第17話 なんとかしてみた
で。
伝家の宝刀『光の剣(仮名)』ですけども。
アレ使いこなすには、馬鹿みたいな魔力総量を持った上で、なおかつ馬鹿みたいな魔力出力を持っていないと常用できない事が判明した訳ですが。
「なんとか使えるように出来ないか、と言われても」
そりゃあ、魔力をすごい勢いで消費するわけですから、常人に無理なのは仕方ないとして。
ソレをどうにか使えるようにするためには。
「まあ、リミッター付けるのが一番手っ取り早いっちゃ手っ取り早いんだけども」
けれど、それでは起動は出来ても発動させることが出来ない人には扱えないわけで。
魔力を光に変えてるわけだから、ソレの変換効率をどうにかしてやればなんとかなる、のかしらん。
「というわけで、なんとかしてみた」
「……出来たのか」
「いやまあ、私が自分で試してみただけなんで、他の人が出来るかどうかわかんないんですよね」
この剣、使用者の魔力をそのまま光に変換してたんだけれど、それが馬鹿魔力食いの原因なのである。
そこでちょいとオマケを付けた。
柄の部分、剣が魔力を吸うための機能がついてるんだけど、そこにカバーを被せた。
そんでカバーには、魔力の蓄積を行う機能を付与してだな。
起動したら魔力の吸い出しを開始、発動時に蓄積した魔力を剣に送り込むという寸法である。
「誰か、魔力総量と魔力放出なんかが能力的に常人程度の方っています?」
「ふむ……」
エルフのお二人では試験にならない。
私以上に魔力量も放出量も高いだろうから。
できるだけ余人には知られたくないから、早々気安くそこら辺の人にさせるわけにも行かないんだよなと考えていると。
「ガルネーレ、試してみてくれ」
「はい、では僭越ながら……」
ガルネーレ氏が、タールベルク卿に言われて一歩進み出てきたのである。
つか、ガルネーレ氏って魔力とかに関して普通の人なんだ?
てっきり、ねえ?
私が驚いて彼を見ていると、「何か?」と相変わらずの無表情で尋ねられてしまったが、私は知らん顔で光の剣を彼に手渡し、使い方を伝えた。
そして。
「起動」
ガルネーレ氏が剣を両手で構えそう呟くと、じわり、と剣の周囲に光の粒が纏わりつき始めた。
急激な魔力吸収を抑えたため、起動も若干ゆっくりになっている。
が、違和感はない。
元々は弾けるように光の粒が舞い始めていたが、それは私くらいの魔力量があってこそで、百年前の女王陛下の時はそうではなかったのだとタールベルク卿は語ってくれていた。
ココまでは魔力さえ持っていれば誰だって可能、なはずだ。
剣の柄を覆うように取り付けたカバーは極薄のため、握り具合にも変わりはないはずである。
その柄のカバーには、起動すると同時に淡い光の線が走り、そこを更に光量を増した光の粒が魔力を蓄積する為に付け加えたカバーの端、ちょうど柄頭の部分に新たに取り付けた魔晶結石へと向かって集まっていく。
なお魔晶結石は私の持ち出しだ。
まあアクリルの端材だから元のお値段なんてお察しだけれど。
付けたおまけ部分、起動して暫く経つと、そのアクリル製の魔晶結石(笑)が徐々に光を帯び始める。
魔力の蓄積の目印になるように、そういう付与を付けたのである。
起動してない時は白、魔力蓄積が発動領域に達してない時は赤い点滅。
そして発動可能になったら当然の青である。
なお、使用者にだけ聞こえるように音が鳴るようにしてある。
音源は、趣味で買ったカップ麺用タイマーからスマホに録音していたのを流用。
このタイマー、起動したら変身時の音が鳴り、三分が目前になったら例の音が鳴りはじめて、時間が来たら「シ゛ェア゛!」って言ってトドメの光線発射の音が鳴るのだ。
お気に入りであった。
使いすぎて壊れたんだよね、残念。
それはさておき。
「どんなもんかな?」
「そうですな。魔力の消耗は徐々に、と言ったところですが確実に持っていかれているのが分かりますな」
魔晶結石を覗くと、ユックリとした赤い点滅状態である。
もうじき発動領域にまで貯まるだろう。
「じゃあそれが青くなったら、発動させてみてね」
「かしこまりました」
そうこうしているうちに、魔晶結石に輝きが青に変わる。
ガルネーレ氏はこちらをちらりと見た後頷き、光の剣を発動させた。
「おお、これは」
「うん、成功かな」
目の前では、ガルネーレさんが元気に剣を振る姿が!
いやまあ、魔力を貯める機能つけて、備蓄魔力から高出力で発動させられるだけの能力を付けても、流石にあのバカ魔力消費には対応できなかったので。
これが意外に高評価。
剣身の周囲にだけ光を纏わりつかせるだけになったけれど、その分魔力消費は抑えられるし使用者本人の感覚的にも元々の剣と変わりないように扱えるわけですわ。
「一度発動してしまえば、十分実用にも耐えられる程度には、保つかしら」
「そうだな。アレならば、王が何を切るにしても格好はつくだろう」
あーやれやれ、なんとかなってよかった。なお、出力調整は柄頭の魔晶結石を捻って切り替えである。
出力選択の切り替えは常人向けのα、ちょっと魔力の多い人向けのβ、リミッター解除のΩの三段階にしてある。
三段階目がγじゃなくいきなりΩなのは趣味だ。
いい仕事したわー。
★
「おい、鈴木太郎」
『どしたんミハエルくん』
「右に曲がったら集落があるって言ってたよな」
『言ったね』
「どれっくらい先にあるんだ?」
草原を進んだ先に、確かに街道はあった。
だがしかし、俺の目の前に広がる草原を貫くように存在している街道は、真っ直ぐに地平線まで伸びていた。
何キロあるんだよその集落まで。
『うーん? 確か馬車で2日ほど?』
「遠いわっ!」
ほんのすぐそこみたいな感じで言ってたくせに!
