第16話 剣と剣を集めてもっと剣にしましょ
鍛冶屋じゃねーって言ってるのに、相方の剣云々の事を考えていたのがポロッと口から溢れてたのかして、懇願された。
「コレに追加で付与するだけなら! なんとかならないか!?」
と。
切れ味とかなんでもいいから付与できないかと言われてもなー。
わたしゃ適当にアイテムの素材同士をくっつけてる訳だけど、それでいてなんでも付与できるわけじゃあない。
どうやら素材同士の相性とか素材のキャパシティってのを、なんとなく感じてそこに詰め込んでいる感じなので。
こないだ作った指輪とかアズール・デービッド夫妻向け装飾品とかにしても、一つには入り切らなかったからこそのああいう形なわけで。
「んー、っと」
宝剣をじっと見る。
じーっと見る、が。
「駄目、無理。これ以上付与付けたら剣が保たない」
過積載、みたいなもんである。
付与をのっけたとしても、きっと振るう段階で壊れる。
見せびらかしてる時にソレが起きたら元も子もないだろうし。
「旦那様、よろしいでしょうか」
「ん?どうしたガルネーレ」
これまで無言であった執事のガルネーレさんが、恭しくタールベルク卿に声をかけたのである。
「僭越ながら、新たな剣を宝剣を模して一振りお作りになって、付与していただけばよいだけなのでは?」
「いやソレは既に考えたのだがな。しかし、この剣も本来のものに比べてなまくらとは言え、物自体は超硬ミスリル合金だ。素材が早々手に入らんのだ」
「左様でございましたか……」
超硬ミスリル合金とかなにそれ凄そう。
高速度アダマンタイト鋼とか焼結緋々色金とかもありそう。
というかあって欲しい。
「超硬ミスリル合金って、そんなに手に入らないもんなんですか?」
なんか普通にエルフの里とかドワーフの里とかにはありそうな感じなのに。
「うむ、超硬ミスリル合金は素材の主原料はミスリル銀なのだがね……」
タールベルク卿が、私の問いかけに答えて語ってくれた話によると。
ミスリル銀自体は然程珍しい金属ではないらしい。
ただお高いだけで。
それを超硬ミスリル合金に錬成するにあたって、触媒とか配合する材料の入手に時間がかかるんだそうな。
「後学のためにその原材料と配合比とか伺ってもよろしいでしょうか」
「うむ? ああ、別に秘匿されている訳でもないから構わんよ」
そうして教えて貰った原材料。
ミスリル銀100に対して重量比で暴風龍の牙3、青炎鳳凰の肝1、大王陸亀の甲殻1、水虎の爪1だとか。
なんとなく素材が手に入らない理由がわかりました。
どいつもこいつも多分幻獣とか神獣とかいうやつですね分かりますん。
「そうなのだ。たろー……初代はすっぱすっぱ切り倒してたが、普通は無理だから……」
「ですよね」
やっぱチートだ、鈴木太郎氏。
しかし、そんなチートでオレTUEEEE系の人でも寿命が来たら死ぬんだなぁ、と少し諸行無常を感じてしまった。
いや、目の前に二人ほど永遠存在ぽい種族居るけど。
「うーん……ん?」
そうだよ今がどうあれ形は代わり永遠のものじゃないんだよな。
別に、今の宝剣に付与付け足す必要ないじゃん。
そう考えて、宝剣から付与外して素の状態に戻してやろうかと改めて手に取ろうとしたところ。
アズール女史とタールベルク卿の二人がソレを察したのか涙目で宝剣にしがみつくようにして「流石にソレはやめて」といわれてしまった。
なまくらとは言え、初代の手による物に付け足すのはまだしも無かった事にされるのは辛いらしい。
しかし、なまくら……だよなぁ。
なにせ刃がついてないんだもの。
しかし、鈴木太郎氏も何を考えてこんな見た目だけの剣を渡したのやら。
……ん?
んー?
「タールベルク卿は、この剣を起動させてみたことはあるんですよね?」
「ソレは勿論。前回の女王陛下がご使用になられる際にもね」
うーん?
