持っていたそうで、詠唱魔法と精霊魔法で遠距離からの高火力攻撃+元から高い身体能力を更に高めて近距離戦というのが基本戦術だったらしい。

 現状、詠唱魔法を使えない俺としては、体力ブーストとやらを試したいのだが上手く行かなかった時のことを考えると怖いので素の状態で訓練しているのだが。

 最初、普通に走ったら、三段跳びやってるみたいになってマトモに走れなかった。


『脚力が馬鹿みたいにあがってるからね。気をつけるのは身体を上に浮かさないこと。そうだね、腰を沈めて、上半身を動かさないように足だけで走る感じ』

「こ、こうか、な?」

『そうそう、そんな感じ』


 教わって走り出した俺だったが、これどう考えてもギャグ漫画に出てくる全力で走ってます漫符状態である。

 足だけぐるぐる渦巻きになってたりするアレだ。

 走ってる俺も、その感じがスゴクアホっぽくて嫌だった。


「あんまり人様に見られたくねぇなぁ……」

『そう? まあ嫌なら三段跳び的な走り方でも良いんじゃない? ほら、映画の五つ星物語で人造人間末娘が走ってた感じで』

「あー、アレな。でもあれだと、ジャンプした後着地地点で何かあったらさけらんねぇからなぁ」


 水たまりとかならまだしも、急に何かが飛び出てきたり、どこかから攻撃されたりしたときに宙に浮いてると避ける範囲が限られるんだよな。


『んじゃあ、頑張って下半身だけで走るのを上達させたほうが良いよ。上達するとアレだよ? アレが出来るんだよ?』

「んだよアレって」

『某少年国王の走り方とか』

「やだよG走法とか」

『某ロボアニメのエージェント的な走りも出来るよ』

「頑張る」


 そんなこんなで走り続けた俺の視界に、人里が見えてきたのは日が沈むはるか前だった。

 頑張りすぎた。

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