あーはらへった……。
『おなか減ったんだ?』
「昨日の晩から飲まず食わずなんだぞ、いい加減腹も減るわ」
『一日くらい飲まず食わずでも死なないって。僕の時なんてあそこから一週間ぐらい人里にたどり着けなかったんだから』
「お、おう……そうか」
ココに至るまでに、彼の武勇伝というか、異世界にやってきた頃の話を聞きつつ、元の世界の漫画やアニメの続きを話しつつ歩いてきたのだが。
この鈴木太郎氏、恐ろしいほどに酷い目にあってきた模様。
異世界にたった一人で放り出されて、いきなり魔獣とやらに襲われて魔力が暴走。
精霊やら何やらがその暴走した魔力につられて更にてんやわんやの大騒ぎになって生まれたのが、あの墓がある場所だそうだ。
『あの森と山、麓から見たら上が平らな小山みたいに見えるでしょ?』
「ああ、テーブルみたいだよな」
『あそこ、クレーターみたいになってるんだ。僕の魔力爆発のせいで』
「お、おう。そりゃすげえな」
歩く天災かよ。
流石にその中心部で墓は作れんかった、というか墓参りが大変だからと入口付近で勘弁したそうだ。
自分の魔力爆発のせいでクレーターやら山やら森やらが出来たせいで、外に出るのもままならなかった上に、その魔力爆発で生まれたクレーターが魔力溜まりとなって魔獣が寄ってくるという悪循環が起こり、それを相手しているうちに、やっと外に出れて、ソコを調査しに来た人達に回収してもらったんだと。
数奇な運命だねえ。
「で、その回収してもらった時に、馬車で2日か」
『そうだね。昼に回収してもらって、ついたのが翌朝だったかな? なんでも緊急事態だから夜の間も馬を替えて走らせてたから、普通ならそれくらいだと思う』
「緊急事態、ねぇ」
地形が変わるほどの魔力暴走を起こす身元不明の男、となりゃそりゃ緊急事態だわな。
爆弾抱えてるようなもんだ。
「て言うか、その見つけてもらうまで四日?五日?くらいは飲まず食わずか。きつかったろうなぁ」
『いや、普通に襲ってきた魔獣を殺して焼いて食ってた』
「ワイルドだなおい!」
『結構美味しいんだ、味付けしなくても。まあ空腹が最大の調味料だったんだろうけどね。あ、ほらアソコ』
「ん?」
そう言って奴が示した先には、草むらの中から頭だけだして周囲をキョロキョロと見回す小動物が数匹いた。
「プレーリードッグみたいな奴だな」
『アレ結構美味しいんだ。すぐ逃げるけど』
「なんでもいいから食いたいとはいえ、いきなり動物捕まえろは厳しいなぁ」
『走って追いかけて捕まえられるけど?』
「マジかっ」
捕まえられた。
というか、俺の足めっちゃ速くなってる。
『うん、君は体力系が向上してるみたいだね』
「何だよそれ」
『僕は魔力総量と出力に――いわゆるあれだよ、海と大地の狭間の世界に行ったらそこの人間よりも能力が、的なアレ』
「……ああ、なるほどオーラが凄い的なやつか」
どこの聖なる戦士様だ、と思いつつ。
こいつの時代にはなろう小説的な展開なんて欠片もなかったんだっけか、と首を傾げた。
それだけでわかるくらい読んでる俺が言うのも何だがな。
しかしこの鈴木太郎。
異世界特典が凄まじかった。
いわゆるステータス、魔力とか体力とか素早さとかああいう奴が全て、軒並み常人の数十倍とかいうデタラメさ加減。
で、俺はといえば体力関連が同じくらいの数値じゃないか、という話だった。
魔力はあんまりないらしい。と言っても常人の数倍はあるんだとさ。
魔法使ってみたい。
『そういう特典的なのを持ってないと、ちゃんと習ってからでなきゃ暴発するよ?』
「……ちゃんと習ってからにするわ」
鈴木太郎がくれたカバンに入っていた着火の指輪で火を熾し、プレリードッグ的な動物を焼いて食った。
捌き方も鈴木が教えてくれたのだが。
『あ、たまに野兎病みたいなのを持ってるから、素手で触るのはお勧めしないよ』
「先に言え!」
捌いてる奴からノミやらなにやらが飛び出して手を噛まれたりしたから、下手したら感染してるかもねとか気楽に言うな。
……。
神聖魔法が使えるようになった。
『やっぱ命の危険が能力発現の鍵だよね』
「うるせえよ」
こうしてなんとか腹が膨れた俺は、再び集落目指して歩き出したのであった。
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