第18話 称号進化?

 光の剣(仮名)にオプションパーツを取り付ける事で、なんとかしてみた後。

 タールベルク卿は出来上がった剣を持って、一人何処かに消えていった。

 多分、王城の宝物庫に持っていったか、手入れが済みましたとか言って王様に試してもらいに言ったんだろうなぁ。

 さて用事は済んだようだし帰るかとアズール女史に声をかけようとしたところで、執事のガルネーレ氏に呼び止められた。

 なんぞ? と思って振り返ると、そこには何やら一通の封筒? か何かがご丁重に縁に細かな装飾が入ったトレイに載せられて差し出されていた。


「我が主から、ヨーコ様にお渡しするよう言付かっております。何分急を要する事でしたので……」


 恭しくそう告げられたけれど、まあ忙しいというかある意味国の一大事だからね、しょうがないねとしか思ってないんだけど。

 と言うか、そんなに大したことしてないしなぁ、と思ってどうすりゃいいのかとアズール女史に視線を送ると。


「爺、ヨーコはウチの子にしちゃうからそんなに畏まらなくてもいいのよ?」


 と軽く告げてくれた。

 ウチの子にならないかネタは有効なのか!?

 と言うかネタじゃなかったのか……。

 いやまあ、この世界で生きてくにはこれ以上無いレベルの後ろ盾だし正直ありがたいんだけど。


「それとヨーコ? あなた、こんなに簡単にポンポン出鱈目な魔道具作ってたら、ウチの子にでもなっておかないと、無理矢理にでも抱え込まれて死ぬまで魔道具を製造するだけの道具にされちゃうわよ?」


 真剣な表情でそう言ってきてくれる女史。

 うっ、それは流石に嫌ズラ。

 正直、この世界の魔道具の平均的なレベルがわかってないというか、私の作った物の出来がどれ位の物か理解できてない状態なわけで。

 そこで、アズール女史とガルネーレ氏にその辺りを聞いてみた。

 手持ちのアイテム類を見せながら。


「……ええ、と。正直に言うわね? 今の世の中で、魔道具に新たに能力付与できる人って、それこそ両手に満たないのよ」

「左様でございますな。私も長年色々と見聞を広めてまいりましたが、ヨーコ様ほどのお年でこれほどの付与を行える方はお目にかかったことがございません」

「だいたい魔道具への能力付与なんて、一晩かけて儀式魔法を行ってようやく一つ出来るか出来ないかよ?」

「お、おう。正直すまんかった」


 思わず素に戻った精神状態で返事をしてしまうレベルでありました。

 よくわかった。

 RPGで勇者が旅立つ最初の町で、薬草やらに混じってHP自動回復の指輪とかバンバン作ってる奴が居たら目立つっていうか狙われるわな。

 この世界の魔道具技師って、世間一般では今ある魔道具を手入れしたりする専門家、のようなものらしい。

 古くなったのをバラして組み直すとか、そういう類のいわゆる装飾品のリフォームをする職人なのだ。

 新たに生み出せる人は、魔道具技師エンジニアではなく魔道具制作者クリエイターとか呼ばれるそうな。

 そう言われても、私の称号は魔道具技師だしなぁ、レベルマックスだけど。

 んなこと考えつつ、首から下げてる冒険者タグに手をやった。

 そして脳裏に浮かび上がる私のステータス等々。

 そこには魔道具技師Level.MAXが燦然と輝いておるわよ!

 ……ん? 称号の様子が……?

 なにやら脳裏で点滅しとる……。

 なんか嫌な予感がひしひしとしてくるが、意識をそこに向けてしまうとアカン気がする。

 が、ダメッ。

 気がついてしまったらその時点でアウトだった。

 脳裏でピコーンとなんか音がしたかと思ったら、魔道具技師の称号が光とともに弾けて。

 ソコに新たに現れたのは。


「魔導装具製作者マイスター?」

「ッ!?」


 ボソリと呟いたその新しい表記に、アズール女史がビクリと身を震わせた。

 知っているのか雷電!


