第15話 伝家の宝刀
ゴリ押しされた。
お願いだからと。
と言うか、途中でアズール女史もやってきて、最初は怒り心頭だったのだが、事情を聞かされたのかして手伝って上げてくれと言われた。
「しかたないなあ」
「おお、ありがたい!」
そう答えた途端、また視界が暗転した。
今度はよくわからん暗い場所だったけど、誰かの呟きと共に明かりが灯ると、そこは豪華絢爛な金銀財宝がずらりと並べられている、宝物庫と思われる一室であった。
「ここは?」
ぐるぅりと見回すと、財宝だけではなく、様々な魔道具も置かれているのがわかる。
その内のどれかを弄れ、ということなのだろうか。
そう思っていると、タールベルク卿がガルネーレと呼んでいた執事っぽい人とアズール女史を伴ってすぐ側に現れた。
「ここは、王城の宝物庫だ。私が管理を請け負っているのだがね」
そう語り始めたタールベルク卿。
彼の表情には先程までとは打って変わった焦燥感が見受けられた。
曰く、もうしばらくすると建国二百周年の催事が執り行われるのだという。
そういえば、この国ができてもうじき二百年とか言ってたな、と頷く私。
それで魔道具弄るのと建国記念のお祭りとがどう関わるのかと不思議に思っていたのだが。
「建国王が残した宝剣が、偽物ではないかと問題になってね……」
「それは、ちょっと流石にまずいのでは?」
いわゆる伝家の宝刀である。
日本で言ったら三種の神器みたいなもんか?
それが偽物とな。
「いや、本物なのは間違いないんだよ。初代が二代目に渡す所を私がこの目で見ているからね」
「はあ、なるほど」
では何がいかんのか。
実際に見てみることに。
「これですか」
「どうかね? 私達には、何かが付与されている、としかわからんのだよ」
「どう? 何かわかる?」
何かはわかる。
わかるが言っても良いものやら。
「何がどうあれ、君に責が行くことはない。なにせ、ココに来たことすら内密だからね」
「……それはそれで怖いですが」
後腐れもないってことだよねそれ!
まあ今さらか。
いざと成れば手持ちの魔道具フル装備して逃げ出そうそうしよう。
「えー、正直に申し上げますと」
宝剣を両手に捧げ持つような姿勢で、私は恭しく彼らに向き直った。
「これ、発光と劣化防止の付与しかされてません、ただのなまくらです」
「やはりか」
あれ? がっかりしてぶっ倒れるとかそういうリアクション想像してたんだけど。
割りと想像付いてたのね。
「王が……いや、初代が使ってた剣は、これとは造形がまるで違っていてな。譲り渡す際に打ち直したのかと思っていたのだが」
「はあ」
どうも、初代――要するにあの鈴木太郎氏――がこの国を二代目に譲る時に、王権と共に王の象徴とも言える剣を一緒に譲り渡した、はずだったそうな。
で、王の剣を使える者こそ次代の王、という事でこれまでやってきてたんだけれど。
「この前の百年祭では、その剣を振るって見せただけで特に問題はなかったのだが」
「覚えてます、王城のテラスで当時の――女王陛下でしたか、彼女が剣を振るって光り輝く軌跡を集まった国民達に見せびらかしてましたわね」
……およそ百年前をこの前とか。
さすが長命種族。
いやそれは良いけれど、そんな風に見せびらかすもんじゃないだろ普通。
ノリの良い女王様だった?
いや、そう言う人嫌いじゃないけど、時と! 事情を! 考えろよ!