「起動、させてみていいですか?」
「ああ、構わんよ。起動の方法はわかるかね?」
わかりますとも。
持てば、なんとなく。
さて。
「光よ」
ぶいん、という音とともに、剣身がキラキラと光を放ち始める。
うん、イルミネーション的に綺麗。
振ってみる。
光の粒が剣の軌跡を残す感じで見た目も綺麗。
「うむ、女王陛下が民草に見せびらかした時もこうだったな」
ウンウン、とうなずきながら私の拙い剣の舞を見つめるタールベルク卿。
で、私は気がついていた。
これ、ただの待機状態じゃん、と。
「あの、ちょっと広い所に出てもいいですかね?」
「うん? ああ、確かに振り回すにはいささか物が多すぎるな」
そうじゃないんだけどね。
と言う間もなく、三度視界が暗転した。
今度は何処だと見渡すと、元のタールベルク卿のお屋敷だった。
「さて、ここなら構わんだろう」
「……いえ、一応外に出ていいですか?」
「む? まあ外部の者に見られることもない。構わんよ」
広いお屋敷の、広いロビーで天井も高い、が。
念には念を入れよう。
キラキラ光っている剣を手に、私はお屋敷の巨大な扉を開けてもらい、外に出た。前庭広い。流石だ。
当然ついてくるお三方であるが。
「ちょっと、そのあたりで止まっておいてください。あ、別に持ち逃げとかしませんから」
「いやそんな心配はしていないが……」
「んじゃ、やります」
キラキラ光っている剣を手に、天を衝く形に振り上げる。
「発動」
ボッ!と。
音を発するかの如き勢いで、剣身を取り巻いていた光の粒が一点に収束して、
その長さ、数メートル。
幅も通常時の倍ほどに広がっていた。
「……な、なんと」
「凄い……」
相変わらず無言無表情のガルネーレ氏を除いて、どちらも驚きの表情を見せていた。
そりゃまあ驚くわな。
私だって驚いた。
「うーむ、こりゃ凄いけど、実用性悪そう」
振ってみると、ブインブインという音がする。
まさに光の剣である。
ある意味王権の象徴とするには最適なのかもしれない。
でも、光の剣って、物を切るのは出来ても相手の剣を受けたりできなさそうよね。
ぶった切れたら良いけど、切れなかったら素通ししそう。
普通に磨き抜かれた剣って光反射しそうだし。
それに、だ。
「めっちゃ疲れるわこれ」
光を放ち続けていると、めちゃくちゃしんどい。
体力と言うんじゃなく、気力が続かん。
ああ、これが魔力消費の感覚なのかしらん?
っていうか、私魔力結構ある的なこと言われてたような気がする。
それでもこれ?
燃費悪いってLevelじゃなくね?
そんなことを言いながら電源を落として――じゃなくて、魔力の供給を止めて、剣をタールベルク卿に預けた。
「……ヨーコで数十秒しか維持できないって、普通の人だと起動するのがやっとなんじゃ」
「なるほど、そういう事か……」
なんか納得された。
代々の王様、ちゃんと発動させられるだけの魔力量というか魔力を供給出来るだけの出力がなかったんだな、と言うことらしい。
いわゆる魔力の備蓄総量がバケツであれ風呂桶であれ25メートルプールであれ、一度に出せる量がコップ一杯程度だったらどれも変わらないよね、と言う話だと。
それで例えるなら、これ起動させるのはコップ一杯分ですむけど、今みたいな光の剣状態にするには消防車の放水レベルが最低でも必要な感じだった。
と言うか初代。鈴木氏。ちゃんと使い方書いとけや、どこぞの虚無魔法の初代並みに抜けてるのか貴様は。
「それはそれとして、今の王様、どんなけ魔力持ってんのかしら」
そう呟いた私に、誰も答えを返してはくれませんでした。
まあそういうことなんだろう。
私的には素材があんなにトンデモな代物なのに、発光と劣化防止だけってのがおかしいとは思ってたのよ、うん。
★
「で、どっちに向かえばいい?」
『どっちに向かえばって、奥さん探すのにってこと?』
「いや、ソレが最優先なのは確かにそうなんだけども。先ずは人里にたどり着きたい。なにせこちとら生身なもんで」
『あー、そりゃね。ご飯とかいるよね。僕すっかり忘れてるからね、そーゆーあたり』
鈴木太郎氏の墓からとりあえず移動を開始する。
空も明るくなってきた事だし、移動に差し支えはないだろうと言う話だからだ。
『それなら向こうに道があるから、そこ通っていけば森からは割とすぐ抜けられるよ?』
「そりゃそうか。墓参りに来る人用に道くらいあるわな」
『……まあ、来てくれるのなんて悪友ぐらいだったみたいだけどね』
墓に供えられていた、萎れた花束を振り返って見つめる。
割と最近誰かが来てたみたいだけど、その人かな?
そう思ったのがわかったのか、太郎氏はカバンから覗かせた顔を墓に向け、こう言った。
『夜に墓参りに来てくれたら挨拶くらいできるんだけどねぇ。日が昇ると僕、起きてられなかったし。流石に……』
「まあ墓参りに夜はないわ。肝試しくらいだろ、夜に墓場とかくんの」
『だよねぇ……』
そんなどうしようもない事を話しながら、俺は森を抜けるべく足を進めた。
割りと歩きやすかったこともあり、小一時間ほどで森を抜け、草原へと出たのだが。
「なんでこんな短い距離を俺は一晩中延々と……」
『まあしょうがないよ……僕も最初は泣きながら歩き回った口だしね』
異世界に来たら、誰もが一度は通る道、なのかもしれない。
異世界に来ることなんて例がどれだけあるねんって話だけどな!
『この草原を森を背にまっすぐ進んだら街道にぶつかる筈だから、右に行けば小さな集落があるはずだよ』
「100年以上前の情報がどこまで当てになるかだな」
『まあソレはそうだけどね。発展してることに期待しようじゃないか。僕の作った国だしね』
「そこに関しちゃ素直に敬意を表するわ」
そんな感じで、俺と鈴木太郎との二人? 旅は始まったのである。
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