「……よ、ヨーコ? その、タグの内容を表示させて、見せてくれないかしら」

「……なんかヤバイもんなんですかね?」

「それを確認するため、でもあるわ」


 グビリ、と喉が鳴る。

 ヤバイヤバイヤバイよこれ多分アカンすぎる奴や。

 そこ以外は見せなくていいから、と言われたとおり、タグを摘んで念じてみる。

 そして、にゅーっとタグの石の部分から伸びてくる、プラズマのようなあの光の帯が、文字を描くと。

 アズール女史はガックリと膝から崩れ落ちた。


「アズールさん!? 大丈夫ですか!?」

「ええ、大丈夫、大丈夫。私は大丈夫だから。むしろ大丈夫じゃないのはヨーコ、貴方の方よ……爺!」

「はい、会話の遮断は先程から既に」


 顔面蒼白な女史はそれでも話を続け、ガルネーレ氏に注意を促していた。

 彼は彼で、片手を彼女に向けて見せ、そこで輝いている指輪の石の一つが起動している事を示した。

 音声の遮断とかなんやねん。


「ヨーコ、この事は私以外に言っては駄目よ? 爺、あなたがお父様に伝えなければいけないのは分かるけれど……」

「はい、承知しております。旦那様もこの事をお伝えすれば、同様の対応をなさるかと」

「ならいいわ。後はお願い。ヨーコ、戻るわよ」


 何が何やらわからないうちに二人の話は進み、私はアズール女史に腰を抱かれ、またしても視界が暗転。

 気がつけば、お世話になってるアズールさん家ノロビーであった。


「……で、アレ・・にどんな問題が?」


 転移魔法、と言うやつで帰宅した私は、そのままアズール女史に引きずられ彼女の部屋に連れ込まれた。

 部屋までの途中で会った執事な人のジーヴスさんにも「暫く人払いを」と告げた彼女の言葉により、誰も近寄らない状態になっている。

 私の問いかけに、アズール女史は深くため息を吐き、視線を彷徨わせてから意を決したようにこう言った。


「魔導装具製作者って言うのはね、今じゃ伝説にしか残ってない称号なのよ」


 ……ぉぅぃぇ。


 ★


「川だ! 水!」


 鈴木太郎から言われた街道の先にある集落に向かう途中、俺は街道沿いから少し離れたところに小さな川を発見した。

 その川のすぐ側には踏み固められて広場のようになった草の生えない場所があり、どうやら旅をする人達の休憩だか宿営の場となっている様子で、結構な轍やら焚き火の跡が其処此処に残っていた。

 狩った動物を食って腹は膨れたが、水分補給が食い物に含まれてる水分だけだった俺は、思わず駆け出して飲もうとしゃがみこんだが。


『生水は身体に悪いよ?』

「うっ……それは確かに」


 鈴木太郎の一言で、顔をつけるのを思いとどまったのである。

 なにせ野生の小動物ですら、寄生虫やらで病原体の宝庫である。

 見た感じきれいな水が流れている川だとしても、そこには何がいるやらと考えて俺は躊躇したのだ。

 水辺に素足を浸しただけで死病にかかる風土病だってあるからな!

 元の世界だって、日本住血吸虫症とか!


「何か器になるもんは……と」

『サバイバル用品は入れてたかなぁ……。水とか、僕は精霊魔法で出してたし』

「クソ便利で良さそうだよなそれ」


 水がどこでも手に入るとか正直この状況下だと羨ましいを通り越してムカつくレベルである。

 俺は水を組んで煮沸消毒してから飲むべきだと考えたのだが、残念ながらそのための器がない。

 どうしたものかと悩んでいたのだが。


『神聖魔法使えるようになったんだよね? 清浄化クリーナーとか使えないの?』

「あー、どうだろ」


 神聖魔法が使えるようになった、とは言っても、俺が覚えたのは健康状態を知るための奴だったのだ。


「変な病気にかかってたら嫌だなぁ、と思ったら頭ん中でピコーンとか鳴って使えるようになっただけだからのう……」

『僕は神聖魔法使えなかったからそのへんわっかんないな。仲間に最高位の神官が居たから不便なかったけど』


 さすが建国王の仲間はハイスペックじゃのう。

 それはともかく、使えるのだろうか。

 そう思って目を閉じて、神聖魔法に初めて目覚めたつい先程のことを思い起こす。

 すると、脳裏に浮かぶのは『精密検査センス・デジーズ』『負傷ウーンズ』『負傷治癒キュア・ウーンズ』『発狂アンサニティ』『平常心サニティ』『清浄化クリーナー』……。

 あれ?

 もう一度よく見る。

精密検査センス・デジーズ』『負傷ウーンズ』『負傷治癒キュア・ウーンズ』『発狂アンサニティ』『平常心サニティ』『清浄化クリーナー


「……なあ」

『どしたん』

「この世界の神様ってどんなんがおるん?」

『ん? んー、世界を作った創造神を含めた三柱が大神って呼ばれてて、あとは従属神だったかな。大神が創造神と、慈愛の女神と、聖なる混沌神って言うの』

「……混沌かー、混沌神かー」

『え、もしかして君の使えるようになった神聖魔法って、【聖なる混沌】コウライールの奴!? マジで!?』


 すっごいじゃん、レアじゃん!とか言う鈴木太郎。

 レアとか知らんがな。うっせえ。どっちかって言うとこの神聖魔法、ダークプリースト寄りじゃねえか!

 まあ使えるもんは使うけども。

 何だよこれ、汝の為したいように為すがよいとか言われたりしないだろうな。


「清浄化」


 もうどうにでもなれと、手ですくった水に一回一回神聖魔法を使い、ガバガバ飲んでやった。

 水は冷たくて美味かったです(小並感)

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