んでなにか、今度の二百年祭では、その剣の切れ味か何かをパフォーマンスしたいのかそういうことか。
「そうなのだ。当時、調子に乗った女王陛下がそのようなことを申されてな」
「馬鹿かその女王。言ってみりゃ王家の秘密兵器を見せびらかすとか何考えてんの!?」
「いや、百年も経てばそんな事を覚えている者もいないと私も思っていたのだが……古い文献を引っ張り出したものがいてな……」
今代の王様がその引っ張り出した本人だという。
いらんことを。
「で? その剣を使って民衆にパフォーマンス見せたいから用意してと頼まれた、と?」
「……少しちがうな。初代の王が使っていた剣が、伝承に残る程の剣ならば、ソレを知らしめたいと申されている」
「……もっと質が悪かった」
言ってみりゃ砲艦外交である。
俺んトコこんなすっげえ武器あるんだぜ! 的に周辺国家に脅しをかける意味合いのあれだ。
喧嘩する相手にこちらの武力を見せて、喧嘩するとただじゃすまないぜ、気ぃつけろよ! と予防線を張る意味もあるが。
「この国、外交的にはどんな感じなんですか?」
「……隣国との関係自体はここ数十年これと言って問題はない。魔の森が間にあるからな」
「ウチの街の側にある森がソレね。その森とその先の山地が国境地帯になるわ」
いつの間にか用意されたテーブルと椅子に座り、私たちは丁寧に淹れられたお茶を頂いている。
執事さんどこでこれ用意したの? と思わず尋ねそうになったが、この宝物庫には隅っこに給湯設備が置かれていた。
どうもソレも初代が残した魔道具っぽい。
何でも作ってるな鈴木さん。
「で、コレを振り回して何をぶった切りたいんですか?」
「うむ……どうやら初代が倒したと言われている、幻獣や神獣の類を切り伏せたいらしい」
「馬鹿じゃないですか? 今の国王」
幻獣とか神獣ってなんやねん。
魔獣ですらあれだけ手間かかってるのに?
タールベルク卿もアズール女史も、困り顔でため息吐きまくりである。
ガルネーレさんだけが我関せずと優雅にお茶のおかわりをいれてくれる。
「えーと、要するに。この剣をその神獣とか幻獣をぶった切れるようにすりゃいいんですね?」
「出来るかね」
「出来ません」
出来るかそんな事。
わたしゃ魔道具作るのが専門であってだな、魔法剣とか門外漢ですわ。
あ、でも相方に作ってやった剣とかこっち持ってきたらどんな感じなんだろ。
武器としてちゃんと使えるんだろうか。
★
「ほれ、入れ」
『いや、入れって言われてもその、ねえ?』
ねえ? じゃないが。
外出たいんでしょう?
連れてったるからさっさと入れ。
ちがう、棺じゃねえ。
「いいからカバンの中にさっさと入れって言ってるでしょーが」
『いやいや、そのカバンは生き物は入れらんないから! 無理に入れようとしたら弾き飛ばされるから!』
「骨じゃん。生きてないじゃん」
『そう言われりゃそうだけど』
「いいから入れッ!」
入った。
ほら見ろ入るじゃないか。
死ぬまでにいけなかった所に行ってみたいとか抜かすこの鈴木太郎氏を、俺は連れてってやることにした。
その話をしたところ、一旦は喜んだ骨氏だったが、どうやってと聞かれて「カバンに詰めて」と答えた所、拒否し始めた。
せめて棺ごと持っていって! とか贅沢言い始めた。
やだよ棺引っ張るとか、どっかのRPGかよ。どこのマカロニウエスタンだよ。
ガトリング砲入れて引っ張るならちょっと気持ち的に惹かれるけど!
骨入れてとか勘弁して。
「まあ、これで何処にでも連れてけるだろ」
『いやまあ、ありがたいっちゃありがたいんだけどさぁ……もうちょっと……あれ?』
「うわっ!?」
手元から返事が聞こえてきたと思ったら、カバンの縁からちっこい人の顔が飛び出して喋ってた。
……カバンを持ち上げて顔をつき合わしてみる。
「誰? あんた」
『えーと、鈴木ですけど?』
骨じゃねえ。
と言うか、でっふぉーるめされた半透明な人の顔をカバンの端から覗かせていた。
『うわ、なんだコレ!』
「……まあいいか。しかし、ドコゾの亀の鍵みたいな事になってんな……」
『亀の鍵って?』
「J◯J◯だよ。知らねえか?」
『ああ、中に入れる亀? 知ってる知ってる。あれ、どんな最終回だったの』
「……まだ続いてる」
『マジでッ!?』
そんな感じで、俺と鈴木太郎の旅が始まったのである。
嫁ぇ、どこにおるんやー?
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